異世界歩きはまだ早い

a little

第20話 長期クエスト①

「かなみちゃんの "運値" が見たいんです!」


 アホすぎるリズの発言に訂正を加える。


 「 "運ラック値" な!?」

 「運系のチートスキルも持っているかなみちゃんなら、 "運値" も規格外にデカいハズですっ!」

 「だから誤解を招くだろう言い方はやめろっ!」


 リズがいつにも増してポンコツ発言をする一時間前、俺達はパーティー定例報告会を開いていた。

 つまりはいつもの夜の集まりだ。


 リズは、魔力を持たない俺や薫さんでも扱えて、かつ、ファンタジーっぽい要素を含んだ色々なものについて熱心に語った。 


 その中でも、魔力が無くとも魔物を自らの下僕として召喚、使役出来るという "召喚石" の話に、薫さんは食いついた。


 宿が変わっても薫さんと二人で会話する一時は変わらない。

 だから薫さんが意外にファンタジー好きなのは聞き及んでいる。


 魔法が使える娘が羨ましいとまで言っていたのを思い出せるが、これは薫さんが元マンガ家だった影響なのだろうか。


 そもそも、俺達に魔力が無いのは、単に最低限のスキル群を女神から授かっていないからなのだ。

 ステータスが若干低かったり、言葉が通じないのも同じ理由が当てはまる。


 巻き込まれ、追放され、このハンデ。まさに踏んだり蹴ったりだ。


 ───で。召喚石とラック値の話がどう関係しているかと言うと、召喚石の取得方法に関わってくる。


 リズのうろ覚えの説明と、かなみちゃんの的確な補足によると、召喚石は魔物を倒してドロップさせる手段でしか手に入れることが出来ないらしい。


 しかもドロップは確定ではなく、ドロップ率、つまり確率に左右されるとのとこ。


 そのドロップ率というのがまた厄介なもので、この辺りではよく出没する新人冒険者打って付けのハイエナもどき、 "ギヒアの召喚石" であっても、王都の博物館に寄贈されるレベルだそうだ。


 ギヒアを倒したときに出た召喚石はギヒアしか召喚出来ないので、戦闘面での価値は低く、ほとんどの場合は売られ、宝石として加工され、貴族の身につける護身用ジュエリーとして行き着くらしい。

 だから、実際の確率は定かではない。


 

 ──そして、そのドロップ率というのが、今話題に上がっている運ラック値に依存するのだそうだ。


 リズは運値としか呼ばないので運ラック値についてはかなみちゃんからの補足があってくれて助かったと思う。


 

 それともう一つ、ラック値は『隠しステータス』ということ。


 

 ギルドで発行されているギルドカードもとい、ステータスカードには様々な理由で記載されていない数値やスキルがあるらしく、それらを 【隠しステータス】と総称しているらしい。


 ラック値が隠しステータスの理由なのだが、このラック値というステータスが他のステータスと比較しても特殊なもので、何もしていなくても毎日上下変動しているらしく、運のいい日悪い日を知りたい冒険者がギルドに毎朝殺到する事態を避ける為に、わざと記載しなくなったそうだ。


 


 ──そして、冒頭のリズに戻る。


 


 「クズニアさん、ギルドが隠蔽するラック値をどう見るつもりなんですか?」

 「隠しステータスありきの、ギルドカードはムリでも、なにも隠さないステー・・・・・・・・・・タスカード・・・・・を作ってくれる方は知ってますですよぉ?」


 リズのわるーいこと考えていますよフェイスが全面に押し出されている。


 「さてはお前、そいつに会いたいから、召喚石の話題を振ったな……?」

 「Exactlyです! (その通りです!) 流石こうだい、順序立てて話題を振った甲斐がありましたよ!」

 「要するに何がやりたいんだ。」

 「うーん、私的には丁寧にもーちょっとだけ誘導して、断りずらくさせようと思ってたんですけど、仕方ない簡潔に言いますね。──『会いに行ける魔女』に会いに会いたいんです。」

 「魔女がいるんですか!」


 薫さんは目を輝かせて驚いた。


 「どっかで聞いたことあるキャッチコピーしてるな。その魔女」

 「リズ、その魔女は何処にいるの?」

 「ファーレンって村から歩いて三時間程にある、森の中に庵いほりを構えているそうです。」

 「ファーレン? それって、どのくらいの場所にある村なんだ?」

 「馬車で三日はかかる距離です。『馬車をレンタルして行くのはお金がかかるし、しかもめんどう?』でもご安心ください! 実は、そんなアナタにちょーどピッタリなクエストがあるんですよぉ」


