異世界歩きはまだ早い

a little

第3話 天を見下ろす大地へ

 珖代は城の外で待ち構えていた骨の剣士数体を聖剣で砕いてみせた。
 
 「これで全部か?」
 「すいません……はい、全部だと思います。多分。」
 
 珖代が肩にケガを負っていることと疲労困憊であることを知っている勇者は、襲いかかるアンデッド全てを赤と黒の炎【黒点】で再び悶えさせ、聖剣で砕きやすいようアシストを入れた。その甲斐あって二人は難なく行動でき、二人の騎士の遺体の元へとたどり着いた。
 
 「二人を街まで運ぼう、手伝っ……くっ!」
 
 遺体を動かそうと手を伸ばした珖代は肩の痛みに顔を歪めた。
 
 「喜久嶺さんっ、無理はしないで下さい! あの、その……まずはそのケガの手当てを!」
 
 ポーションを渡そうとする勇者、珖代はそれを拒む。
 
 「大丈夫だ。このくらいなら、セバスさんに舐めてもらえば治る。」
 「な、なめる?」
 「珖代!」
 
 森から走ってくる者がいた。
 珖代の名を呼ぶのは栗色の髪をなびかせる可愛らしい少女。本来であれば別の国で施設関係の仕事に取り組んでいた少女、蝦藤かなみだ。
 
 「かなみちゃん!? どうしてここに?」
 「えっとね、ベルの音が聴こえたんだけど、メッセージが分からなかったから一度、家に帰ってお母さんに珖代のいる場所を聞いてここに来たんだよ。すごいケガ、何があったの?」
 「待って、ベル? 」
 
 珖代は勇者に聞く。ベルを鳴らして呼んだのか? という目を向けて。
 
 しかし勇者にもこれと言って鳴らした記憶はなく首を横に振った。
 
 「あの女神を探すのに、必死だったから心当たりは……ありません。すいません。」
 「別に謝らなくていい。」
 
 勇者は顎に手を当て考える。
 
 無意識に鳴らしていたとはベルの性質上考えにくい。だとすれば、受け取る前後にあった何かが──。
 
 「あっ、もしかすると喜久嶺さんからベルを受け取る時に、鳴ってたとか……じゃないでしょうかね……。その、違ってたらすいません。」
 「なるほど。俺が投げた時にか。」
 
 珖代はベルを投げるように渡していたことを思い出した。心当たりがある分、それは有り得るとすんなり受け入れた。
 
 そして珖代はやって来たばかりのかなみにも分かりやすく状況を説明した。だが、ありのままを少女に伝えることは酷だと判断し、一部情報を伏せ目の前にいるカクマルやスケインのことは気を失っているだけだと伝えた。
 
 しかし、その気遣いは大した意味を成さなかった。
 かなみには┠ 生体感知 ┨という生きているものを広範囲で判別できるチートスキルが備わっている。
 少女はそのチートスキルによって、寝ている二人が気を失っている訳じゃないことをとっくに把握していた。
 
 少女は動揺を胸の内にひた隠して話を聞き、気付いていないフリを通す。
 
 「……かなみはどうしたらいい? リズと一緒に戦えるよ?」
 
 その声は少し震えていた。
 故に珖代は膝を折り少女と目線を合わせる。
 
 「確かに二人が抑えてくれていれば街に被害は出ないのかもしれない。でも、万が一のことがある。だから、かなみちゃんには町長や街のみんなにこの事実を伝えに行って欲しいんだ。お願い出来るかい?」
 「うん……分かった! 町長さんと相談してくるね!」
 
 かなみは目を瞑ると姿が何重にもぶれ、その場からスっと消失した。これはスキル┠ 瞬間移動 ┨を使い一瞬にして街へ任意移動したのが理由だ。
 そんなことを知らない勇者は目を白黒させているが、珖代はそれに構わず質問を投げた。
 
