異世界歩きはまだ早い
長期クエスト⑥
「────!
────────!」
頭にガンガンと"声"が響いて来る。
意味の無い音であればそれが声だとは分からないが、意味のある音であることは分かる。でも俺にはその意味言葉は分からない。
最悪の目覚め。
起こされ方と言うか、久しぶりに飲み過ぎた所為だと思う。
異世界コッチに来てから酒を口にするのは初めてだった。……いや、初めてではなかったかな。
シショーの前でイッキしたような……してないような。そもそも、酒を飲むこと自体、俺なんか片手で数えられるくらいだぞ? ……まぁ、インド式での話だが。
まだ頭がぐらんぐらんするが、隣で大の字に寝るリズを足でつついて起こす。
「おーい……リズぅ……起きてくれぇ……」
リズが代わりに起きてくれればもう少し眠れる。
「……あと五分……」
「……俺だってあと五分寝たいんだよぉ……」
あれ、なんでリズを起こすんだっけ?
「────!」
良く見ると、なんか切羽詰まったように話し掛けて来ているのは商人さんだ。
よく分からんが、天然のアラームみたいに、同じ音を繰り返し発している……。
ガンガン頭に響くし、いい加減リズを起こす。
「商人さんが何か言ってんだ……起きて聞いてくれぇ……」
「──────! 」
「何だってぇ……」
「うーん……魔女が村に来てるって……」
「…………。」
「…………。」
「「魔女が村に来てる!?」」
二人で勢いよく上体を起こし、顔を合わせた。
「魔女って滅多に村に来ないんだよな!」
「そのハズですっ!今頼めれば、迷いやすい森に入る必要も無くなるかもです!」
「行こう!」
「……はいです!」
商人さんの案内で、俺とリズは魔女を目撃したという男性と会った。しかし、その男性が見たのは魔女が森へ帰っていく姿であることが分かった。
せっかくのチャンスを無駄にしてしまったが、帰った方角だけは知ることが出来た。
「……戻るか」
「そうですね……」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
体調が良くなった中島さんと毛なみボサボサで元気の無いセバスさん、最後に、ちゃっかり村人の家に泊めてもらっていた薫さんとかなみちゃん達が戻ってきて、馬車の前に合流。
これから、目的の場所へ向かう話し合いを始める。
「魔女の庵に行くにしても、誰か一人残らないといけないじゃないですかぁ。どうします? ここはカナミン抜きでジャンケンでいきますかぁ?」
リズからの提案。商人さんに最低でも一人、護衛を付ける約束になっているので、おのずと会いにいけないやつが出てくる。
でもかなみちゃんの運ラック値を知ることがメインなので、かなみちゃんは除外される。
ジャンケンは平等な提案であると思ったが、俺は拒否。
「それなら俺が残る。」
「え、こうだいは、自分の隠されたステータスとかに興味ないんですか? あぁ……それとも、ジャンケンに負けるのが嫌なんですねぇ……?」
ニヤーっと口角を上げながらリズは言ってきた。
ケンカを売ってるのかも知れない。
「違うっ……! わざわざ全員で行く必要も無いだろって思っただけだ。皆が帰って来てから、時間があれば俺も行くよ。」
怒ろうとも思ったが、それこそ時間の無駄なので、ここはケンカは買わずに反論した。
「なるほど、その手がありましたか。」
リズは納得してくれた。
「中島さんはどうするの?」
「い、いえ、いいえ私も残りますよ! ついて行くなんて、おこがましいですし。」
中島さんはかなみちゃんにまで敬語でヘコヘコしながら対応している。
こんな姿を見ていると、生前は気苦労の絶えない人だったんだなぁと思えてならない。
魔女の庵に向かうのは薫さん、かなみちゃん、リズ、セバスさんの女性陣に決まった。
「それでは先に行ってきますんで、護衛とか頼みましたよーー!」
リズが後ろ歩きしながら手を振ってきたので、とりあえず振り返して応えた。
三人の後ろをついて歩くセバスさんには、なんとも言えない哀愁が漂っていたが、ついて行くことを決めたらしい。
かなみちゃんは┠ 収納世界 ┨を使って、馬車に商品を下ろしてから森へ向かったのだが、中島さんはそれを見て腰を抜かしていた。
思えば、中島さんに俺達のスキルや女性陣の強さを教えていなかったことを思い出し、みんなを見送ったあとそのことを伝えた。
