異世界歩きはまだ早い

a little

第十話 魔王の会議も多分こんな感じ


 「なんだ……? この奇妙な傀儡は?」
 「ワタクシ達には目もくれずに、あそこに向かっていますわね。」
 
 勇者を探しに街を出た二人の少女、ピタとトメは目の前で隊列を組みながら行進する、おもちゃの兵隊さん達を不思議そうに眺めていた。
 
 兵隊さんは足を揃えてアンデッドの群れに向かい進んでいる。
 兵隊さん達がやってくる方向をピタは向いた。
 
 「向こうの岩場から来ているようだな。」
 「なんにせよ、敵の兵でなくて良かったですわ。」
 
 そっと胸を撫で下ろす二人の前に突如、兵隊さんが数体転がり込んできた。
 どれも斬られたような跡があり完全に動きを止めている。
 
 意図的に破壊されたものだと二人は悟った。
 
 行き着く疑問は誰が壊したのか。
 
 その誰か正体はスグに知ることになる──。
 
 「そこなお嬢さん方、人口召喚石の在り処を知らないか。」
 
 刀に手をかける男とふんぞり返る少女は、虎視眈々と獲物を狙う獣のような目を二人に向けた。
 
 「ウソついたら怒るから、ちゃーんとホントのこと話すよーに。」
 「見ず知らずのあなた達に教えることはありません。」
 
 トメはそう言って道を塞いだ。
 
 「それならそれでいいけど。ねぇ? モテゾウ。」
 「ああ。立ちはだかるとあれば、鶏が如く捌くのみ。」
 
 
 長身痩躯の男の手元が一瞬輝いた。
 
 
 その光は真っ直ぐトメの喉に向かう。
 
 
 ────ガキィンッ!!
 
 
 ピタがその光にも似た刀に肉薄する。
 
 
 ピタは既に大剣ではなくダガーを使用していた。それは彼女が本気である事を意味する。
 相手がそれほど危険であると悟ったからだ。
 
 「ほう。〝視えた〟か。」
 「何が目的かは知らんが、お前達を通す気は失せた。少し付き合ってくれ。」
 
 
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 ---珖代視点---
 
 
 
 俺は薄暗いレクムの中で、俺と勇者が置かれている現状について話した。
 
 最も反応が大きかったのは聖剣の所有者についてで──。
 
 「な、なに!? では勇者殿は聖剣が使えないというのか……?」
 「……はい。」
 「そして最悪なことに、所有者に選ばれたコーダイさんも魔力がないから聖剣をすぐには使いこなせないと。」
 「聖剣が一年ほどで所有者を変更するなど前代未聞じゃないか。」「では一体、五賜卿は誰が倒すんだ。」「やっぱり、追い払うしかないんじゃないか?」
 「しかしだねぇ。」「厳しくはないか?」
 
 仕方ない事ではあるが、お偉いさん達がざわつき始めたのだ……。
 
 作戦会議とは言いつつも勇者の回復を待っていたのは、はなから勇者に任せるつもりだったからだろう。
 
 ただその勇者はすぐに戦える状態にない。おまけに聖剣が使えるのは剣術を少しかじった程度の俺だけ……。
 攻略に聖剣が必須だとしたら、倒すのは絶望的に厳しい。追い返す方針を取ろうとするのも当然だ。
 
 陽射しが当たっているのは俺の席だけなので皆から俺は見えているが、俺からは誰が誰と話しているのかよく分からない。
 
 リズが見てたアニメで、敵の幹部達が暗がりの中、卓を囲むシーンがあったりしたのを覚えているが、こう体験してみると不便でしかない。
 
 ユールに人が居ないと思わせる為の策だと言うが、さすがにカーテンは閉め切らないでよかったと思う。
 
 ──レクムにも電気、通しておくべきだったかなぁ……。
 
 今は席の順番と聞こえてくる声で判断するしかない。
 
 
 席順はたしか────
 
 
 上座、第一席 【ユール町長】
 テッペン・トッタス
 上座、第二席 【ユール元貴族領主】
 カークン・ハート・ワトシン
 上座、第三席 【王都視察団隊長】
 レオナルド・ブラックスリー
 上座、第四席 【ギルドマスター】
 オウルデルタ・バスタード
 上座、第五席 【交易商会会長】
 代理者
 上座、第六席 【ユール保安兵団長】
 オウルデルタ・ガードナー
 上座、第七席 【薬品商工会ユール代表】
 アモンド・オシモンド・スキー
 上座、第八席 【金物商工会会長】
 代理者
 上座、第九席 【きのこ商会会長】
 オカモニア・タッチポット
 上座、第十席 【S級冒険者】
 ワイルド・ソール・メン・ダットリー
 