 「勇者、一つ聞きたいことがある。この世界で死んだ人間は、生き返ることが出来たりするのか?」
 「……いえ、そういう種族がいるとは聞いたことありますが、人間は……死んだら、お終いです。」
 「そうか、ごめん。変な事を聞いたな。」
 「いえ、謝る必要はありません。僕自身も、まだ、二人が死んだって事に実感が湧かなくて、未だに、ちょっとしたキッカケでいつか目を覚ますんじゃないかなぁって……思ってたりするんです。すいません、現実見てなさすぎですよね。ははは」
 
 勇者は笑顔を取り繕う。それは現実逃避に近けども、自分に対しての嘲りであり、同時に強がりでもあった。
 
 珖代は自分の懐から徐ろに何かを取り出した。銀紙に綺麗にパッケージされたスティック状の物体だ。
 
 「それは?」
 「ポーションを混ぜ込んだエナジーバーだ。疲労回復にはもってこいのな。勇者も食うか? バニラ味しかないけど。」
 
 珖代は食べかけのそれを口にくわえたまま、もう一本を懐から取り出し訊いた。
 
 「いえ、大丈夫です。」
 「ほうか。」
 「すいません……。」
 「ちなみに、れいザらスにはチョコレート味も売ってるから、お求めの場合は是非ヨロシク。」
 
 突然マーケティング活動を始めビシッとサムズアップする。
 
 その宣伝は今でなくてはいけないのだろうか……。
 
 「は、はぁ……。」
 
 その流れを軽く受け流せるほど勇者に余裕はない。
 エナジーバーを食べながら珖代は続ける。
 
 「勘違いしてるようだが二人が死んだのは紛れもなく、絶対的に、あのネクロマンサーの所為だ。勇者のおかげで助かった俺だから言えるけど、決してお前のせいじゃない。」
 「それは違う、貴方を助けたのはあの女であって僕じゃない……。それに……」
 
 己の不甲斐なさから言葉に詰まってしまう。勇者は耐えきれず目を逸らした。
 
 「さっきから謝ってばっかだぞ? 勇者がそんなんでどうする。現に俺が生きてるのは、お前が助けを呼びに行ってくれたおかげだし、辛いのは分かるがそろそろ切り替えてくれ。」
 「無理です。二人を門の前に立たせていなければこんな事にはならなかった。僕がもっと素直に喜久嶺さんに謝ることが出来ていればこんな事にはならなかった。あれこれ一人で決めず、仲間に相談していればこんな事にはならなかった。……考えないように考えないようにと思う程に、そんな後悔ばかり頭に過ぎってしまう。簡単には切り替えられませんよ。」
 
 珖代はひとつ食べ終わると話に気を取られたのか、無意識に二本目の袋をあけ始めた。
 
 「自分の近くにいてくれた大切な人が、ある日突然死ぬ。前触れなんかなくて、納得なんかひとつも出来ない死を見てしまうとどうしても考える。どうしてその人じゃなきゃいけないのか。どうしてあの時あーしなかったのか、こーしなかったのか。結局はタラレバの想像でしかないけど、そのモヤモヤとした感覚、後悔はたぶん一生消えない。だからどうせ悩むなら全てが終わったあとにしろ。」
 
 珖代は二本目を食べ進めながらも言葉を丁寧に紡いでいく。
 
 「カクマルはお前の立場を一番に考えて行動していた。あの戦いの後、アイツは自分の弱さを認めた上で『勇者』の仲間として傍にいる事を選んだ。お前になんて言われようが意地でもついていくつもりだったろうな。だからこんな日が来る事は覚悟していた筈だ。勿論、スケインもな。」
 
 一度は自分の弱さからパーティー離脱を考え、自分の後任を任せられる仲間を探すことに力を入れていたカクマルであったが、あるの男の弱くとも前に進む姿と言葉に心を動かされ、苦手である剣術を学び直しこれから先も勇者の元で研鑽を積み、支え合い、人を救う道を選んだ。
 珖代はそんな決意の断片を本人から聞かされていた。故に、多くを語らずとも死の覚悟は出来ていたのだと考えたのだ。
 立派な騎士道精神を貫いたスケインも同様に。
 
