異世界歩きはまだ早い

a little

第11話 知らない言葉

朝のランニングを日課にする為、今日も今日とて早起きの毎日。

 いつもは太陽が昇る時間に自然と起床するのだが、昨日はあまり寝付けず太陽より早く起きてしまっている始末。


 取り敢えず、隣で寝ている薫さん・・・・・・・・・を起こさないようにベッドから出て着替える。別に変なことはしていない。一晩中セットクして、疲れて寝てしまっただけだ……本当に。


 



 正面玄関から宿を出ようとすると、立派なドアに付いた鈴が鳴って朝からうるさくなるので静かに裏口から出る。



 馬小屋の方を見やると、俺が本来寝るはずだった干し草の上にセバスさんが丸くなって寝ていた。

 セバスさんには寝床を提供する契約をしていたのだが、このホテルがペット禁止だったものだから、ここで寝てもらっている。


 起こすのも悪いので声は掛けず、早起きした分いつもより長めに準備体操の時間を取りランニングを開始。


 


 空が白み始めた頃。

 途中、昨日の魔女っ子に会う。


 「あっ、カオウ!」

 「ヵ、ヵ……カオゥ。」


 昨日と同じように朝から杖の手入れをしているようだ。


 俺が挨拶をすると、何故かは知らないが、慌ててとんがりボウシのつばを両手で鷲掴みにして深く被る。

 そのせいで、顔が半分隠れてしまって表情がうかがえない。


 やはり俺が何かやらかしてしまったんではないかと心配になって立ち止まると、彼女が近づき手袋を外し手を差し伸べてきた。


 どうやら握手をご希望らしい。


 昨日の一件で、同業者の方々からスキンシップをとられる機会が多い気がする。ハイタッチや握手を求められることもあった。イザナイダケを取ってきただけでちょっとした英雄的な扱いだ。

 多分この娘もイザナイダケの件を知って、握手を求めてきてくれたのだろう。

 だからそれに応じるのは、ごく普通の話。


 「───、─────っ!」


 彼女が何を喋っているかは分からないが、雰囲気的に褒めてくれていると思うのでお礼を伝えておく。


 ──えっと、リズニアから聞いたお礼の言葉ってなんだっけか。 うーん、たしか……


 「テキカシャ、テキカシャ。」


 彼女は俺の声を聞いたあと俯いた。髪に隠れていた小さな耳が真っ赤になって現れる。


 直後、彼女は砂煙を巻き上げながら、走って何処かへ行ってしまった……。


 ──あれ? 言葉間違えちゃったかな……?


 


 その後は人とすれ違う度に挨拶を交わしたり握手をして、朝のランニングを終了した。


 この街の人は必ず挨拶を返してくれるので、朝から凄く気持ちがいい。

 挨拶することが、今後ランニングをする上での大切なモチベーションの一つになりそうだ。




 ランニングを終えて帰ってくる頃にはかなり汗でビショビショ。おまけに喉も乾く。

 昨日のような失敗をしないように今日は、桶もタオルもしっかり裏口に用意してある。

 しかし、困ったことに桶には水が入っていない。

 かなみちゃんに頼み忘れていた事が原因だが、それもセバスさんがいれば心配ご無用。

 今日はセバスさんに頼んで魔法水を用意してもらって体を綺麗にした。


 ついでに水分補給もさせてもらったお返しに、リズニアの四次元バスケットから勝手に持ち出したブラシで、ブラッシングを施す。


 セバスさんが人間だったと知ってから気持ちのいい毛並みを堪能しづらくなった。しかし、ブラッシング中であれば撫でてしまっても仕方がない。


 「どうですかー。気持ちいいですか」

 「バフ。」


 セバスさんはシッポをブンブン振って喜びを表現する。

 触っていても飽きることの無いこの毛並みを際限なく味わえるなら、俺は毎日だってブラッシングしてあげられる。


 嗚呼、これも日課になりそうだ。


 


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 




 とあるホテルの一室。


 

