異世界歩きはまだ早い
その5 伏線回収選手権
一軒家を手にいれた。
 ユール での俺達の活躍が認められ、領主と町長から贈呈された広めの平屋。
経緯を話すとなると何となくわらしべ長者を思い出す。
きっかけは元女神のとある日の出来事から始まった──。
リズが恋のキューピットとなってくっつけた例のカップルが結婚する事になった。新郎に当たるヨレンはリズへの感謝の気持ちを込めて、家宝の一つだという"人工召喚石" をプレゼントした。
"人工召喚石" は天然物とは違い、まん丸な形をした水晶で魔力がないと扱うことが出来ない物だ。
貰ったはいいが使い道に困ったリズは、大通りを歩く人に投げつけた。
いくら外道が服を着て歩いているような彼女であっても、無差別な人を狙っていきなり投擲したりはしません。相手は窃盗犯でした。
走り去るドロボーの後頭部に水晶は見事命中。窃盗の被害にあった人の中に爵位の高い貴族がいて、お礼に馬車と馬二頭を貰いました。────とリズは供述する。
にわかには信じ難い事だが事実としてリズは、水晶と手網を手に持ち、馬車に乗って帰ってきた。
その翌日。
馬車を停めていた場所に向かうと、何故か馬も馬車も無く、代わりに馬車の中で寝ていた筈のリズが地面で寝ていた。それと、リズの胸元に封蝋ふうろうされた手紙が置いてあるを見つけた。
その手紙にはこう書かれていた。
[緊急時でしたので馬車をお借りました。馬車をお返しできる保証がありませんので、今すぐにでも必要との事でありましたら、この手紙を領主にお見せくださいませ。王室御用達の馬車を御用意させます。-第二王女ディセンヌ-]
封蝋の模様からその手紙が本物の王家の手紙であることが分かると、リズは手紙を持って一人で領主の元へ向かった。
軽トラを持っているから、馬車はあまり必要ないのだが、俺達もどんな豪華な馬車が来るのか楽しみに期待して待った。しかし、帰ってきたリズは手紙を持っていなければ、馬車も持っていなかった。
理由を聞いても話の流れで手紙を預かってもらうことになった、としか述べない。正直、訳が分からなかった。
そしてその数日後、土地と家と永住権を領主と町長から与えられたのだ。
リズがどんな話をしたのかは未だに謎である。それでも、こうして家を手に入れることが出来たのはリズのおかげ……だと思っている。あいつもたまには役に立つのだ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
早朝のランニングを終わらせた後、スグに家に戻りシャワーを浴びるのが俺の日課だ。
風呂から出たあとはキッチンで朝食の準備をする薫さんに挨拶をする。人数分の食器を準備するかなみちゃんへの挨拶も勿論忘れない。
「かなみちゃん、セバスさんは?」
「リズを起こしに行ってくれてるよ。」
「そっか。」
あいつなら朝食の匂いに釣られて起きてくると思うが、セバスさんも意外と律儀なイヌさんだ。吠えている声がリビングまで聴こえてくる。
今日の朝食は目玉焼きとウィンナーとトーストとサラダ。洋食でシンプルにまとめられている。
この家では全員が揃って朝食を食べる習わしになっている。
中島さんは<れいザらス二号店>オープンを目標に、候補地への使節に赴いてくれている。戻ってくるのは一ヶ月以上先になるだろう。なので、後はリズが来るのを待つだけだ。
どちらにせよ、あいつが一番最後なのはいつも通り。
かなみちゃんがリズの部屋に向かって声を飛ばす。
「リズー! ご飯だよー!」
あれから一年と数ヶ月が過ぎようとしている。かなみちゃんももう11歳。
子供の成長というのは早いものだ。出会った頃はまだ9才だったかなみちゃんが、11歳。身長はぐんぐん伸びていくし、今じゃリズとどっちがお姉さんか分からない。
リズがこの一年、成長し無さすぎるのも分からなくなる要因の一つだろう。そのうち身長も追い抜かれるだろう。
そんなあいつも、ある意味では成長している部分がある。