 「僕は……『勇者』として世界に求められたから戦ってきた。期待に応えるために使えない仲間は切り捨て、強い仲間は歓迎する。それで誰かを救えるなら良しとして、手段を選ばないこともあった。この街に来るまではそれで全てが上手くいっていたから、覚悟なんて微塵も考えてこなかった。いつのまにか、この世界は僕を中心に廻っているとそう錯覚するようになっていたんです。……これじゃあ、勇者失格ですよね。」
 
 ──人は死ぬ。仲間であっても死ぬ時は死ぬ。そんな当たり前のことを忘れていた。
 
 それは慢心を通り越した冒涜的なまでの過ち。
 
 過ちはしがみつき、決して彼を離そうとはしない。まともに動けないのはその為だ。
 
 「お前は生き方が主人公してるし、そう勘違いしてもまあ、おかしくは無い。俺だって同じ立場だったら、同じ勘違いしながらこの異世界で生きてたかもしれない。けどな、お前が何のために『勇者』として誰を助けるかなんては今はどうでもいい。二人がお前に託したものと覚悟を無駄にしない為に戦え。考えろ。 」
 
 なんでもない事のように珖代は軽く言う。
 
 「二人が、託したもの……。」
 
 一時の沈黙が流れ、勇者は自分の掌を覗いた。
 何かが書いてある訳でも無いのにただじっと覗いた。
 そして、そのままそっとコブシを握ると深呼吸をする。
 
 珖代は二本目のエナジーバーを食べ終わり、貫かれた肩を回しだす。
 痛みは多少引いたが、感覚の鈍さと血を失い過ぎた事による若干の低体温で冷や汗を掻き始めていた。
 
 「俺は傷を癒しに一旦街に戻る。で、お前はどうする勇者。」
 「今の僕では、街で何をやっても余計な混乱を招くだけな気がします。なので、二人を安全な場所に移してこようと思います。それと、斧と〘選好の鐘〙をお返しします。」
 
 勇者は借りていた斧、〘トクホーク〙とかなみを呼び出せるベル、〈かなみちゃん寄せベル〉を返却した。
 
 「せんこうの鐘? 」
 「はい、かなみちゃんを呼ぶ時に使えと言われたアレです。」
 「これそんな名前なのか。」
 「〘選好の鐘〙は確か、イメージした相手にだけ鐘の音を届けるアイテムだったと思います。だからイメージする相手は誰であっても使えた筈です。」
 「そうなのか。俺はてっきりかなみちゃん専用の呼び鈴かと思ってた。」
 
 珖代とかなみが話をしている間に二人の遺体は両手が胸の前で組む形でキレイに並べられていた。
 
 「勇者。もし、街でお前の仲間に会うことがあったら俺から事情は説明しておく。それでもいいか?」
 「はい、お願いします。」
 
 最後に一瞥(いちべつ)をくれると、喜久嶺珖代は森を走りユールへと向かった……。
 
 男の姿が豆つぶより小さくなる頃には、勇者は二人を移動させる準備を始める。
 
 まずはスケイン。そう思ってスケインを担ごうとした時、硬いワイヤーを引くようなギチギチという不安を感じさせる音が聴こえてきた。
 
 振り返ると、人が十人ほど囲えそうな真っ赤な魔法陣が大地で光を放っていた。
 その中心には怪しく光る金色(こんじき)の糸が垂直に垂れ下がっており、その糸を登ってくるかのようにして、魔法陣の中から骨の手が伸びてきた。
 
 手から肩、頭蓋と、糸を手繰り寄せる度に正体が浮かび上がる。間違いない、屍兵アンデッドだ。
 
 さらに、出てくるアンデッドは一体だけではない。……三体、五体、七体と数を増していく。
 
 地獄から糸を頼りに登ってきたアンデッドたちは、サークルの外側に出現した刀身の真っ黒な剣をそれぞれが、一つずつ手に取った。
 
 「なんだ……まだ来るのか。こんなに大勢で来るなら、まだオノは返さなきゃ良かったかな。」
 
 勇者は仲間の前に立ち、時間を稼ぐことを選んだ。その所作は弱気な発言とは裏腹に、微塵の迷いも感じさせないものだった。
 
 
 