 「それでは、今日の計画表ですが、こうなりました! じゃんっ!」


 昨日もトランプで負けたリズニアが広げた紙には、ヘタっぴなひらがなが一言書かれていた。


 「べん、きょう?」

 「はい! こうだいその通りですっ! 今日は丸一日使って、この世界の言葉を覚えて行きましょーと言う計画です」

 「良いですね。私はいち早く、言葉を覚えたいのでクズニアさんの計画に賛成です。珖代さんはどうですか?」


 ベッドに腰掛ける俺の隣にさり気なく座る薫さんが、俺の太股に手を置いて聞いてきた。

 こんなことされると昨晩の出来事セットクを思い出す。


 「あ……お、俺も賛成です。リズニア、言葉を覚えるってのは、具体的に何をするんだ?」

 「先生側と教え子側がふたりずつ居るので、二対二に別れてやろうかなって思ってます。」

 「個別か、なるほど。それで、分け方は?」

 「はい。こんなこともあろうかと、クジをご用意しましたー! 中には白と黒の玉が一つずつ入ってます。こうだい引いてみてください。」


 リズニアがどこからともなく取り出したのは、一箇所だけ穴が空いている白いボックス。

 穴の中を覗いても何故か暗くなっていて、中身は視認出来ない。


 とりあえず、手を突っ込んで玉を探る。


 「白なら私が先生で、黒なら、かなみちゃんがこうだいの先生になります。」

 「俺にかかってるって訳か。」


 出来ればかなみちゃんが良いので黒が出てくれるように祈りながら引く。


 取り出した玉の色は────


 「黒だ。」

 「うん! それじゃ私が珖代に教えなきゃだね!」


 かなみちゃんは今にも飛び跳ねそうな勢いで喜んでいた。


 俺もリズニアじゃなくてほっとした。

 アイツと二人でいるとケンカになりかねないのでこの結果が最善だったといえる。


 「じゃあ私は、クズニアさんに教えてもらうってことですね。」

 「そういう事になりますね。さっそく行きましょうか、かおりん! ってちょーい! リ ズ ニ ア ですよっ!」

 「行くって薫さんとどっか行くのか?」

 「良くぞ聞いてくれましたっ! 私の教育方針は外に出て実際の言葉に触れるって教え方ですから、街の大通りの方へ行ってきます!」

 「いきなりだな……平気なのか?」

 「あれー? ひょっとして私達のとこ、心配してくれてますかー? 」


 冷やかすように聞いてくるリズニアにむかっ腹が立つ。


 「当たり前だろ。街にはどんな輩がいるか分かんないだから。」

 「ま、マジレスとか、つまらないですよこうだいっ」


 リズニアは何故か怒っているようで顔を背けた。


 「フフ……珖代さん、私がいますんで心配しなくても大丈夫ですよっ。」

 「いや、でも──」

 「珖代にはかなみの方針に従ってもらうからそっちの心配はあと! こっち来て!」


 かなみちゃんに手を引かれて隣のベッドに移動する。

 かなみちゃんは俺の真正面に腰掛けたので、向かい合って一緒に座っている状態だ。


 リズニアが薫さんに準備を促している間、俺はかなみちゃんの方針について聞いた。


 「日常会話と読み書きを同時にやって行こうかなーって思って、ますっ! まぁ、今回は最初の授業って事だから、簡単な単語から覚えていこうねっ」


 俺の膝にちょこんと手を置いて、まっすぐな目で方針を話すかなみちゃんはまるで、おままごとに父親を巻き込む女の子みたいで微笑ましく思えた。


 


 

 「かおりんも準備が出来たみたいなので、それでは行ってきます。」

 「お母さん頑張ってね!」

 「行ってきます。」

 「二人共、気をつけて行ってらっしゃい。」


 二人が出掛けていくのを、部屋の玄関で見送ってから一旦ベッドに座り込む。


 かなみちゃんが戸締りを確認し、少し遅れて戻ってくる。


 「かなみちゃん、それで今日は何を教えてくれるのかな?」


 少女はほんの少しの逡巡を見せた後、俺に寄りかかるようにベッドに腰を下ろした。


 「ん? お兄さんに、近く……ないかい?」


 どう反応していいか分からず動揺してしまう。


 「このキズ、よく見るとキレイだよね。しめじみたい。」


 