中島さんは目を丸くしていたが、同じ転移者であることもあって理解を示してくれるのは早かった。
「そういえば中島さんは、女神から何のスキルを貰ったんですか?」
「私ですか……? えっと、色々と必要になるからと最低限の能力を貰いました。それと、確か……『アナタに足りていないモノを授ける』と、言われました。」
「足りないもの? それは能力としてですか?」
「はい……。多分、能力だと思いますが、何かは教えてもらってないんです。申し訳ないです……。」
「それなら、ちょうどいいじゃないですか。魔女に会いに行けばきっと、能力も分かりますよ。後で行きましょうよ。」
「そ、そうですかね……分かると有難いですが……。」
「遠慮する必要は無いですよ。俺も、中島さんのスキル気になりますし。」
「……なら、ご一緒させてもらおうかな。……あはは。」
中島さんは自分の頭をかきながら、照れくさそうに笑っていた。
どこまでも腰が低くく謙虚な人だ。
そんな会話をしつつ、待つこと数分。
商人さんがやって来た。
「中島さん、商人さんとの会話、お願い出来ますか?」
「ええ、 もちろんですっ。ま、任せてください!」
「────。」
「えーとっ……一応、商品の数や種類に間違いがないか、チェックさせて欲しいそうです。」
中島さんの言う通り、商人さんはメモを片手に馬車に乗り込み積荷を確認し始めた。
若干、不安はあったが、これで問題なく会話の内容が伝わったことが分かった。
中島さんが商人さんから聞いた話によれば、この村は直径四キロ四方ほどの大きさに人口は千二百人ほどと、周辺の村と比べても規模が大きいことが分かった。
昨日は、村人が総出で迎えてくれたものだと勝手に思っていたが、多分三割にも満たない人数だった。それでも十分過ぎる人数ではあったが……。
商人さんは一人一人のお客さんとの繋がりを大事にしているらしく、俺達は杖つきのおばあさんが住む村の東側まで、馬車に乗って移動した。
商人さんがそのおばあさんと思わしき人物と談笑している間、俺と中島さんは馬車の後ろで暇していた。
そこに人がやって来た。
「────。」
「……ん? どうしたのかな?」
俺達の前に、頭に黒い帽子のような何かを乗っけた少年がやって来た。
何か、思い詰めた様子に見える。
「あのスゴい水魔法を、見せて欲しいそうです。」
「あれを? この子は昨日居なかったんですかね?」
あのかくし芸を見ていないという事は、昨日の宴会にはこの少年は出席していなかったのだろうか。
というかこの村、子供も結構多くいる。
「いえ、自分では無くて、見せてあげたいそうです。この子に。」
「この子って……それっ……」
少年の頭の上の何かがゆっくりと動きだした。
それは、全身が黒光りするウロコに覆われていて、長く棘ついたシッポが伸びており、背中には小さな翼を生やした、トカゲのような顔をしている生き物。
まさかとは思うがそれは──
「──小さいけど……ドラゴン……!?」
小さかった。そして竜だった。
「そう、みたいですね……。最近、元気が無くて困っているそうです。」
ファンタジーらしさ全開の、紛れもないドラゴンに驚きと感動が湧き上がるが、中島さんのリアクションが薄いのにも驚いた。
「はぁ〜 初めて見た……。」
「私もです。CGとかでは無いですもんねぇ。驚きました。」
驚いているには驚いているみたいだ。
商人さんのリアクションの良さに慣れてしまったから、余計薄く感じるのかもしれない。
ドラゴンは少年の頭の上で器用にバランスを取って丸まっている。さっきみたいに伸びてくれればドラゴンとすぐ分かっただろうけど、丸まるとドラゴンとは判別しづらい。
──しかし、こうして見るとドラゴンは案外可愛いように思えるな。
「今は水魔法を使える人が居ないから、ゴメンね。って伝えて貰えますか?」
「────。」
中島さんが伝えて返事が返ってきた。
「一旦、帰るそうです。」
少年は踵を返して、とぼとぼ歩いて帰った。後ろ姿だけで、落ち込んでいるのが伝わるくらい、肩を落としていた。
このままでは可哀想だと思うが、水魔法を芸術な域で使えるのはかなみちゃんとセバスさんだけなので、なくなく帰した。
「後で頼んでみるか……。」
そのあとも、商品を積んだ馬車は南へ西へと村を一周して、元の場所まで戻ってきた。