 
 それから────
 
 
 下座、第一席 【れいザらス会長】
 レイ
 下座、第二席 【観光協会会長】
 代理者
 下座、第三席 【織物商会ユール代表】
 ウルゲロ
 下座、第四席 【レクム女主人】
 デネント・ファイヤーランド
 下座、第五席 【れいザらス店長】
 中島茂茂しげしげ
 下座、第六席 【勇者】
 水戸洸たろう
 下座、第七席 【セントバーナード】
 瀬芭栖せばす 陽姫ひなひめ
 
 そして町長との対面位置に座る、〖聖剣使い代行〗の俺がいる。
 
 下座三席より位の高い人の後ろには、秘書や補佐や用心棒などが立ち並んでいる。
 
 代理者は名前も分からないが、上座に座る数人を除けばほぼ知り合いで固まってる。これなら俺の発言も少しばかり力がありそうだ。
 
 「しかし、どう追い返すというのだ! 相手はあの五賜卿ごしきょうだぞ!」「ええい、誰か、術は知らんのか!」
 「向こうの戦力次第ではいけるのではないか?」「何を持ってそう断言できる……!」
 「断言などしていない!」「どちらにせよ使えるものは全て出すしかあるまいて。」
 「何を仰る。ここを死守する者も必要です。」「そもそも、やつ自身の強さはどの程度なんだい。」
 
 顔が隠れているので余計な貫禄がにじみ出てた重役達も、これだけ混乱していると小物感が急に出てくる。
 
 会議に若干の不安を感じていると、町長が自分の杖で床を三回小突いた。
 
 途端に場は静まり返る──。
 
 「落ち着きなさい。まずは状況を整理することが大切です。」
 「でで、でしたら、私から五賜卿について分かっていることを……よろしいですか。」
 
 そう言って手を挙げた? のは声からして中島さんだ。大舞台で震えているようだ。是非頑張って欲しい。
 
 イスを引いて、中島さんが立ち上がる。
 
 「こ、荒野にて現れたのは魔王に異形な力と兵を下賜された五賜が一、『屍の卿』グレイプ・アルデンテであります、はい。」
 「『屍(しかばね)の卿』、その名を聞くのは久しいな。」
 「確か、ラッキーストライクという名では無かったか?」
 「え、ええ、はい。おそらく、アルデンテの先代がそれに当たるかと。アルデンテは母親であるグレイプ・モリスマキナの名を語っているようですが、代替わりが正当なものであれば真名はラッキーストライク・アルデンテであると考えられます。……はい。」
 
 喋り方がしっかりしてきた。中島さんもだいぶ落ち着いてきたようで安心だ。
 
 「ラッキーストライクの血縁者の可能性もあるのか……」
 「すいません、ラッキーストライクというのは?」
 
 声からして質問を投げかけたのは勇者だろうか。俺も聞きたかったのでありがたい。
 それに誰かが答える。
 
 「五十年ほど前に存在した『屍の卿』だ。当時は国が土葬禁止令をしき、火葬したあとの骨は各家庭で保管するように御触れを出していたほど恐れられた男だ。」
 「徹底しなければ死者がところ構わず蘇り、敵のものにされてしまうからな。」
 
 ──ラッキーストライク、どこかで聞いたことあるような……
 
 「本題に、戻ります。アルデンテ軍の最大召喚人数は約二十八万。その全てがアンデッドのため、基本的に倒しきることは出来ません。また、アルデンテ本人が妖狐族を名乗っている点を考慮すると、倒すには聖属性か魔力吸収が必須だと思われます。」
 
 さすがれいザらスの諜報部隊を取りまとめている隊長代理の、(店長の)中島さんだ。
 短い時間で有益な情報を手に入れて来てくれたようだ。
 
 「二十八万……この小さな街ではとても耐えきれませんね……。」
 「敵大将が妖狐族とは……。これは想像以上にこちらが不利ということか。」
 「聖剣には妖狐を倒す条件のどちらもあるな。」
 「聖剣に期待を込めるのはやめましょう。所有者以外には能力を発揮出来ませんし、コーダイさんが可哀想だ。」
 
 俺を心配するこの声は、きのこ商会代表のタッチポットだ。きのこ商会の創設時にはかなみちゃんも関わっている……というか今もズブズブの関係なので俺との距離感もおかしくなっている。
 信頼してくれていると言った方が聞こえがいいかもしれない。
 
