俺、ラノベ主人公の友人に転生してしまいました。

かりあん

第1話 俺、転生しました。

「…はっ」
俺、水瀬湊人みずせみなと20歳は目覚めた。
「…痛くない、だと?」
最後の記憶が信号待ちに何かにぶつかり意識がなくなったことだった。なのに何故痛くないんだろうか。
まだ現状を受け入れられずにいると、扉の外から女の子の声が聞こえた。
「お兄ちゃん、まだ寝てるの?遅刻するよ」
お兄ちゃん、だと?おいおい、俺は末っ子だぞ。身内なはずなのに知らない人の存在混乱していると、その子がまた話してくる。
「あーもう入るね。お兄ちゃん起きて」
そう言い入って来た子は、可愛い女の子だった。見た目は中学生くらいだろうか。
待て、いや誰だこいつ。親父の隠し子か?
誰かはわからんが、いい加減返答しないと彼女に失礼だ。まずは情報を入手するために、会話を進めよう。にしてもいい言葉が思い浮かばん。
「どちら様ですか」
「え、ちょっと何言ってるの、変なこと言ってないで早く起きて」
この反応はなんだ?ますます混乱する。
「もしかして前に会ったことある?」
「毎日会ってるでしょ家族なんだし。ほら起きた起きた」
そう言われて布団を剥がされた。この子、僕の家族ということは妹なのだろうか。しかし体に異常がない以上動かなければならぬ。えっ?どこに?とりあえず自称・僕の妹についていき、リビングで朝食を摂る。
少し考えを整理しよう。遅刻する、と自称妹が言っていた。ということは…
「今日学校がある、ということか?」
「当たり前じゃん何ばかなこといってるの?高校生として恥ずかしくないの?」
いかん。知らず知らずのうちに言葉が出ていたか。しかしこの喋り方、どこかで聞いたことがある。そしてなにより、20歳大学生だったはずの俺がなんと高校生になっているという重要な情報を手に入れた。時間を遡ることは本来ありえないが、現に起こってしまっている。
…ひょっとしたら、今の俺は水瀬湊人ではないのかもしれない。そしたら身の覚えのない妹がいても不思議ではない。
「はぁ。しおりはとっても悲しいです」
この子はしおりという名前なのか。
………待て。その名前と一人称、なんか見覚えあるぞ!
昨日まで『ガクシン』こと『こいする学園がくえんシンドローム』を何周も読んでいた俺がその名前を聞き逃すわけがない。そうだ、お前は井原志織いはらしおりだ!主人公の友人である井原稔里いはらみのりの妹だよ!喋り方もなるほど『ガクシン』に登場する井原志織と似ているし、一人称も志織だ。となると、俺は井原稔里なのか?稔里の喋り方を再現してみる。確か…
「おい妹よ」
「なに、お兄ちゃん。やっと正気に戻った?」
「ああ。おかげさまでな。ところで俺の名前って井原稔里だっけ」
「どしたのお兄ちゃん。そうに決まっているでしょ」
ビンゴ。まじかよ。
つまり、自称・妹は限りなく井原志織である可能性が高く、俺は限りなく井原稔里である可能性が高い。可能性が高いというより、もうそう思って生きていくしかないのだ。
ちょっと待てよ。もしかしてここは『ガクシン』の世界そのものなのだろうか。たしか舞台は青葉学園あおばがくえん高校だったはずだが。
「青葉学園まではうちから…」
「そう。早く行く気になった?もう遅刻するよ。ほら急いだ急いだ」
ああ、本当に青葉学園の生徒じゃんか俺。もうなにも否定材料がない。

結論。俺は、超人気ラブコメラノベ『ガクシン』こと『こいする学園がくえんシンドローム』の主人公の友人、井原稔里いはらみのりに転生しました。

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