護衛としての任が終わった訳ではないが、あとはリズ達を待つだけになった。
「お疲れ様ですこうだい、中島さん。ただいま戻りましたよ〜! 」
リズが元気よく手を振りながら、皆を引き連れて帰ってきた。
かなみちゃんや薫さんが行きより気だるそうに見えるが、あいつは疲れるってことを知らないのか。
「随分かかったみたいですね。ステータスカードは作れましたか?」
「いえ……その、作れたには作れたんですが……、あの……」
何故か薫さんの歯切れが悪い。何かあったのか……。
「あれ? セバスさんは一緒じゃなかったんですか?」
俺の質問に対し、薫さん達はお互いを見合って、何やら考えている。どう答えたものか困っているようだ。
「えっとー……とりあえずっ、四人分のステータスカードを作ってきたので、見てください。」
一人ずつ確認していくと思ったら、リズが全員分をまとめて渡してきた。
紙はザラザラとした和紙のようで、少し黄色がかっている。
表面を炙り出したように焦げた文字が浮かんでいて、俺でも読めるようになっていた。
────そして、それそのものが、三人と一匹分のステータスになる。
≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡
---蝦藤薫---
レベル 26
 攻撃力(筋力): 60
 瞬発力(筋力): 52
 持久力(体力): 4770
 集中力(体力): 48
 物理耐久力: 69
 魔法耐久力: 69
 敏捷力: 66
 魔力: 0
 運値: 1026
 女子力: 58990
スキル
┠ 状態異常耐性 ┨‐大‐
┠ 精神異常耐性 ┨‐大‐
┠ 自動反撃オートカウンター ┨
┠料理┨Lv.9 ┠掃除┨Lv.6 ┠裁縫┨Lv.7
┠洗濯┨Lv.6 ┠フェロモン┨Lv.8
┠家計管理┨-小- ┠育児術┨-大- ┠介護術┨-小-
┠魔性┨-大- ┠芸術┨-中- ┠妄想┨-大- ┠S属性┨-中-
┠貫禄┨ ┠ポーカーフェイス┨ ┠毒舌┨
┠心情察知┨
≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡
≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡
---蝦藤かなみ---
レベル Unknown
攻撃力(筋力): Unknown
瞬発力(筋力): Unknown
持久力(体力): Unknown
集中力(体力): Unknown
物理耐久力: Unknown
魔法耐久力: Unknown
敏捷力: Unknown
魔力: Unknown
運値: Unknown
女子力: Unknown
スキル
Unknown
≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡
≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡
---リズニア---
レベル 216
攻撃力(筋力): 8070
瞬発力(筋力): 9500
持久力(体力): 9450
集中力(体力): 2300
物理耐久力: 20060
魔法耐久力: 18500
敏捷力: 11950
魔力: 6120
運値: 1232
女子力: 8
スキル
┠ 女神モード ┨
┠魅了┨Lv.4 ┠嗅覚┨Lv.2 ┠変顔┨Lv.6
┠自己優先┨-小-┠詐欺┨-中-
┠負けず嫌い┨
≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡
≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡
---瀬芭栖せばす 陽姫ひなひめ---
レベル 84
 攻撃力(筋力): 622
 瞬発力(筋力): 620
 持久力(体力): 750
 集中力(体力): 756
 物理耐久力: 721
 魔法耐久力: 721
 敏捷力: 1080
 魔力: 210
 運値: 968
 女子力: 480
スキル
┠ 気配遮断 ┨Lv.3
┠ 気配察知 ┨Lv.4
┠ 投擲補正 ┨ - 大 -
┠ 縮地 ┨
┠ 限界突破 ┨
┠料理┨Lv.1 ┠掃除┨Lv.7 ┠裁縫┨Lv.2 ┠洗濯┨Lv.2