 「なら他に適任者がいるのか?」
 「──なら、俺が行こうか。 」
 
 そう言って師匠が立ち上がった。
 それを慌てて誰かが止めに入る。
 
 「まま待て待てっ! お主の聖域魔法はこの最後の砦を守護るのに使ってくれ!」
 「……そうか。」
 
 それに納得したのか、師匠はイスに戻った。
 俺としては師匠がS級冒険者だった事で驚きっぱなしなのに、聖域魔法なるものまで使えたとは驚いた……。
 よく分からないが聞いている限りだと不死者特攻の魔法のようだ。
 
 「あんた達、聖属性か魔力吸収に心得のある者はいないのかい?」
 「……居ねえみたいだな。」
 
 場に静けさが戻る。
 するとまた床を小突く音が鳴った。
 
 「ガードナー保安兵団長、死傷者の数はいかほどですか。」
 
 保安兵は街の見回りから門番、賞金首の清算までやってくれる、街の安全に欠かせない人たちだ。
 
 「はい。死傷者は現在二名。先ほど二人組の女性から二人の男の遺体を回収しました。鎧を纏った男とガタイの良い色黒の男です。」
 「それってまさか……角丸さんとスケインさんじゃあ……」
 
 勇者が周りに聞こえるか聞こえないか分からない程度に反応した。
 
 「女性達の話じゃ、死因は五賜卿との戦いによるものだろうってことですが検死したところ、抵抗したあとがあるのは色黒の男だけで鎧を着た方は無抵抗で殺されたものと推測します。」
 
 暗さに目が慣れてきて、近くにいる者なら表情が見えてきた。勇者が何やら考え込む姿が見える。
 
 「勇者?」
 
 一応体調も気遣って声を掛ける。
 
 「……角丸さんには大きな傷が幾つもありましたが、確かにスケインさんの身体には傷が一太刀だけでした。それと不思議に思ったんですが、頑丈な鎧ごとスケインさんが斬られてしまうほど、アルデンテの剣技はそれほど鋭くなかったと思うんです。……気のせいですかね。」
 「んー、もしかしたらチートスキルを使おうとしてたんじゃないか?」
 「チートスキル……? スケインさんは異世界組じゃないですよ。」
 
 意外な答えが勇者から返ってきた。
 
 「え、違うのか? カクマルとスケインはお前が異世界から来たことを話したらすぐ理解してくれたんだろ? カクマルも転移者って話しだし、てっきりスケインもそうなのかと思ってたよ。」
 
 一階に降りてくる前に、俺は師匠に自分達のことを語った。その中には勇者達にも触れる部分があり、勇者もこの世界での歩み方を話してくれたのだ。
 カクマルが┠ 石化 ┨を使えたのは女神からチートスキルを貰ったからだというのもその時分かった。
 
 「彼は自分のことを多くは語らず、黙ってついてくるタイプでした。知ってることと言えば小国で騎士を務めていたことくらいです。だから、スケインさんが異世界から来た可能性は否定できませんし、何かしらの秘策を隠し持っていた可能性も十分ありえるとしか……僕からは言えません。」
 「何かを使おうとして殺されたのか、使えなくて殺されたのか。それとも、もっと別の理由があったのか……とにかく、後で考えよう。」
 
 憶測だけならなんとでも思える。今は会議に集中するべきだ。
 
 また勇者の顔色が悪くなった。知らなかったことに責任でも感じているのだろうか。
 
 会議は続く──。
 
 「ちょっと待ってくれ。話に出てきた二人組の女ってのはどこに行ったんだ。」
 
 声と位置からして質問を問うているのはオールバックの金髪が特徴のレイだ。
 
 「まだ探しものがあるって言って街の外へ出て行ったよ。」
 「そいつらは敵ではないだろうな?」
 
 警戒する人物に勇者が応える。
 
 「多分、その二人は僕の仲間だと思います。彼女達には何も伝えられていないので、もしかすると僕を探しに外へ出たのかもしれません。」
 「そういうことなら、うちの暇してる連中を捜索に当たらせてあげよう。」
 
 そう名乗りを上げのはギルドマスターのバスタードさん。
 連中というのは冒険者のことだ。
 
 「それは助かります。」
 「ボスっ、少しよろしいでしょうか。」
 
 正面入り口から男が一人入ってきてレイに耳打ちをした。レイが頷くと男はそそくさと退場した。
 
 皆の視線がレイに集まる中、町長が口を開く。
 
 「レイ代表、何か伝えるべきことはあるかね。」
 「送っていた斥候から情報が届いた。現在、敵大将アルデンテと『きのこ狩りのリズ』が交戦中。また屍兵力はおよそ三千五百で現在も増加中。それをおじょ……エビトーカナミの召喚するカラクリ兵およそ二千体が食い止めている状況だ。」
 「うむ、かなみ殿のお陰でどうにか凌げている状況か……」
 「きのこ狩りも随分貢献してくれているようだなぁ。」
 