「いやー、おはよーございまフゥ。いいブレイクファーストの匂いでフねー。」
床を軋ませながらリズが自部屋から出てきた。
いつものように俺の向かい側に腰を下ろす。
イスまで軋んだ音を鳴らす。
「今日は洋食でフかぁー。美味しそーでフゥ。いただきまーフ!」
パンパンのほっぺを弛ませて幸せそうに笑う。実際、幸せなんだろう。
かなみちゃんの成長が縦ならば、リズの成長は横。
一年ちょっとで、丸々ぽっちゃり系へと進化を遂げてしまったのだ。
「んフゥー。やっぱりカオリンの作るご飯は美味しくて、無限に食えまフねー!」
ただいるだけなのに熱気と存在感がやばい。ああ、やばい。
最近のリズはたるんでいる。パーティー随一の怠け者だ。
兆候は異世界に来て二ヶ月目くらいから表れていた。リズはこの世界で学ぶことが特に無かった。その為、誰よりも暇な時間が多く、その時間を溜め録りしたアニメ鑑賞に費やすことが多かった。俺や薫さんも、休日で暇な時は一緒に鑑賞する事も多々あったから、その事に関してはあまり文句は言えない。それでも、同じ話を何度も見返してるのはどうかと思った。
一番の問題は薫さんの料理が美味しすぎることだ。一軒家を手に入れてからは、毎日薫さんの料理を食べられるようになって、リズの中にあったストッパーが外れたのだろう。一日三食をとんでもない量平らげる。
一日中、ゴロゴローだのアニメ鑑賞だのしている元女神がカロリーを消費し切れる訳もなく、加速度的にぶくぶくと太っていった。
今のリズからは明らかに女神だった頃の面影はない。それはもう……可哀想に思えるくらいに。
太っていることを指摘したことは誰もない。女の子に言っちゃいけないやつだし俺からは言いづらい。
「な、なあ、リズ。……どうだ? 久しぶりに、俺に剣の修行をつけてくれないか?」
遠回しに、一緒に運動してみないか誘ってみたが────
俺は思春期の娘を持つ父親か!
「何言ってるんでフか。こうだいに前衛は向いてないんでフから、修行をやる必要なんてないでフお。」
「そこを頼むよ〜。なっ。俺、今日休みなんだけど、一日中ゴロゴロしてたらさ〜太っちゃう・・・・・かも知んないからさ〜。」
なんで俺が気を使ってんだ……?
不摂生はこの肥満女神の自業自得なのに。
「その心配はありまフェん。今日はやらねばならないことがありまフから。」
「やらねばならないこと?」
「はい。こうだいとカオリンの最終試験でフ。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
朝食後俺達はリビングに集められた。
「伏線回収選手けーーん!」
突然何か始まった。よく分からないままにリズから拍手を促されて取り敢えず手を叩く。
薫さんやかなみちゃんの顔を覗くが二人も何か分かっていないようだ。
「いいでフか、お二人はこの一年とちょっとの期間でたぁくさんの異世界語を覚えてきました。今回はその最終試験と称フィ、どのくらい覚えたのかをチェックしたいと思いまフ。」
「伏線になりそうなものを回収して来いということですか?」
「カオリンその通りでフゥ! お二人にはこれから街に出てもらいまフ。そして、自分達の足だけで情報を集めてきてもらいまフ。ただし集めるのは普通の情報ではなく、今は使えないけど、今後役に立つかも! みたいな伏線ぽいモノで極力、お願いしまフゥ。それと、集めた情報は異世界語でメモを取ってください。」
伏線回収の意味が少し違うような気がする。
「書くのも異世界語か……その情報は、それっぽいやつなら何でもいいんだろ?」
「ええ、その認識で間違いないでフ。」
「選手権というと、勝敗を決めるんですか?」
「伏線回収選手権ですから当然でフゥ。勝った方には私からプレゼントを渡しましょう! 制限時間は日が沈むまでフっ、それではスタートでフゥ!! 」
スタートの合図に促されて渋々外に出た。
「お母さんも珖代も頑張ってねー。」
ギルドにやってきた。
「カオウ。みんな」
「カオウコウダイ!」
「カオウカオウ!」