──限定条件発動型固有能力ユニークスキル──
【狂犬】
#物理追加攻撃+80%
#身体昇華+120%
#直感優先+150%
#魔力変換-100%
#色彩補正-100%
#┠痛覚遮断┨発動状態
#┠疲労順延┨発動状態
#┠暴走┨発動状態
継承
回復魔法Lv.6
状態異常
 《犬》 -大型-
≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡
────。
見て、ますます混乱した。
色々、つっこみたいところが多すぎる……。聞きたいことが山積みだ。
「攻撃力、瞬発力は筋力の値を正確に分けたもので、持久力、集中力は体力の詳細。物理耐久力、魔法耐久力は総耐久力の詳細になります。運の値は1000が平均だそうです。それと、女子力はオプションで付けてもらいました。」
説明役はリズが担うようだ。
「なぁ、かなみちゃんのステータスがUnknownって書かれてるけど、これは?」
「あー、それが、かなみちゃん、情報を遮断するスキルを持ってたみたいなんですよ。いや〜そんなチートスキルがあったこと忘れてましたっ!うっかりです!」
テヘペロって感じで言ってきた。『うっかり』みたいなスキルもこいつは持っているんじゃないか?
「で、これ、セバスさんのユニークスキルとか継承とか状態異常ってのはなんだ?」
「そのままの意味です。獲得条件が不明かつ、その能力が過去に前列がないものが、ユニークスキルで、継承は受け継いだ力、状態異常は今かかっている呪いですね。」
「なるほど……ね。それで、セバスさんが居ないのはどうしてだ?」
「それが、ステータスがスゴすぎるってことで、少し研究させて欲しいと言われまして。今日中には返してもらえるし、協力してくれれば、ステータスカードの代金はタダにしてくれるってことで置いてきました。セバスちゃん本人は乗り気じゃなかったですけどねっ。」
「なので、珖代さん。作りに行くついででいいので、セバスちゃんをお願いします。」
薫さんがお辞儀してお願いして来た。
「……分かりました。」
今更な気がするが、セバスさんの扱いが酷じゃないかなぁと思えてきた。
「珖代、森の中は迷いやすいから気をつけてね。 」
「私達、往復だけで、四時間は掛かってますから。」
かなみちゃんに合わせるようにリズが遅かった理由を教えてくれた。
「それで遅かったのか……」
俺達は早速、支度をする。
と言っても、必要なものも無いのでただ、向かうだけなのだが。
「あっ、そうだ。かなみちゃん。水魔法の曲芸を見せて欲しいっていう子ががいたんだけど、出来たら、会いに行って見せてあげてあげられないかな? 頭に小さなドラゴンを乗っけてる少年なんだけど。」
「えっ! ドラゴン? 会ってみたいな! その子、どこにいるの教えて!」
思ったより食い付きのいい反応を見せてくれた。
お願いしているのは俺なのに、そこまで喜んでくれるとコッチまで嬉しくなる。
「村の東側に行ってみれば会えると思うよ。」
「分かった!」
「やっぱり、ドラゴンもいるんですね……。」
「こんな辺鄙な所に、いるとは思えませんが……」
何やら難しい顔で薫さんとリズが呟いていたが、気になっているようだ。
「「行ってらっしゃーい!」」
そう言いながら手を振る二人に合わせて、薫さんも手を振っている。
三人が魔女から貰ったという地図を頼りに森へ。
「なるべく、迷わないように行ってきます!」
────────!」
頭にガンガンと"声"が響いて来る。
意味の無い音であればそれが声だとは分からないが、意味のある音であることは分かる。でも俺にはその意味言葉は分からない。
最悪の目覚め。
起こされ方と言うか、久しぶりに飲み過ぎた所為だと思う。
異世界コッチに来てから酒を口にするのは初めてだった。……いや、初めてではなかったかな。
シショーの前でイッキしたような……してないような。そもそも、酒を飲むこと自体、俺なんか片手で数えられるくらいだぞ? ……まぁ、インド式での話だが。
まだ頭がぐらんぐらんするが、隣で大の字に寝るリズを足でつついて起こす。
「おーい……リズぅ……起きてくれぇ……」
リズが代わりに起きてくれればもう少し眠れる。
「……あと五分……」
「……俺だってあと五分寝たいんだよぉ……」
あれ、なんでリズを起こすんだっけ?