 ユールに住む人達はかなみちゃんの強さをある程度知っているので状況を呑み込めているが、会議のためにわざわざ呼ばれた代理の者達は納得していない様子が見受けられる。
 
 「実質二人が五賜卿を抑え込んでいると? この街も見ない間に随分と力を持つようになりましたな。」
 「どちらも聞いたことのない名だが、そこの勇者の仲間でもなさそうだな。信用できるのか?」
 「心配なんていらないさね。あの子達はすんごく強いんだ。あたし達も、命張るぐらいの覚悟持って作戦考えるよ。」
 
 デネントさんの言葉に気持ちがひとつになりかけたタイミングで、裏口の方からビンの転がるような音が聴こえた。
 
 「誰だっ!!」
 
 ここには戦士が多くいる。全員がその声より早く振り向き、半数が警戒態勢に入っている。ギルドマスターと王都視察団隊長が剣を半身抜いており、師匠が既に剣を構えた状態で前に出ている。
 
 ゆっくり物陰から現れたのは、見覚えのある青い髪の少年だった。
 あれは確か──
 
 「レクム、くん……?」
 「あ、……ど、どうも。」
 
 引き攣った笑顔を見せながら、弟のエナムくんと一緒にレクムくんが出てきた。
 
 二人は申し訳なさそうにしながら、デネントさんによって二階に連れていかれた。
 
 上からはデネントさんの怒鳴り声が聴こえる……『どうして逃げなかった』だとか『父ちゃん達は知ってるのか』とか……『いてぇっ!』とか。
 
 仕方が無いのでデネントさんを抜いたメンバーで会議は再開された。
 さっきまで冷静で頼りになった町長が少しだけ冷や汗をかいている。
 
 「……では本題に戻ろうか。」 
 「本気で五賜卿を倒しにいくのであれば、リスクを背負う覚悟でダットリーを向かわせるしかない。」
 「それは最終手段だ。今はコーダイくんに任せてみないか? 彼なら何とかしてくれるだろう。」
 「コーダイ殿を信じたい気持ちは分からなくもないが、今から修行でもさせる気か?」
 「そんな時間はありませんよ。」
 
 この一年半。
 かなみちゃんを中心に街への経済的貢献をしてきたことで、俺への信頼も上がってきているらしい。
 この街にもだいぶ馴染んできたんだと実感できる。
 
 期待されるからには応えたいが────さて、どうしたものか。
 
 町長が質問する。
 
 「……策を思い付いた者はいますか?」
 「穴を掘って、五賜卿を生き埋めにするというのはどうか。」
 「岩盤のように硬い土地をどう掘れというのだ。」
 「だったら、結界でもつくりますか?」
 「維持できる人数がおらんだろ。そもそも結界技師もいないのにどう生成するつもりか。」
 
 まともな案は一向に出そうにない。
 
 ひとつでもいいから案をひねり出そうと思い、聖剣を活かせないかと考えてはみるが──思いつかない。
 
 薫さんの"究極カウンター"なら、アルデンテを物理的に追いやることは可能だろう。しかし、アレは身体に大きな負担をかけるワザでもあるし直接的な解決にはならない。
 
 
 ──┠ 威圧 ┨でアルデンテの動きを止めて、その間に聖剣を突き刺せば行けなくもなさそうだが、目は合わせてくれないだろうし┠ 周囲威圧 ┨で近づいて止めるしかないのか……?
 
 ┠ 周囲威圧 ┨なら相手の目を見る必要なく止められる。ただし、止められる時間や範囲をまだ理解してない以上、安易に提案は出来ない。
 
 奴にとって致命傷になる一撃を与えたい。
 
 何か、何かヒントはないか。
 
 
 
 ────よーーし。当たった当たった。剣って投げてみるもんだね。勝負の決め手になる────
 
 
 
 なんだ──。
 
 
 この声このセリフ、どこかで聞き覚えがある。
 
 
 確か、アルデンテに言われたセリフだ。
 
 
 「剣を投げてみる──か。」
 「ん? 何かいいましたかコーダイ殿。」
 
 心のなかで呟いたつもりが声に出ていたようだ。
 
 「いや、気にしないでください。」
 
 天啓のように降って湧いてきた気もしなくもなかったが、上手くいく想像が全然でき──
 
 「それですよ喜久嶺さん……!!」
 
 勇者が机を叩く勢いで立ち上がった。
 
 さっきまでとは打って変わって目が輝いてる。何か閃いたのか。
 
 「聖剣が使えないなら、聖剣に倒してもらえばいいんですよっ……!!」
  「……へ?」
 
 

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