ユールに住む住民たちの交流は個人的にもよくしている。とはいえ、情報収集ならここは外せない。
尤も、無難過ぎてリズに後で文句を言われそうではある。
俺は諸々の事情を説明した上で、冒険者たちに情報を求めた。
「「「「あはははは!」」」」
ギルド内に酔っ払いどもの笑い声が溢れた。
景気が良いせいか、最近は朝から呑んだくれる冒険者が多くなった。
 「コーダイ! 今更試験なんて必要ねぇだろ。」
「ンだよな。お前、俺達とフツーに話せてるじゃんか。 」
「この街に住むやつならみーんな分かってると思うぜ? なぁ?」
「はは! 違げえねぇ!」
「情報といやー、さっきまで魔王の幹部の話をしてたんだ。えっとー、なんだっけかぁ。」
「幹部に位があるって話だろ? 確か……七てん、六ざ、五し、四せん、三なすび、二鷹、一富士だぁ!」
 「お前、途中から初夢に見ると縁起がいいものになってんぞ!」
「そういうお前は、初夢にゴブリン出てきてションベンちびったらしいじゃねえか。」
「なっ…過去の話を引っ張りだしてくるんじゃねぇよ!」
 「「「「はははははは!」」」」
この人達は酒が入るとどうでもいいことで盛り上がる。
大事なことがサラッと流されて、メモをとる暇すらない。
「こうだい、そこの阿呆どもは辞めておけ……。幹部の位については俺から説明しよう。」
相変わらずクールにお酒を嗜む師匠が冒険者達に呆れたようで、申し出てくれた。
「でも、師匠! 日本語で聞いたら意味ないんですよ。」
「だからこうして・・・・話してるんじゃねぇか。」
「あっ、異世界語か。すいません! 師匠とはいつも、日本語で話していたのでつい勘違いしてました。」
異世界語で語り掛けてくれていた師匠に平謝りをする。
「気にするな。固定観念てのは誰かに指摘されなきゃ意外と気づけない。次からよく考えればいいさ。」
「はいっ! 次から気をつけます!」
「それで幹部についてなんだが────」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
タイムリミットを迎え、俺と薫さんは家に帰ってきた。
お互いたくさん書き留めたメモを広げ、発表する準備に入る。
先行はかなみちゃんの判断で薫さんになった。ちなみに、この発表中も異世界語を使わなければいけないことになっている。
「──オーケンという賭博場で働いていた、とあるディーラーが、金貨二千枚を持ち逃げした騒動なんですが、現在も犯人は逃走中。ユールでその男らしい人物の目撃情報が多数寄せられたとのことです。」
金貨一枚で銀貨十万枚分の価値がある……それを二千枚……。とんでもない額だ。
「お母さん、刑事さんみたいだね。」
「いやー、フゥんごくそれっぽいでフねー! 今はどうでも良くても今後関わる可能性がありそうなのが、非常にリアルでいいでフねぇー!」
「次は珖代だよ。刑事さんぽくお願いね。」
「え、ああ、うん。……えー、いくつか聞いてきた情報の中で私が最もそれっぽいと思った情報は、魔王の幹部に関する情報です。」
━━
━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━
「はいっ! 次から気をつけます!」
「それで幹部についてなんだが、曖昧模糊とした情報が多いがそれでも大丈夫か?」
「構いません! 教えて頂ければっ、それだけでっ、充分ですっ!」
「分かったから少し離れろ……。」
前のめりになり過ぎて、怒られてしまった。
「いいか、魔王には実力ある幹部達が沢山いる。その幹部にもそれぞれ階級がある。七奠しちてんの鬼、 六座の頭かしら、 五賜ごしの卿、 四扇しせんの司もりと続く。数が若けぇほど強いとされているが、数字と人数が一致しているは、今のところ五賜卿だけだ。それ以外の連中は、殆ど表には出てこない。」
魔王を倒すことが最終目標である俺からしてみれば、それがいずれ関わることになる連中であることは分かる。
伏線どうこう依然に知らなければいけない領域。大事な話だ。