「────!」
良く見ると、なんか切羽詰まったように話し掛けて来ているのは商人さんだ。
よく分からんが、天然のアラームみたいに、同じ音を繰り返し発している……。
ガンガン頭に響くし、いい加減リズを起こす。
「商人さんが何か言ってんだ……起きて聞いてくれぇ……」
「──────! 」
「何だってぇ……」
「うーん……魔女が村に来てるって……」
「…………。」
「…………。」
「「魔女が村に来てる!?」」
二人で勢いよく上体を起こし、顔を合わせた。
「魔女って滅多に村に来ないんだよな!」
「そのハズですっ!今頼めれば、迷いやすい森に入る必要も無くなるかもです!」
「行こう!」
「……はいです!」
商人さんの案内で、俺とリズは魔女を目撃したという男性と会った。しかし、その男性が見たのは魔女が森へ帰っていく姿であることが分かった。
せっかくのチャンスを無駄にしてしまったが、帰った方角だけは知ることが出来た。
「……戻るか」
「そうですね……」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
体調が良くなった中島さんと毛なみボサボサで元気の無いセバスさん、最後に、ちゃっかり村人の家に泊めてもらっていた薫さんとかなみちゃん達が戻ってきて、馬車の前に合流。
これから、目的の場所へ向かう話し合いを始める。
「魔女の庵に行くにしても、誰か一人残らないといけないじゃないですかぁ。どうします? ここはカナミン抜きでジャンケンでいきますかぁ?」
リズからの提案。商人さんに最低でも一人、護衛を付ける約束になっているので、おのずと会いにいけないやつが出てくる。
でもかなみちゃんの運ラック値を知ることがメインなので、かなみちゃんは除外される。
ジャンケンは平等な提案であると思ったが、俺は拒否。
「それなら俺が残る。」
「え、こうだいは、自分の隠されたステータスとかに興味ないんですか? あぁ……それとも、ジャンケンに負けるのが嫌なんですねぇ……?」
ニヤーっと口角を上げながらリズは言ってきた。
ケンカを売ってるのかも知れない。
「違うっ……! わざわざ全員で行く必要も無いだろって思っただけだ。皆が帰って来てから、時間があれば俺も行くよ。」
怒ろうとも思ったが、それこそ時間の無駄なので、ここはケンカは買わずに反論した。
「なるほど、その手がありましたか。」
リズは納得してくれた。
「中島さんはどうするの?」
「い、いえ、いいえ私も残りますよ! ついて行くなんて、おこがましいですし。」
中島さんはかなみちゃんにまで敬語でヘコヘコしながら対応している。
こんな姿を見ていると、生前は気苦労の絶えない人だったんだなぁと思えてならない。
魔女の庵に向かうのは薫さん、かなみちゃん、リズ、セバスさんの女性陣に決まった。
「それでは先に行ってきますんで、護衛とか頼みましたよーー!」
リズが後ろ歩きしながら手を振ってきたので、とりあえず振り返して応えた。
三人の後ろをついて歩くセバスさんには、なんとも言えない哀愁が漂っていたが、ついて行くことを決めたらしい。
かなみちゃんは┠ 収納世界 ┨を使って、馬車に商品を下ろしてから森へ向かったのだが、中島さんはそれを見て腰を抜かしていた。
思えば、中島さんに俺達のスキルや女性陣の強さを教えていなかったことを思い出し、みんなを見送ったあとそのことを伝えた。
中島さんは目を丸くしていたが、同じ転移者であることもあって理解を示してくれるのは早かった。
「そういえば中島さんは、女神から何のスキルを貰ったんですか?」
「私ですか……? えっと、色々と必要になるからと最低限の能力を貰いました。それと、確か……『アナタに足りていないモノを授ける』と、言われました。」