 かなみちゃんが言っているのは笠に切込みを入れたしめじということなのだろうか。

 そうかんがえていると、俺の頬の傷を優しく撫でるかなみちゃんの顔が、フッと近づいてきた。


 その直後。


 俺の十字傷に、じゅるりと生温かいナメクジが這うような感触が伝わり、思わずベッドの上に飛び乗った。

 全身に鳥肌が立つのを感じる。


 「ええ!? ど、どうしたの! 突然!」


 傷のある頬に触れるとやはり唾液のようなモノで湿っていて、ペロッと舐められていたことが理解出来る。


 「その、確かめてみたくなっちゃって。」

 「何を……かな?」

 「ナ イ シ ョ。」


 人差し指を唇に対し垂直に添えて、少女は愉しそうに言った。


 「それより珖代、そこに正座して。」

 「正座?」

 「いいから、正座しなさい。」

 「は、はい。」


 ベッドの上で突然正座を強要される。

 かなみちゃんの行動が読めないので混乱しているが、とりあえず従っておかねばという思いに駆られる。本当におままごとに付き合わされる父親みたいになってきたな……。


 「授業を始めるよ。初回の今日は、からだの部位をクイズ形式で、わかり易く教えてあげる……。」

 「は、はい! 先生。」


 かなみちゃんがベッドを伝って俺の方へ擦り寄ってくる。

 熱っぽい視線を俺の方へ向けている気が……する。


 「まずは、──────ここ。」

 「えっ……。」

 「おへそのしたのこの辺り、何ていうか分かるかなぁ?」


 かなみちゃんは小さくて少し冷たい手を、俺の服の下へと滑り込ませて直に丹田たんでんの辺りを撫でた。


 「ちょっと、かなみちゃん、何を……」


 ほぼ反射的に仰け反って回避しようとしたので、ベッドに押し倒される形となってしまった。


 そんな俺にかなみちゃんはゆっくりと馬乗りになって、今度は両手を服の中へ忍ばせる。太ももでがっちりホールドされて両手を動かせない。


 「おへそより少し上。ここは分かるかなぁ……?」

 「ど、どうしちゃったの! だ、ダメだよ……! かなみちゃんっ!」


 かなみちゃんの、小さくて繊細な指先がゆっくりと俺の体を這い上がって上を目指す。

 全身の神経が研ぎ澄まされたかのように敏感になる体の表層部分が、体内温度を上げろと警鐘を鳴らす。


 彼女の笑顔はもはや少女とは言えないものに色のある物に変貌を遂げていた。


 

 これは明らかに誤算だ。こんな事になると分かっていたら、リズニアの方を引き当てた方がまだマシだった。


 二人っきりの時のかなみちゃんの暴走と爆発力を俺は完全に侮っていた。

 今の彼女はさながら、少女の皮をかぶった小悪魔。お母さんになると宣言してから大人しいと思っていたが、こんな事になるなんて……。

 これ以上されると幾ら少女に紳士的かつ仏な俺でも、理性が保てそうに無い。

 仏のガマンも三度までなのだ。


 「ねぇ、珖代。きのう、お母さんとナニしてたの?」

 「──え?」


 今までとは違う冷静なトーンと質問に、一瞬思考が停止する。


 「何って、薫さんとは二人が寝静まった後、テラスで話し込んだりしてただけだよ。」

 「ふーん、そっか。じゃあ、胸板ここはぁなんて言うと思う?」


 ──良かった。昨日の事はバレていないよう……


 「あっ……♡ああっ!」


 かなみちゃんの両手が俺の心の臓と壁一枚隔てた場所まで伸びてきていた。

 高鳴る心音が、触れている手を伝ってかなみちゃんに届いてしまうと思うと、ものすごく恥ずかしくなって余計に強く波打つ。


 「それでさ、お母さんとベッドでナニしてたの。」


 ──ぬあっ、これ絶対バレてるぅっ!?!