「強い……ですか。」
「昔、七奠鬼しちてんきの一人と会ったことがある。あれは一つの災害だった。まるで、ただ通りかかったみたく、ふらっと現れて気まぐれに奪っていく──。こうだい、お前は魔王を倒すんだろ? 」
「は、はいっ。」
「忠告はしておく。────銀色の頭蓋。奴とだけは闘うな。奴はこちらから仕掛けなければ基本、何もしてはこない。さもなくば、理不尽な選択を余儀なくされるぞ。」
━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━
━━
「銀色の頭蓋でフか。」
「この世界は肌で感じているよりも深刻な状況なんですね……。」
「魔王を倒すとなると、幹部と戦うのは避けられないよね……。」
皆が真剣に考えてくれているのは有難いことだが、少し重苦しい空気になってしまった。
「うん。多分そうだろうね。だから伏線として発表するのはちょっと、ズルかったかな? あはは……はは。」
空気を変えようと冗談ぽく言ってみたが、特に誰からも反応は無かった。
「それでは、発表しまフ。伏線回収選手権、勝者は……こうだいィッ! でフ。」
「え、俺? 薫さんじゃなくて?」
てっきり負けると思っていた。
「はい。こうだいのはいずれ、必ず、絶対に、伏線になりまフよ。対して薫さんのは、絶妙なところを突きすぎて逆に伏線がはってあったこと自体忘れそうなんで、バツでーフ。」
「逆ってなんですか逆って。」
薫さんの反応はなんの毒気もなくシンプルだった。
「勝利したこうだいには、私から抱擁とあつーいキフのご褒美を贈呈しまーフ。」
キスのことを言いたいんだろうか。こいつ、プレゼント何にも考えていなかったな。
「そんな冗談は置いといて、俺の願いを聞いてくれないか。」
「えー、なんでフゥ? まさか、私そのものが欲しいとか……?」
「リズニア。」
冗談で誤魔化されたくないので、ここは真剣にいく。
「ほいッ!」
雰囲気を感じ取ったリズが姿勢を正した。
「────痩せろ。」
………………。
…………一拍あって。
「私、太ってないですよ?」
そもそも自覚していなかった。
「充分太ってんだよおお!!」
次回、いよいよ2章スタートです!
 ユール での俺達の活躍が認められ、領主と町長から贈呈された広めの平屋。
経緯を話すとなると何となくわらしべ長者を思い出す。
きっかけは元女神のとある日の出来事から始まった──。
リズが恋のキューピットとなってくっつけた例のカップルが結婚する事になった。新郎に当たるヨレンはリズへの感謝の気持ちを込めて、家宝の一つだという"人工召喚石" をプレゼントした。
"人工召喚石" は天然物とは違い、まん丸な形をした水晶で魔力がないと扱うことが出来ない物だ。
貰ったはいいが使い道に困ったリズは、大通りを歩く人に投げつけた。
いくら外道が服を着て歩いているような彼女であっても、無差別な人を狙っていきなり投擲したりはしません。相手は窃盗犯でした。
走り去るドロボーの後頭部に水晶は見事命中。窃盗の被害にあった人の中に爵位の高い貴族がいて、お礼に馬車と馬二頭を貰いました。────とリズは供述する。
にわかには信じ難い事だが事実としてリズは、水晶と手網を手に持ち、馬車に乗って帰ってきた。
その翌日。
馬車を停めていた場所に向かうと、何故か馬も馬車も無く、代わりに馬車の中で寝ていた筈のリズが地面で寝ていた。それと、リズの胸元に封蝋ふうろうされた手紙が置いてあるを見つけた。
その手紙にはこう書かれていた。
[緊急時でしたので馬車をお借りました。馬車をお返しできる保証がありませんので、今すぐにでも必要との事でありましたら、この手紙を領主にお見せくださいませ。王室御用達の馬車を御用意させます。-第二王女ディセンヌ-]
封蝋の模様からその手紙が本物の王家の手紙であることが分かると、リズは手紙を持って一人で領主の元へ向かった。