「足りないもの? それは能力としてですか?」
「はい……。多分、能力だと思いますが、何かは教えてもらってないんです。申し訳ないです……。」
「それなら、ちょうどいいじゃないですか。魔女に会いに行けばきっと、能力も分かりますよ。後で行きましょうよ。」
「そ、そうですかね……分かると有難いですが……。」
「遠慮する必要は無いですよ。俺も、中島さんのスキル気になりますし。」
「……なら、ご一緒させてもらおうかな。……あはは。」
中島さんは自分の頭をかきながら、照れくさそうに笑っていた。
どこまでも腰が低くく謙虚な人だ。
そんな会話をしつつ、待つこと数分。
商人さんがやって来た。
「中島さん、商人さんとの会話、お願い出来ますか?」
「ええ、 もちろんですっ。ま、任せてください!」
「────。」
「えーとっ……一応、商品の数や種類に間違いがないか、チェックさせて欲しいそうです。」
中島さんの言う通り、商人さんはメモを片手に馬車に乗り込み積荷を確認し始めた。
若干、不安はあったが、これで問題なく会話の内容が伝わったことが分かった。
中島さんが商人さんから聞いた話によれば、この村は直径四キロ四方ほどの大きさに人口は千二百人ほどと、周辺の村と比べても規模が大きいことが分かった。
昨日は、村人が総出で迎えてくれたものだと勝手に思っていたが、多分三割にも満たない人数だった。それでも十分過ぎる人数ではあったが……。
商人さんは一人一人のお客さんとの繋がりを大事にしているらしく、俺達は杖つきのおばあさんが住む村の東側まで、馬車に乗って移動した。
商人さんがそのおばあさんと思わしき人物と談笑している間、俺と中島さんは馬車の後ろで暇していた。
そこに人がやって来た。
「────。」
「……ん? どうしたのかな?」
俺達の前に、頭に黒い帽子のような何かを乗っけた少年がやって来た。
何か、思い詰めた様子に見える。
「あのスゴい水魔法を、見せて欲しいそうです。」
「あれを? この子は昨日居なかったんですかね?」
あのかくし芸を見ていないという事は、昨日の宴会にはこの少年は出席していなかったのだろうか。
というかこの村、子供も結構多くいる。
「いえ、自分では無くて、見せてあげたいそうです。この子に。」
「この子って……それっ……」
少年の頭の上の何かがゆっくりと動きだした。
それは、全身が黒光りするウロコに覆われていて、長く棘ついたシッポが伸びており、背中には小さな翼を生やした、トカゲのような顔をしている生き物。
まさかとは思うがそれは──
「──小さいけど……ドラゴン……!?」
小さかった。そして竜だった。
「そう、みたいですね……。最近、元気が無くて困っているそうです。」
ファンタジーらしさ全開の、紛れもないドラゴンに驚きと感動が湧き上がるが、中島さんのリアクションが薄いのにも驚いた。
「はぁ〜 初めて見た……。」
「私もです。CGとかでは無いですもんねぇ。驚きました。」
驚いているには驚いているみたいだ。
商人さんのリアクションの良さに慣れてしまったから、余計薄く感じるのかもしれない。
ドラゴンは少年の頭の上で器用にバランスを取って丸まっている。さっきみたいに伸びてくれればドラゴンとすぐ分かっただろうけど、丸まるとドラゴンとは判別しづらい。
──しかし、こうして見るとドラゴンは案外可愛いように思えるな。
「今は水魔法を使える人が居ないから、ゴメンね。って伝えて貰えますか?」
「────。」
中島さんが伝えて返事が返ってきた。
「一旦、帰るそうです。」
少年は踵を返して、とぼとぼ歩いて帰った。後ろ姿だけで、落ち込んでいるのが伝わるくらい、肩を落としていた。
このままでは可哀想だと思うが、水魔法を芸術な域で使えるのはかなみちゃんとセバスさんだけなので、なくなく帰した。