 逃げれば二人の遺体を奪われるかもしれない。
 
 
 
 臆せば屍兵達が街に向かうかもしれない。
 
 
 
 どちらも譲れず選べない勇者にとって、選択の余地はない。
 
 
 
 ただ────。
 覚悟はもう、出来ていた。
 
 
 無駄にはしない覚悟の体現。
 
 
 引くことの許されない戦いが今、始まろうとしていた。
 
 
 
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 
 
 
 「キミの実力はおそらくそんなもんじゃ無い。なんて言うか、頼まれた時間稼ぎを徹底して守っているような感じがする。本当ならいつでもボクは殺せるって、そんな余裕すら感じる。」
 「……」
 「まあ、そのことを責めるつもりは無いよ? 自分の城の中じゃ、ボクも満足に戦えないからね。歯ごたえのある剣士と戦うことばかり考えているボクでも、キミとの戦いでこの城が崩壊することを躊躇っていたりする。まァ要するに、ボクも全力じゃあ無いんだよ。」
 
 ──玉座の間。
 互いの命を奪い合う少年少女はどちらも実力を発揮出来ず、膠着状態が続いていた。
 
 その状況を良しとしなかった五賜卿グレイプ・アルデンテは話を続ける。
 
 「ボクがこの城に住んでいた頃、ここには大きくて豪華極まるステンドグラスがあったんだァ。太陽の光を目一杯浴びて、赤や青や緑に茶色と、常に城内を様々な色で満たしてくれていたソレはキラキラと輝いていて、じっと見ているだけでも不思議と飽きがなかった。本当に、目を見張るほど美しい芸術だったんだけど、長い留守の間に風化してしまったのか、今は一枚も残っていないのが残念でならない……。」
 
 五枚のステンドグラスは、つい先日の勇者と蝦藤薫の衝突時に全て割れてしまっていた。
 そんな理由を知らないアルデンテは感傷に浸りながら愛おしげに玉座を撫でる。
 
 「中距離から遠距離を得意とし、アンデッドを操りながら戦うことで知られるネクロマンサーが何故、自ら接近戦に挑むのか──。何故だか分かるかい? 」
 
 聞かれた少女はじっと目を合わせたまま黙りを決める。
 少女の返事を待たずしてアルデンテは笑う。
 
 「ボクはね、見たいんだ。鮮やかな血を。太陽の元でキラキラ輝く血飛沫を見ていると、ステンドグラスを何時間でも眺めていられたあの頃を思い出すんだ。だから太陽の出ている朝昼だけ、ボクも前線に出て戦うんだァ。間近で見る為にネ。でね、夜になると全部アンデッドに任せてボクは引きこもっちゃうから、本気で叩くなら今しかなかったりするの。それでもキミは、本気を出すつもりは無いのかな?」
 
 女神リズニアは口を開いた。
 
 「ネクロマンサーとは思えない生活リズムですね。」
 「健康的でしょ?」
 
 微笑みながら詰め寄り二撃が飛ぶ。
 その連撃を女神の持つ二剣が防ぐ。
 リズニアは追撃を許さない。
 
 三撃目をひらりと躱しながら、四撃目はその初動すら与えない。
 
 手段を防がれ隙が生まれることを予感したアルデンテは重心を後ろに傾け、横薙ぎに来る反撃を飛び退いて避けてみせた。
 
 そのままの流れで窓際に移動し、ステンドグラスが入っていた縁に片足を乗っける。
 
 「ここを一歩踏み出せば、遮る物は何ひとつ無いだだっ広い荒野に出る。さぁ行こうか! 天の見下ろす大地へ。本気を出して戦える、あの大荒野へっ!! ボクは、先に行って待ってるからネ。」
 
 日差しを浴びながら少年は振り返り無邪気な笑顔を振りまいた。
 まるで純粋な子供のように。
 


 ──この城は枯れない森の中にある。
 
 ユール側からでは森が邪魔になり城を確認出来ないが、大荒野側からだと城は容易に拝める。しかし、大荒野と城の間にある崖には桟橋の一つも掛かってはおらず、城に近付きたければ森を通るしか方法はない。
 