 その口調は通販番組みたいだったが気にせずスルー。


 「結構遠そうだが、行く前提なんだな……」

 「依頼もこなせれば、一石二鳥ではありますね。」


 薫さんは偶にリズのフォローを入れることがあるが、魔女に会えると聞いたからか、意外と乗り気だ。


 「ファーレン村むらまで、商人を護衛するってだけの簡単な依頼です! ──そこで、皆さんご一緒に、長期クエストを受けてみませんか?」

 「みんなで?」


 かなみちゃんが俺の代わり聞いてくれた。


 「はい! あーて言っても、一週間ちょっとで帰ってこれるクエストですよ? カオリンもカナミンも最近ずーっとお店の手伝いばかり忙しそうで、冒険者ライフを楽しめていないでしょう? どうです、久々に本業に戻って旅に出てみるのも悪くないんじゃないでしょうか!」

 「うーん……デネントさんに聞いてみないとかなー。」

 「一週間も空けてしまうとお店に迷惑がかかってしまうような気がします……」


 リズからの提案に薫さん達は首を縦には振らなかった。


 「えー! みんなで行きましょうよ! 先っちょだけ、先っちょだけでいいですから!」

 「俺も師匠に暇を貰わなきゃいけなくなるなぁ……。一応聞くけどさ、また護衛の依頼をするつもりなんだよな。」


 護衛の依頼に関わらず、リズの提案には裏があるように思えて仕方ない。


 奴隷商人の馬車を護衛していた件はリズが独断で決めて行った依頼。

 あの時のような目に合わないように、詳細を聞かずについて行くようなことはもうしない。


 

 「……な、なんですか。」


 じーっと見てるとリズが目を細めて聞いてきた。


 「……何か、隠してたりしてないよなぁと思って。」

 「い、いやー何のことやらぁサッパリ分かりかねますです。」


 ……やっぱり今回も、何か企んでいるらしいのが顔を見て一目瞭然だ。

 内心、溜息をつきたくなる気持ちを抑えながらかなみちゃんに頼み込む。


 「……かなみちゃん、Eランク以下のクエストに、そんな依頼があるか探してくれないかい。」

 「うぇあ! かなみちゃんに頼るとか、ずるいですよっ!」


 ずるいと言われる謂れはないので無視して待つ。


 「……うん。似たようなのはあったよ。リズが言ってるのはこれだと思う。いくつかの村を点々と回って、ユールに戻ってくるっていう護衛の依頼。いくつかの村の中に、ファーレン村が入ってるからたぶん間違いないよ珖代。」


 これで裏が取れた。


 「ありがとう。──と言うことは、ユールに戻ってくるまで、護衛しなきゃいけないし、ファーレンは通過点でしかないと……。なんでウソをついたよ。」

 「……だってそれじゃ意味ないんですもん!! しっかり護衛しちゃったら、魔女に会いに行け無いかもしれないじゃないですかぁ! だから、こうだい達には適当なこと言って誤魔化して、依頼は途中でトンズラしてやろうと思ったんです!! 悪いですかっ!!」


 リズのそれは、逆ギレ以外のなにものでも無かった。


 「お前、本っ当に……。」


 悪びれる様子もないリズに、怒りを通り越して溜息しか出ない。


 「流石クズニアさん。外道が留まることを知らないですね。心根まで腐っていましたか。」

 「リズ……ひどい。」

 「別に、なんて言われようが? 私はヘーキ、です……し……?」


 二人にバッサリと苦言を呈されて、明らかに動揺を隠せないでいた。


 「寝相が悪い。」

 「イビキがうるさい。」

 「枕がヨダレまみれできたない。」

 「あと寝っペがくさい。」


 二人からの苦言はほぼ、睡眠時のことについてだったがリズにはかなり効いたようで……。


 「うわぁぁぁんこうだーい! 二人がイジメてきますぅ助けてくださーい! 私はこうだいや薫さんの為を思ってやろうとしてただけなのにぃー! あと、女神は屁をしませんので。うえぇぇーん!」