 かなみちゃんのなんとも言えない艶めかしくもトゲトゲした視線が突き刺さる。


 「ななな、何のことかな……?」


 必死に誤魔化す。が、誤魔化せる筈もなく……。


 「ふーん、そっか。じゃあ次は、骨盤から下に行ってみようか……。」


 かなみちゃんが俺の太股の位置までズレて、俺のズボンに手を掛けた始めた。


 「……!? ごめんなさい! ごめんなさい! 話します話しますからっ! あのー、お兄さん、本当はその……」


 これは色仕掛けに見せかけた巧妙な自白への架け橋だと、この時ようやく理解した。

 適当に御託を並べて自白を促してきたリズニアとは訳レベルが違う。


 「本当はぁ……?」


 こんな事されたら、……自白するしか無いでしょう!


 「添い寝してましたっ! 頼まれたというか、頼んだというか……とにかくっ、添い寝してました! それだけですっ!」

 「な ん で?」


 当然の疑問だ。何故か目が怖い……。


 「リズニアを説き伏せるのを協力してもらう為にまず、薫さんを説き伏せる必要があったからです! とぼけてごめんなさい! だから……もう、許して……。」


 あまりの醜態のさらけ出しっぷりに遂に目に涙が溜まってきた。


 「もー、しょうがないなぁ……。」


 数秒ほど見つめあってかなみちゃんは根負けしたかのように許してくれた。


 「じゃあ、今度は……珖代が、かなみにクイズを、出す番だね 。」


 助かったのも束の間、俺の両手首をとったかなみちゃんが、強制的に自分の服の中へ両手を侵入させた。


 これは自白させる為でも何でもない単なる色仕掛けでは……。

 何の為に? いや、わからん。


 地肌に触れるか触れないかの距離なのが、手にほんのり伝わる暖かさでわかる。位置は腕の付け根あたり。


 「ちょっ、ちょ、ちょっと待ってかなみちゃん! お兄さんもやっぱりー、街に出て実際に見て、聞いて、日常会話とか覚えたいなーなんて! どうかな? で、デートみたいになっちゃうかもだけど! 良いと……思わない!?」


 状況を打開する為の、即興の口実にしてはなかなかの傑作できだと我ながら思う。

 これならかなみちゃんを納得させられるかもしれない。これで駄目なら打つ手なんて考える暇はない。一気に攻め落とされて理性崩壊だ。


 「デート……うん! いい提案。じゃ一緒に行こう! 二人でね。」


 


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




 危機を脱したそれからは、二人で色々な所を見て回った。

 美味しいものを見つけたり、そうでは無いものを見つけたり、たくさんの人の会話を聞いて多少は勉強にもなった。

 更には《不条理叛逆ふじょうりはんぎゃく》についても聞いてみた。┠ 叡智 ┨の能力を持つかなみちゃんなら何か分かるかも知れないと踏んでいたが結果、かなみちゃんでも何も分からなかった。