軽トラを持っているから、馬車はあまり必要ないのだが、俺達もどんな豪華な馬車が来るのか楽しみに期待して待った。しかし、帰ってきたリズは手紙を持っていなければ、馬車も持っていなかった。
理由を聞いても話の流れで手紙を預かってもらうことになった、としか述べない。正直、訳が分からなかった。
そしてその数日後、土地と家と永住権を領主と町長から与えられたのだ。
リズがどんな話をしたのかは未だに謎である。それでも、こうして家を手に入れることが出来たのはリズのおかげ……だと思っている。あいつもたまには役に立つのだ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
早朝のランニングを終わらせた後、スグに家に戻りシャワーを浴びるのが俺の日課だ。
風呂から出たあとはキッチンで朝食の準備をする薫さんに挨拶をする。人数分の食器を準備するかなみちゃんへの挨拶も勿論忘れない。
「かなみちゃん、セバスさんは?」
「リズを起こしに行ってくれてるよ。」
「そっか。」
あいつなら朝食の匂いに釣られて起きてくると思うが、セバスさんも意外と律儀なイヌさんだ。吠えている声がリビングまで聴こえてくる。
今日の朝食は目玉焼きとウィンナーとトーストとサラダ。洋食でシンプルにまとめられている。
この家では全員が揃って朝食を食べる習わしになっている。
中島さんは<れいザらス二号店>オープンを目標に、候補地への使節に赴いてくれている。戻ってくるのは一ヶ月以上先になるだろう。なので、後はリズが来るのを待つだけだ。
どちらにせよ、あいつが一番最後なのはいつも通り。
かなみちゃんがリズの部屋に向かって声を飛ばす。
「リズー! ご飯だよー!」
あれから一年と数ヶ月が過ぎようとしている。かなみちゃんももう11歳。
子供の成長というのは早いものだ。出会った頃はまだ9才だったかなみちゃんが、11歳。身長はぐんぐん伸びていくし、今じゃリズとどっちがお姉さんか分からない。
リズがこの一年、成長し無さすぎるのも分からなくなる要因の一つだろう。そのうち身長も追い抜かれるだろう。
そんなあいつも、ある意味では成長している部分がある。
「いやー、おはよーございまフゥ。いいブレイクファーストの匂いでフねー。」
床を軋ませながらリズが自部屋から出てきた。
いつものように俺の向かい側に腰を下ろす。
イスまで軋んだ音を鳴らす。
「今日は洋食でフかぁー。美味しそーでフゥ。いただきまーフ!」
パンパンのほっぺを弛ませて幸せそうに笑う。実際、幸せなんだろう。
かなみちゃんの成長が縦ならば、リズの成長は横。
一年ちょっとで、丸々ぽっちゃり系へと進化を遂げてしまったのだ。
「んフゥー。やっぱりカオリンの作るご飯は美味しくて、無限に食えまフねー!」
ただいるだけなのに熱気と存在感がやばい。ああ、やばい。
最近のリズはたるんでいる。パーティー随一の怠け者だ。
兆候は異世界に来て二ヶ月目くらいから表れていた。リズはこの世界で学ぶことが特に無かった。その為、誰よりも暇な時間が多く、その時間を溜め録りしたアニメ鑑賞に費やすことが多かった。俺や薫さんも、休日で暇な時は一緒に鑑賞する事も多々あったから、その事に関してはあまり文句は言えない。それでも、同じ話を何度も見返してるのはどうかと思った。
一番の問題は薫さんの料理が美味しすぎることだ。一軒家を手に入れてからは、毎日薫さんの料理を食べられるようになって、リズの中にあったストッパーが外れたのだろう。一日三食をとんでもない量平らげる。
一日中、ゴロゴローだのアニメ鑑賞だのしている元女神がカロリーを消費し切れる訳もなく、加速度的にぶくぶくと太っていった。
今のリズからは明らかに女神だった頃の面影はない。それはもう……可哀想に思えるくらいに。
太っていることを指摘したことは誰もない。女の子に言っちゃいけないやつだし俺からは言いづらい。
「な、なあ、リズ。……どうだ? 久しぶりに、俺に剣の修行をつけてくれないか?」
遠回しに、一緒に運動してみないか誘ってみたが────
俺は思春期の娘を持つ父親か!