「後で頼んでみるか……。」
そのあとも、商品を積んだ馬車は南へ西へと村を一周して、元の場所まで戻ってきた。
護衛としての任が終わった訳ではないが、あとはリズ達を待つだけになった。
「お疲れ様ですこうだい、中島さん。ただいま戻りましたよ〜! 」
リズが元気よく手を振りながら、皆を引き連れて帰ってきた。
かなみちゃんや薫さんが行きより気だるそうに見えるが、あいつは疲れるってことを知らないのか。
「随分かかったみたいですね。ステータスカードは作れましたか?」
「いえ……その、作れたには作れたんですが……、あの……」
何故か薫さんの歯切れが悪い。何かあったのか……。
「あれ? セバスさんは一緒じゃなかったんですか?」
俺の質問に対し、薫さん達はお互いを見合って、何やら考えている。どう答えたものか困っているようだ。
「えっとー……とりあえずっ、四人分のステータスカードを作ってきたので、見てください。」
一人ずつ確認していくと思ったら、リズが全員分をまとめて渡してきた。
紙はザラザラとした和紙のようで、少し黄色がかっている。
表面を炙り出したように焦げた文字が浮かんでいて、俺でも読めるようになっていた。
────そして、それそのものが、三人と一匹分のステータスになる。
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---蝦藤薫---
レベル 26
 攻撃力(筋力): 60
 瞬発力(筋力): 52
 持久力(体力): 4770
 集中力(体力): 48
 物理耐久力: 69
 魔法耐久力: 69
 敏捷力: 66
 魔力: 0
 運値: 1026
 女子力: 58990
スキル
┠ 状態異常耐性 ┨‐大‐
┠ 精神異常耐性 ┨‐大‐
┠ 自動反撃オートカウンター ┨
┠料理┨Lv.9 ┠掃除┨Lv.6 ┠裁縫┨Lv.7
┠洗濯┨Lv.6 ┠フェロモン┨Lv.8
┠家計管理┨-小- ┠育児術┨-大- ┠介護術┨-小-
┠魔性┨-大- ┠芸術┨-中- ┠妄想┨-大- ┠S属性┨-中-
┠貫禄┨ ┠ポーカーフェイス┨ ┠毒舌┨
┠心情察知┨
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---蝦藤かなみ---
レベル Unknown
攻撃力(筋力): Unknown
瞬発力(筋力): Unknown
持久力(体力): Unknown
集中力(体力): Unknown
物理耐久力: Unknown
魔法耐久力: Unknown
敏捷力: Unknown
魔力: Unknown
運値: Unknown
女子力: Unknown
スキル
Unknown
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---リズニア---
レベル 216
攻撃力(筋力): 8070
瞬発力(筋力): 9500
持久力(体力): 9450
集中力(体力): 2300
物理耐久力: 20060
魔法耐久力: 18500
敏捷力: 11950
魔力: 6120
運値: 1232
女子力: 8
スキル
┠ 女神モード ┨
┠魅了┨Lv.4 ┠嗅覚┨Lv.2 ┠変顔┨Lv.6
┠自己優先┨-小-┠詐欺┨-中-
┠負けず嫌い┨
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---瀬芭栖せばす 陽姫ひなひめ---
レベル 84
 攻撃力(筋力): 622
 瞬発力(筋力): 620
 持久力(体力): 750
 集中力(体力): 756
 物理耐久力: 721
 魔法耐久力: 721
 敏捷力: 1080
 魔力: 210
 運値: 968
 女子力: 480