 行く宛も無かったので大通りに寄ってはみたが、薫さんやリズニアの姿は見当たらなかった。


 もうすぐ夕方。薫さん達は部屋のカギを持って行っていないので、そろそろ帰らないと二人に迷惑が掛かってしまう。


 「かなみちゃん、そろそろ帰らないと。」

 「ゴメンね珖代。《不条理叛逆》のこと何も分からなくて……」


 かなみちゃんは落ち込んでいる様子だ。


 「別にかなみちゃんが謝る事じゃないよ。症状も何も出てないから、そのうち分かればいいことだからね。さ、帰ろうか。」

 「待って珖代! ……悪意を感じる……」

 「別に意地悪で言ってる訳じゃないよ。お母さん達が心配しちゃうでしょ?」

 「ううん、そうじゃなくて悪意の匂いが向こうの路地裏からするの……同じ匂いの悪意が……五つ。」


 根拠はないが、かなみちゃんの真剣な表情にただならぬ事態が起きていることだけは予測できる。


 「それって、危険なことなんじゃないのかい……?」

 「うん、だから珖代は先に帰ってて。」

 「いや、この先なんだよね。だったらお兄さんがいくよ。かなみちゃんは危ないから、待ってていいからね。」

 「かなみは気配消せるから大丈夫だよ。」

 「なら、一緒に行くよ。かなみちゃんを一人には出来ないから。」

 「もう……分かったよ。くれぐれも足元には気をつけてね。」


 かなみちゃんは呆れたようにそう言った。たとえ、かなみちゃんに足でまといだと思われても一人で行かせる訳にはいかないのだ。


 


 

 「もしかして、アイツらなのかい? かなみちゃん。いかにも怪しげだね……」


 俺達は物陰に隠れながら、怪しげな紺色のローブを身にまとった連中が、路地裏で立ち話をしている姿を目撃した。

 人数は五人。皆、フードを被っていて顔は確認出来ない。

 ローブの背中部分には、この世界の一文字に二匹のヘビが絡みついている刺繍が入っている。見た目だけでも明らかにやばい連中であることは俺でも分かる。


 「あれ……かなみちゃん? どこ?」


 ついさっきまで隣にいたかなみちゃんがいない。


 慌てて後方を見渡すが見つからない。

 まずい、はぐれたか……? いや、違う。


 ──もしかして、かなみちゃんは気配を消せるって言ってたし、俺よりもヤツらの近くに……


 実際、読みはあっていた。しかし、予想を超えている。


 かなみちゃんは会話しているヤツら五人の円の中に、あたかも六人目のように立っている。


 ────って近いってレベルじゃないぞ!?


 この場所からでは会話の内容が聴こえてこないが、ヤツらはかなみちゃんに気づく素振りを見せない。

 一人だけローブを着てすらない少女がいるのにも関わらずだ。


 一瞬、出ていって助けようとも考えてたが、バレてないようであったので様子を見てみる事にした。


 ──かなみちゃん、頼むからバレないでくれよ……


 しかし、俺の願いは簡単に裏切られる。


 ──自ら会話に参加しだした……!?


 かなみちゃんが隣の人物をツンツンして、何やら話しかけたのだ! ……信じられない光景だが、余りにも自然に自らの意思でだ。


 「お、おかえり……。」


 かなみちゃんが何事も無かったかのように歩いて戻ってきた。


 「聞きたいことは聞けたしもう帰るよ。音には気をつけてね。バレちゃうから。」

 「う、うん……」


 


 路地裏を何事もなく、すんなり抜け出した俺達は帰路に就く。


 「かなみちゃん、会話は聞けたの……かな?」

 「うん、あの人達は国家転覆を目論む、反乱軍の人達なんだって。でね、さっきの集まりは集会場所が急遽変更になった事のお知らせなんだって。」

 「よく、話してくれたね……そんな事。」

 「かなみを仲間だと思ってたかもね。」

 「急遽って何があったのかな?」

 「反乱軍に所属しながら副業で冒険者稼業やってる人が、Eランクの依頼に『この街に潜んでいる反乱軍のアジトを特定せよ』って依頼を見つけちゃったんだって。それで、変更になったらしいよ。」

 「へー……そうなんだ。」


 ──潜伏しているのが、ギルドにバレて変更したのか……。なんか、ふわっとしたバレ方だな……


 「そう言えばさっき、かなみちゃんから話し掛けてたように見えたんだけどあれは……?」

 「それが、集合場所が『八-四-二-B-七』って聞いたけど何か全然分からなくて」

 「なるほど。いつ誰に聞かれているか分からないから、重要な" 場所 "に関することは暗号化されていた訳か……厄介だね。」

 「分からないから、それってどこですか? って聞いたら『八日後、西門沿いの二番目に大きな倉庫の横の建物、夜七時』って教えくれたのね」

 「暗号の意味は!? てか、街に潜伏してる事が筒抜けなのに変更先も街の中とかアホなのか!?」


 ──見積もりが甘過ぎるだろ反乱軍……。そんなんだからEランクの冒険者でも事足りると思われてるんじゃないか……?