「何言ってるんでフか。こうだいに前衛は向いてないんでフから、修行をやる必要なんてないでフお。」
「そこを頼むよ〜。なっ。俺、今日休みなんだけど、一日中ゴロゴロしてたらさ〜太っちゃう・・・・・かも知んないからさ〜。」
なんで俺が気を使ってんだ……?
不摂生はこの肥満女神の自業自得なのに。
「その心配はありまフェん。今日はやらねばならないことがありまフから。」
「やらねばならないこと?」
「はい。こうだいとカオリンの最終試験でフ。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
朝食後俺達はリビングに集められた。
「伏線回収選手けーーん!」
突然何か始まった。よく分からないままにリズから拍手を促されて取り敢えず手を叩く。
薫さんやかなみちゃんの顔を覗くが二人も何か分かっていないようだ。
「いいでフか、お二人はこの一年とちょっとの期間でたぁくさんの異世界語を覚えてきました。今回はその最終試験と称フィ、どのくらい覚えたのかをチェックしたいと思いまフ。」
「伏線になりそうなものを回収して来いということですか?」
「カオリンその通りでフゥ! お二人にはこれから街に出てもらいまフ。そして、自分達の足だけで情報を集めてきてもらいまフ。ただし集めるのは普通の情報ではなく、今は使えないけど、今後役に立つかも! みたいな伏線ぽいモノで極力、お願いしまフゥ。それと、集めた情報は異世界語でメモを取ってください。」
伏線回収の意味が少し違うような気がする。
「書くのも異世界語か……その情報は、それっぽいやつなら何でもいいんだろ?」
「ええ、その認識で間違いないでフ。」
「選手権というと、勝敗を決めるんですか?」
「伏線回収選手権ですから当然でフゥ。勝った方には私からプレゼントを渡しましょう! 制限時間は日が沈むまでフっ、それではスタートでフゥ!! 」
スタートの合図に促されて渋々外に出た。
「お母さんも珖代も頑張ってねー。」
ギルドにやってきた。
「カオウ。みんな」
「カオウコウダイ!」
「カオウカオウ!」
ユールに住む住民たちの交流は個人的にもよくしている。とはいえ、情報収集ならここは外せない。
尤も、無難過ぎてリズに後で文句を言われそうではある。
俺は諸々の事情を説明した上で、冒険者たちに情報を求めた。
「「「「あはははは!」」」」
ギルド内に酔っ払いどもの笑い声が溢れた。
景気が良いせいか、最近は朝から呑んだくれる冒険者が多くなった。
 「コーダイ! 今更試験なんて必要ねぇだろ。」
「ンだよな。お前、俺達とフツーに話せてるじゃんか。 」
「この街に住むやつならみーんな分かってると思うぜ? なぁ?」
「はは! 違げえねぇ!」
「情報といやー、さっきまで魔王の幹部の話をしてたんだ。えっとー、なんだっけかぁ。」
「幹部に位があるって話だろ? 確か……七てん、六ざ、五し、四せん、三なすび、二鷹、一富士だぁ!」
 「お前、途中から初夢に見ると縁起がいいものになってんぞ!」
「そういうお前は、初夢にゴブリン出てきてションベンちびったらしいじゃねえか。」
「なっ…過去の話を引っ張りだしてくるんじゃねぇよ!」
 「「「「はははははは!」」」」
この人達は酒が入るとどうでもいいことで盛り上がる。
大事なことがサラッと流されて、メモをとる暇すらない。
「こうだい、そこの阿呆どもは辞めておけ……。幹部の位については俺から説明しよう。」
相変わらずクールにお酒を嗜む師匠が冒険者達に呆れたようで、申し出てくれた。
「でも、師匠! 日本語で聞いたら意味ないんですよ。」
「だからこうして・・・・話してるんじゃねぇか。」
「あっ、異世界語か。すいません! 師匠とはいつも、日本語で話していたのでつい勘違いしてました。」
異世界語で語り掛けてくれていた師匠に平謝りをする。
「気にするな。固定観念てのは誰かに指摘されなきゃ意外と気づけない。次からよく考えればいいさ。」
「はいっ! 次から気をつけます!」
「それで幹部についてなんだが────」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
タイムリミットを迎え、俺と薫さんは家に帰ってきた。