スキル
┠ 気配遮断 ┨Lv.3
┠ 気配察知 ┨Lv.4
┠ 投擲補正 ┨ - 大 -
┠ 縮地 ┨
┠ 限界突破 ┨
┠料理┨Lv.1 ┠掃除┨Lv.7 ┠裁縫┨Lv.2 ┠洗濯┨Lv.2
──限定条件発動型固有能力ユニークスキル──
【狂犬】
#物理追加攻撃+80%
#身体昇華+120%
#直感優先+150%
#魔力変換-100%
#色彩補正-100%
#┠痛覚遮断┨発動状態
#┠疲労順延┨発動状態
#┠暴走┨発動状態
継承
回復魔法Lv.6
状態異常
 《犬》 -大型-
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────。
見て、ますます混乱した。
色々、つっこみたいところが多すぎる……。聞きたいことが山積みだ。
「攻撃力、瞬発力は筋力の値を正確に分けたもので、持久力、集中力は体力の詳細。物理耐久力、魔法耐久力は総耐久力の詳細になります。運の値は1000が平均だそうです。それと、女子力はオプションで付けてもらいました。」
説明役はリズが担うようだ。
「なぁ、かなみちゃんのステータスがUnknownって書かれてるけど、これは?」
「あー、それが、かなみちゃん、情報を遮断するスキルを持ってたみたいなんですよ。いや〜そんなチートスキルがあったこと忘れてましたっ!うっかりです!」
テヘペロって感じで言ってきた。『うっかり』みたいなスキルもこいつは持っているんじゃないか?
「で、これ、セバスさんのユニークスキルとか継承とか状態異常ってのはなんだ?」
「そのままの意味です。獲得条件が不明かつ、その能力が過去に前列がないものが、ユニークスキルで、継承は受け継いだ力、状態異常は今かかっている呪いですね。」
「なるほど……ね。それで、セバスさんが居ないのはどうしてだ?」
「それが、ステータスがスゴすぎるってことで、少し研究させて欲しいと言われまして。今日中には返してもらえるし、協力してくれれば、ステータスカードの代金はタダにしてくれるってことで置いてきました。セバスちゃん本人は乗り気じゃなかったですけどねっ。」
「なので、珖代さん。作りに行くついででいいので、セバスちゃんをお願いします。」
薫さんがお辞儀してお願いして来た。
「……分かりました。」
今更な気がするが、セバスさんの扱いが酷じゃないかなぁと思えてきた。
「珖代、森の中は迷いやすいから気をつけてね。 」
「私達、往復だけで、四時間は掛かってますから。」
かなみちゃんに合わせるようにリズが遅かった理由を教えてくれた。
「それで遅かったのか……」
俺達は早速、支度をする。
と言っても、必要なものも無いのでただ、向かうだけなのだが。
「あっ、そうだ。かなみちゃん。水魔法の曲芸を見せて欲しいっていう子ががいたんだけど、出来たら、会いに行って見せてあげてあげられないかな? 頭に小さなドラゴンを乗っけてる少年なんだけど。」
「えっ! ドラゴン? 会ってみたいな! その子、どこにいるの教えて!」
思ったより食い付きのいい反応を見せてくれた。
お願いしているのは俺なのに、そこまで喜んでくれるとコッチまで嬉しくなる。
「村の東側に行ってみれば会えると思うよ。」
「分かった!」
「やっぱり、ドラゴンもいるんですね……。」
「こんな辺鄙な所に、いるとは思えませんが……」
何やら難しい顔で薫さんとリズが呟いていたが、気になっているようだ。
「「行ってらっしゃーい!」」
そう言いながら手を振る二人に合わせて、薫さんも手を振っている。
三人が魔女から貰ったという地図を頼りに森へ。
「なるべく、迷わないように行ってきます!」
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