 俺に激しく泣きついてきた。

 女神がなんちゃらの所だけ、低い声がしたように聞こえたが、これ以上追い詰めてやるのは可哀想に思えた。


 「まぁまぁ二人とも、リズもこう言ってるし、そのくらいでお願いしますよ。」

 「珖代さん、甘いですよ。」

 「そうだよ。珖代、最近リズに甘々だよ。」

 「えっ? そんなことはないよ。」

 「いいえ、『リズ』と呼ぶようになってからずっとですよ。」

 「なーんか、距離も近いし、二人で居ることも多いし。」

 「明日にも忘れてしまいそうな会話を延々と二人で楽しそーにしてますし。」

 「リズに頼まれたら、嫌々言いながらも絶対断らなくなったよねぇ。」

 「あと、料理のリクエストで理由を聞くと、『リズに食わせたら喜ぶと思うから』としか言いませんよね。」


 二人が目を細めながら、俺に詰め寄ってきた。


 「ちょ、ちょっと……なんで俺が怒られてるみたいになってるんですか?」

 「「怒ってるの!」」

 「す、すいません……。気をつけます。」


 イマイチ何を気をつけたら良いのかわからないが、謝らなければいけない気がして謝った。


 「珖代はリズのことどう思ってるの。」

 「……頼ってくれるのは悪い気分じゃないけど、どうって……ことは、考えたことないかな。」


 かなみちゃんからの問いに上手く返せていない気がする。

 そんなこと、考えたこともないし仕方がないだろう。


 

 「まぁ、余計なことしなければ居ても居なくてもどっちでもいいやって思ってるよ。」

 「えーー! 私達ってスキ同士じゃないんですか!」

 「はぁ!? な、ななんでそうなるんだよ!」


 意味が分からない。


 何故リズはそんな勘違いをするのか。


 それに私達ってなんだ……?


 考えても分からないというか理解が追いつかない。


 「だって渾名あだなで呼ぶとか、絶対私のこと好きじゃないと出来ないですもん!」


 ──やっぱり分かんない。なんでそんな思考になるんだ……


 「それなら、かなみちゃんだってリズって呼んでるじゃんかよ」

 「かなみちゃんとはスキ同士ですから何の問題もありませんもん! ねっ、かなみちゃん。」

 「えっとー、リズは……嫌いじゃない……けど。」


 かなみちゃんは言葉にはしづらい感じが見受けられたが、本音を覗かせている感じだ。


 「なんだ、そういう意味か……。」


 どうやら、友達とか仲間としての、好きって意味だったらしい。

 何となくほっとした。


 「こうだいは私のこと何とも思っていないんですか……?」


 なんでこういう時に悲しそうな顔を向けるのか……。


 「まぁ、そういう意味なら、広く、広くな……好きってことで良いんじゃないか。」

 「はい。私も好きですよっこうだい」


 抱きつきながら、満面の笑みを見せるリズは、年相応の少女のような純真さがあった。それにいい匂いがする。

 そのまま見つめていると吸い込まれてしまいそうだ。


 