 だが、城から大荒野に降りるとなると話は変わってくる。
 玉座の間は城の高所にあり、崖を飛び越えるようにその場から飛び降りるならば飛距離は稼げるのだ。
 それに加えアルデンテには常人離れした脚力がある為、助走をつけることなく跳躍して見せ、いとも容易く荒野に降り立った。
 
 女神リズニアはその後を追うように、勢い良く助走をつける。アルデンテの脚力によって崩壊した窓辺を飛び越え、同じく崖を飛び越えた。
 
 
 
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 始まりの街-ユール-

 
 
 街の誕生以来、一度としてなかった緊急事態に街はどよめいていた。
 
 かなみより伝えられた情報によって、五賜卿襲来を知った町長と街の役人達により話し合いがなされ、まとまった方針が関係各所に渡った。
 
 『何者かにユールが襲撃された場合を想定して作られた避難プログラム』
 
 訓練などしてこなかった冒険者達はその対処に追われた。
 
 冒険者は新人ベテラン関係なく、街に常駐する数少ない保安兵士達と協力して住民や観光客の避難誘導に当たることで迅速な対応を見せていた。
 
 比較的荷物の少ない観光客から順々に避難を開始し人々が長蛇の列を成して行く。
 大した混乱を極めないままに避難が出来たのは迅速な対応によるものだけではない。
 
 避難する者たちの誰もが五賜卿の姿を見ておらず、危機が迫っている実感を欠いていたからだ。
 故に、焦らず行動する者が多く、半信半疑のまま取り敢えず従っている状況にあった。
 
 そして何より、弟子ーズの活躍が大きかった。
 避難ルートに指定された安全性の高い道は、その安全性が仇となり魔物から逃げてきたランドリーチキンが多く徘徊していた。
 その道のもしもの時の為に、進んで管理を行ってきたのが珖代とユイリーだった。
 
 その事実を役人の一人である、レクムの女主人デネントが発言した事により避難ルート決めは早く済んだ。
 
 残り十分もしないうちに街から一般人は消える。その時には役人達により対策が話し合われるだろう──。
 
 
 
 「うむ、やはりこの列の中には居ないかもしれん。」
 「ですわね。」
 
 大名行列を傍から眺め難しい顔をするのは、小さな少女ピタと気品ある少女トメ。二人は勇者の仲間だ。
 
 「コータロー、スケイン、カクマル、誰一人として迎えに来てくれる予感がしないな。」
 「ええ。勝手に避難する訳にも行きませんし、困りましたわね……。」
 
 そんな二人の元に一人の兵士がやって来た。
 
 「おい。そこのお前達、冒険者でなければ列に入りなさい。」
 「あのー、すまないが勇者を見かけなかったか?」
 
 ピタがそう訊く。
 
 「勇者? 今日は見てないな。」
 「そうか……。」
 
 聞き込みをしても探すのは厳しいのではと、ピタは肩を落としかけた。
 
 「そう言えば、あの色黒の大男なら見かけたぞ。」
 「それは本当でして!? 何処で見かけたのですか?」
 
 声を荒らげたのはトメだ。
 
 「ず、随分前にこの通りを歩いていたよ。確か、城がどうとか言っていたような……。」
 「城……? まさか、三人は今……」
 
 ピタの頭には最も恐れていた事態が起きているのでは、と過ぎった。
 それは同じくトメにもあった。
 
 「戦っているのでしょうね、おそらく。」
 「なら、こうしちゃいられないな。」
 「ええ、決まりですわね。急ぎましょう。」
 
 二人は待つことを止め、行き先を決めた。
 
 「情報、感謝致します。」
 「あ、ああ。……っておいっ、何処に行くんだ! 列に並びなさい!」
 
 兵士の制止も聞かず、二人は駈けて行く──
 
 「私達のことは心配するな! 忘れ物を取りに行くだけだ!」
 
 ──嫌な予感を抱えながら。
 
 

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