 反乱軍名ばかりの集団が心配になる。

 なんだかどっと疲れた……


 


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




 夜のテラス。今日も薫さんと二人きりの会話の時間。


 気の合う薫さんとこうしている時間が、俺にとって安息の一時になりつつある。


 「珖代さんはひょっとして、負けず嫌いですか?」

 「え……! どうして急にそう思ったんですか?」

 「リズニアさんにトランプで負けたのが相当悔しそうでしたから。 」


 薫さんの言う通り、計画表を書かされることより、今日はアイツに負けたこと自体が不服でいる。


 「あのー、俺ってそんなにわかり易いですかね……?」

 「そうですね……。リズニアさんは顔にすぐ出るので初対面でもわかり易い人だと思います。一方、珖代さんは顔には出すまいと必死ですが、何かを隠しているのがバレバレで、話していくうちにそれが何なのか分かるようになります。」

 「それじゃ、俺は話せば話すほどボロが出るって訳ですか……」

 「一緒にいればそのうち、隠し事は何も出来なくなりますねっ。」


 満面の笑みで言われた。


 「あはは……。そうですね。」


 俺は、苦笑いしかでない。


 

 かなみちゃんと二人で反乱軍に出会ったことなどはいつもの様に皆で集まった時に話している。

 相談した結果、今は関わらない方向で決まった。

 理由としては、Eランク以上の誰かが依頼を受けて調査している可能性があるからだ。誰かの邪魔をする訳には行かないし、そんなに難しい依頼にも感じ無かったし、すぐ終わるだろう。


 「そうだ、リズを説得してくれた件、ありがとうございます。」

 「いえいえ、約束した事ですし、当然のことですよ」


 きのこを特産品にする件は、先ほど部屋で、薫さんが説得してくれた。

 俺が言っても食ってかかるだけのリズニアが、薫さんの説得には応じてくれたのだから本当に助かった。


 「薫さん、ずっと聞こう聞こうと思っていたんですが、生前の職業って何だったんですか?」

 「生前……ですか? 地球にいる時はマンガ家をしていました。」

 「へー! マンガ家ですか。どんな漫画を描いていたんですか?」

 「その、悪っぽい少年達を……メインにしたモノを描いてました」


 薫さんは言いづらそうに言う。


 「それって、ヤンキー漫画って事ですか……?」

 「ええ、そうです。子供の頃からヤンキー漫画とかに出てくる、不器用だけど、真っ直ぐな主人公とかに憧れがあって……それがキッカケでマンガ家になったんです。」

 「なんか、意外でした。薫さんはそういうタイプに憧れるんですね。」

 「ええ、まぁ……。若い時には夫のヤンチャな部分に惹かれたんですが、その夫はヤンチャし過ぎて、結局借金つくって逃げちゃいましたけどね……。」

 「ごめんなさい……。嫌な事を思い出させてしまって。」

 「いえ、大丈夫です。それより珖代さんに聞きたいことがあります。」

 「はい、何でも仰ってください。」

 「先日、かなみくらいの女の子に挨拶をした後、顔も合わせてもらえず走り去られてましたよね? その時どう思いましたか?」

 「えっと、嫌われたかな? って思いました。」

 「それは今もですか?」

 「は、はい。それが、どうしたんですか?」

 「やはり鈍感系……」

 「……え?」

 「しかも、難聴系と……」

 「いや、ちょっと待ってください。その鈍感系とか、ナンチョー系とか言うのイマイチよく分からないんですが……。どういうことなんですか……?」

 「夜はこれからですから。干し草の上でたっぷり考えてみたら如何ですか?」


 口調から察するに何故か薫さんは怒っている。


 「えー。そんな薫さーん……」


 俺は何を間違えたのだろうか。今日もグッスリ眠れそうに無い……。


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