お互いたくさん書き留めたメモを広げ、発表する準備に入る。
先行はかなみちゃんの判断で薫さんになった。ちなみに、この発表中も異世界語を使わなければいけないことになっている。
「──オーケンという賭博場で働いていた、とあるディーラーが、金貨二千枚を持ち逃げした騒動なんですが、現在も犯人は逃走中。ユールでその男らしい人物の目撃情報が多数寄せられたとのことです。」
金貨一枚で銀貨十万枚分の価値がある……それを二千枚……。とんでもない額だ。
「お母さん、刑事さんみたいだね。」
「いやー、フゥんごくそれっぽいでフねー! 今はどうでも良くても今後関わる可能性がありそうなのが、非常にリアルでいいでフねぇー!」
「次は珖代だよ。刑事さんぽくお願いね。」
「え、ああ、うん。……えー、いくつか聞いてきた情報の中で私が最もそれっぽいと思った情報は、魔王の幹部に関する情報です。」
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「はいっ! 次から気をつけます!」
「それで幹部についてなんだが、曖昧模糊とした情報が多いがそれでも大丈夫か?」
「構いません! 教えて頂ければっ、それだけでっ、充分ですっ!」
「分かったから少し離れろ……。」
前のめりになり過ぎて、怒られてしまった。
「いいか、魔王には実力ある幹部達が沢山いる。その幹部にもそれぞれ階級がある。七奠しちてんの鬼、 六座の頭かしら、 五賜ごしの卿、 四扇しせんの司もりと続く。数が若けぇほど強いとされているが、数字と人数が一致しているは、今のところ五賜卿だけだ。それ以外の連中は、殆ど表には出てこない。」
魔王を倒すことが最終目標である俺からしてみれば、それがいずれ関わることになる連中であることは分かる。
伏線どうこう依然に知らなければいけない領域。大事な話だ。
「強い……ですか。」
「昔、七奠鬼しちてんきの一人と会ったことがある。あれは一つの災害だった。まるで、ただ通りかかったみたく、ふらっと現れて気まぐれに奪っていく──。こうだい、お前は魔王を倒すんだろ? 」
「は、はいっ。」
「忠告はしておく。────銀色の頭蓋。奴とだけは闘うな。奴はこちらから仕掛けなければ基本、何もしてはこない。さもなくば、理不尽な選択を余儀なくされるぞ。」
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「銀色の頭蓋でフか。」
「この世界は肌で感じているよりも深刻な状況なんですね……。」
「魔王を倒すとなると、幹部と戦うのは避けられないよね……。」
皆が真剣に考えてくれているのは有難いことだが、少し重苦しい空気になってしまった。
「うん。多分そうだろうね。だから伏線として発表するのはちょっと、ズルかったかな? あはは……はは。」
空気を変えようと冗談ぽく言ってみたが、特に誰からも反応は無かった。
「それでは、発表しまフ。伏線回収選手権、勝者は……こうだいィッ! でフ。」
「え、俺? 薫さんじゃなくて?」
てっきり負けると思っていた。
「はい。こうだいのはいずれ、必ず、絶対に、伏線になりまフよ。対して薫さんのは、絶妙なところを突きすぎて逆に伏線がはってあったこと自体忘れそうなんで、バツでーフ。」
「逆ってなんですか逆って。」
薫さんの反応はなんの毒気もなくシンプルだった。
「勝利したこうだいには、私から抱擁とあつーいキフのご褒美を贈呈しまーフ。」
キスのことを言いたいんだろうか。こいつ、プレゼント何にも考えていなかったな。
「そんな冗談は置いといて、俺の願いを聞いてくれないか。」
「えー、なんでフゥ? まさか、私そのものが欲しいとか……?」
「リズニア。」
冗談で誤魔化されたくないので、ここは真剣にいく。
「ほいッ!」
雰囲気を感じ取ったリズが姿勢を正した。
「────痩せろ。」
………………。
…………一拍あって。
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次回、いよいよ2章スタートです!
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