好きになったのがちょっと年上で先生だっただけ

大空蒼

#2-2 恋バナ

「夏祭り! 来月あるでしょ? あたし先輩に誘われちゃってさあ~」
 先輩というのは、この学校一のイケメンと言われているサッカー部の3年生だ。茉鈴とは同じ中学らしいが、去年から付き合い始めたと聞いている。茉鈴も茉鈴で学校一の美少女と言われるほどだから、美男美女カップルとして校内ではかなり有名だった。
「む、惚気か! でも、良かったじゃん。やっぱそう来なくちゃね。で、最近どうなのよ」
「仲良くやってるよ~」
 えへへ、と笑みをこぼす茉鈴は本当に幸せそう。いいなあ、青春。
「でも、先輩今年受験だから最近はあんまりLINEとかしてないし、夏祭り終わったらデートもしばらくは……」
「ああ、そうだよねえ。その代わり、にはならないかもしれないけど、私たちといっぱい遊ぼ!? てかてか夏祭り気合い入れてかなきゃじゃん! 浴衣は?」
 梨花の勢いに、向かい合った私と柚季は密かに目を合わせて笑った。梨花は相談事、特に恋バナとなるといつもこうだった。
「あ、そうなの。浴衣、新しく買おうと思うんだけど、どんなのがいいかなって迷ってて……」
「了解! 買いに行こう! いつ空いてる?」
「わわわ、ありがとう! えっとね、今週の土日空いてるよ」
「うちも行きたい! 土曜日部活あるけど、日曜なら行けるよ!」
「私も空いてる」
「ほんと? じゃあ日曜日に4人で行こ!」
「みんなありがとう~」
あっという間にショッピングの予定が決まった。またひとつ、楽しみが増える。
「ところで~、柚は夏祭りのご予定は?」
「うちはバレー部のみんなと行くよ! 茉鈴みたいに誘ってくれるイケメンいませんから~」
 柚季は口を尖らせて茉鈴をじとーっとにらむ。茉鈴はひるむ様子もなく、にやにやしながら質問を重ねる。
「例の彼は? 誘ってみたりしないの?」
「……そんな勇気あるわけないって」
「きゃー! 柚ちゃんってば可愛いー!」
 少し顔を赤くしてうつむきがちになった柚季のショートカットを、茉鈴の手がわしゃわしゃと撫で回した。茉鈴の周りにはハートマークが飛んでいるのが見えそうだ。
「ちょ、茉鈴~!」
「だって柚かわいーんだもーん♪」
 キャッキャッとはしゃぐふたり、いや、はしゃいでるのは茉鈴だけ? を見ながら、梨花がつぶやく。
「でも、お似合いだと思うんだけどなあ、柚季と高村君」
 私も心の中で、去年同じクラスだった彼を思い浮かべる。クラスのムードメーカーだった、スラっと背が高い、陸上部の高村君。隣の席の柚季と楽しそうに喋っていた姿。
「だよねえ、私もそう思う。爽やかカップルって感じになりそう」
「うーん、そう言ってもらえると嬉しいけどさあ、やっぱ断られたら怖いし」
 やっと茉鈴の手から解放された柚季のその表情も、恋する乙女そのものって感じがする。
「んー、そうだよね。確かにふたり仲良いし、その分このままが居心地いいっていうか……」
 梨花の言葉に柚季はそうそう! と頷いた。
「こっちから行ってこの関係を壊しちゃうのはなって思って……」
「わかる、わかるよ柚季。高村君の方から誘ってくれたらいいんだけどね!」
「そうなったら嬉しいけど、まあ夢だな……」
 はあ、と柚季が大きなため息をつく。と、私の方に目を向けた。目が合って、少し身体に力が入った。

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