 「わ、分かったから、離れてくれ。」

 「それと、カオリンとセバスちゃん。お二人にもいつか好きになってもらいますんで覚悟しておいてくださいよ……!」


 俺に無理やり引き剥がされながら、リズは薫さんを睨んで言った。


 「では期待しないで待ってますよ。」

 「バウゥ」

 「セバスも右に同じだって。」


 セバスさんは無理やり街の外に連れ出されてから、リズに対して明らかに不機嫌な態度を取り始めていたし、好きになってもらうのは時間がかかるだろう。


 「それで、依頼はどうすんだ。」

 「そうでした。今すぐ決めて欲しい訳では無いので、この件については皆さん考えておいてくださいね。」

 「それなら、また落ち着いた頃になるかもな。」

 「一週間も街から出ていれば、さいとうさんに出くわすことも無くなると思ったんですが……残念です。」


 と、肩を落としてリズは呟いた。


 「あ、忘れてた。」

 「そういや、もうすぐだったな……」


 そう。俺とかなみちゃんは忘れていたが、もうすぐ、決めなきゃいけない事案があった。


 「合否判定。──もちろん彼をパーティーに入れるつもりは、誰もないですよね?」

 「「「うんうん。」」」


 薫さんからの問いに言わずもがな異口同音だった。


 斎藤 貫とおるという男を俺達は、仲間に入れない方向で決めている。

 理由は皆様々だが、誰も入れたがらない。

 イケメンだし可哀想とは思わない。


 「ああいうタイプはきっと、納得出来なくて、何度も訪ねてきますよ。街に残ればそれはもう、しつこく……ね。」


 リズの怪談話のように話すそれが、あながち間違っていないような気がして、想像しただけで背筋が冷える。


 「よ、よし。師匠にいって休みを取ろう。」

 「……お、お母さん。ちょっとくらいは休んでも良いよね。」

 「そうね。デネントさんも了承してくれるでしょうし、そうしましょう。」

 「では皆さん、話の続きは明日と言うことで。」


 


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




 翌朝。


 俺は暇なリズを連れて、師匠に休暇を貰うお願いをしに出かけた。


 交渉のほとんどをリズに任せるのは心配になったが、前回のように訳が分からないと追い返されることは無く、承諾を得てくれた。


 リズには一度、宿に帰ってもらって今日の修行を終わらせた。


 帰る前にかなみちゃん達を迎えに行き、ついでにレクムで夕食を取り、帰路につく。


 食事を取りながら、休みを貰ったことを薫さんから聞いた。


 現在は二日に一度程のペースで、薫さん自慢"地球の料理"が振る舞われる。


 この日のメニューはオムライスだった。


 リズがケチャップアートに挑戦して、自分のオムライスを真っ赤に染め上げて、「しょっぱいですぅ……」と嘆いていたので、交換してやったところ、デネントさんにまで甘いと言われてしまった。

 交換してやったオムライスで、もう一度、ケチャップアートに挑戦しようとしていたのは流石に怒ってやった。


 


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




 夜。

 宿の一室。


 今日の定例報告会のあと、みんなで魔女の件について話し合う。


 魔女に会いに行くことは決まったのだが、問題はクエストを受けるかどうか。という話し合いだ。


 リズに言わせると、これは緊急会議でも定例報告会でもないそうだ。


 「依頼の詳細なんですが、皆さん忙しそうだったので私自ら、聞きに行って来ましたっ!」

 「「「おー」」」


 自慢するように胸を張って言ったので皆で素直に褒めた讃えてあげた。


 「それで、誰に聞きに行ったんですか?」

 「ギルドの人に言ったら、依頼人本人に会わせてもらえましたよ。」

 「それで、どうだった?」

 「行きで三日、村巡りで三日、帰りで三日の約九日間の護衛だそうです。それで、交渉をしてきましてね……。」


 リズがニヤリと口元を歪めた。


 「えっ、もう交渉したの!」


 かなみちゃんが驚いた。


 「まぁまぁ、落ち着いてください。商人の方がいうには、村を巡る三日間は比較的安全なので、その間なら魔女に逢いにいってもオッケーを頂きました! 拍手!」


 リズは拍手を求めたが、誰もしなかった。

 リズの話を誰も、信じられなかったからだろう。


 「まぁ、一人は必ず、護衛についてくれればっていう──ってあれ? どうして無反応なんですか。」


 場が静か過ぎて、セバスさんがアクビをしている音が聞こえそうだ。


 「そりゃ、お前なぁ……」

 「事が上手く、運びすぎてる感じがしますし……」

 「なんか、疑っちゃうんだよね……」

 「えぇ!? 私の顔を見ればウソを付いてないことくらいかなみちゃん、分かりますよね!?」


 リズはかなみちゃんにすがり付いて必死に弁明している。


 「うーん。そう信じたいけど……」


 信じたいのは同感だ。

 だがこういう時、一番信用ならないのがリズなのは皆同じ意見だろう。


 「ええ分かりましたよっ! なら明日、直接依頼人に会いに行きましょう! そうすれば信じてくれますよね!?」


 かなみちゃんの両肩を掴んで言った。

 その姿はかなみちゃんを脅しているようにしか見えない。


 「う、うん。そだね。」

 「決まりですっ! 明日会いに行ってから、もう一度考えましょう!!」

 「リズ……疑われてるのはお前の日頃の行いが──」

 「明日! 考えましょう……!!」


 大きな目がより大きくなって俺をみる。


 その目には確固たる意思を感じた。


 「お、おう……。その方がいいな。」


 どうやら俺は、本当にリズに対して甘くなっているかも知れない。



コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品