世界を渡る少年
第三十九話
 
 
王国に新たな英雄譚が生まれた。
一介の傭兵から決死の敵地潜入を経て外務卿ラスネール侯爵を見事に救出し、いたく感謝した侯爵は彼を自らの養子とすることを申し出たと言う。
彼の名は中御神真人。
ふって湧いたような少年のサクセスストーリーに王国の民衆は悪化する戦況に訪れた一服の清涼剤としてこれを大いに歓迎していた。
 
しかしながらこの事態を苦々しく感じる勢力も存在する。
もちろんのことマンシュタイン公爵を筆頭とする門閥貴族たちであった。
彼らは始末するはずであったラスネールを帰還させた真人を深く恨んでいたし、ウーデットの影響下にある真人の出世を望むべくもなかったのだ。
 
なんとか理由をこじつけてでも真人を放逐したいところであったが、彼らの思惑とは裏腹に真人の昇進と授爵はとんとん拍子に進み今日の式典を迎えていたのだった。
謀略を策動する間もない電撃的な決定の裏にはオルパシア王国現国王アルハンブラの意向が大きく働いていた。
王家にとってはこの戦争の行く末は他の誰よりも切実な問題である。
メイファン王国で王家の人間が五親等にいたるまで虐殺の憂き目を見たことでもそれは明らかだった。
である以上戦争に勝ち抜くためならば門閥貴族を敵にまわすことも厭わぬ覚悟を国王は固めていた。
 
 
「汝、マヒト・ナカオカミ・ティレース・ノルド・シェレンベルグを王国騎士並びに子爵に任ずる。また、王命により南部方面において傭兵部隊と連携して二個中隊を指揮下におくものとする。真人子爵よ。卿が救い出してくれたラスネール侯爵は余の腹心にして数少ない友でもある。改めてここに礼を言うとともに、卿が王国に再び吉報をもたらしてくれることを望む。さあ、称えよ皆のもの!王国に勝利をもたらす英雄の誕生を祝って!」
 
「王国万歳!」
「アルハンブラ陛下万歳!」
「マヒト子爵万歳!」
 
宮廷内に歓呼の声が木霊する。
儀礼官の一人がしずしずと真人の前に進み出ると国王とともにバルコニーで国民に応えるように促した。
真人はただ頷くことで了承の意を伝えるとバルコニーへと歩き出した。
 
既に国王アルハンブラ一世の登場に民衆は大歓声をあげていた。
王城に集った民の数およそ10万人……それは王都に住まう人口の約半数に達する。
その人手と歓声の大きさは国王アルハンブラ一世の人気と、若き英雄の登場に対する国民の期待の表れに違いなかった。
 
ブリストル帝国は武力に特化した国家形態をとっており、国で地位あるものといえば軍人か軍神ストラトの神官と相場が決まっている。
文化も爛熟した文治の国であるオルパシアの民としては到底容認しがたい相手であった。
なんとしても故国オルパシアに勝ち残ってもらいたい。善良で篤実と噂の高いアルハンブラ国王のためにも。
ひたむきな思いと期待が入り混じった民衆の瞳にまるで稜線から朝陽が顔を出したがごとき煌きが飛び込んできた。
 
 
その白銀の輝きは目映く、どこか重厚な白亜の神殿を思わせる厳粛な空気を纏っていた。
見事な円形を描いた髪の艶がまるで王冠のようにも感じられる。
期せずして10万になんなんとする民衆の歓声が止んだ。
 
日のかげりとともに目も覚めるような造形の美貌が露わとなる。
嘆声がいたるところで漏れ広がった。
ほとんど奇跡のような黄金率の体現された肢体であった。
煌く髪
眼光鋭い黄金の瞳
白磁を思わせる染みひとつない手
しなやかさと頑健さを兼ね備えた引き締まった身体
10万の人間が想像をだにすることができなかった若者がそこにいた。
 
 
ゆっくりと真人の右手が息を潜めて見守る民衆に向かって伸ばされる。
 
「王国騎士にしてシェレンベルグ子爵を拝命したマヒト・ナカオカミ・ティレース・ノルド・シェレンベルグである。我は誓約する。我は己の守るべきものの守護者である。貴君らが我の友であるならば我は貴君らの守護者である。我の敵に災厄を与えよう。二度と歯向かう気の起きぬまで。我の友に安寧を与えよう。敵から守る千丈の壁となって。」
 
 
爆発が起きた。
 
アルハンブラは驚きを通り越して呆れながら隣の若者を見つめるしかなかった。
日ごろ国民の歓声を聞きなれている彼にして、声が爆発するものであるということを今日初めて知ったのだった。
しかも彼から発散される威風ときたらどうだ。
見た目にはようやく身長が170cmほどに達しようかという決して長身とはいえぬ体型。
肉つきも華奢な部類に入るだろう。
だが身にまとった気配は歴戦の戦士、あるいは治世の賢王も及ばぬ守護者のそれだ。
この少年なら自分たちを守ってくれる。
そう根拠もなしに信じられるだけの気配が一国の王たる自分ですら感じ取れるのであった。
 
いったいどんな矜持と覚悟があればかくも見事な守護者と成りうるのか………?
 
真人の生い立ちに興味をそそられつつも、アルハンブラ一世はそれが決して心地よいものでないだろうことを予想していた。
あれほどに無私で純粋な守護の担い手は、間違いなく人として壊れているはずだからであった。
 
 
 
割れんばかりの歓呼の声をマンシュタイン公爵をはじめとする門閥貴族たちは苦々しい思いで聴いていた。
群集の中には真人を中傷するべく手の者を配置していたのだが、この歓声ではかき消されて何ほどの役にもたつまい。
いささか真人を見目形がいいだけの若造と侮っていたが、今後は考えを変えねばならないだろう。
少なくともただの美貌では説明のつかない風靡の才があの少年にはあるのだ。
 
「閣下、あの若造どう扱ったものでしょうか?」
 
マンシュタインに同じく門閥貴族であるダウディング伯爵が問いかける。
本来ならいかなる手段を使ってでも排除すべき男だ。
しかし今は戦時であり、戦争に負けることは自分たちの破滅でもある以上手心を加えねばならないこともまた事実であった。
要は真人抜きでこの戦争に勝てるかということが問題なのだ。
 
「様子を見るしかあるまいな。少なくとも当面の間は」
 
いかにも不本意だ、という顔をしながらもマンシュタインの内心はそれほど焦ってはいない。
戦争に勝ったときこそその甘い果実は自分が独占するつもりであったし、そのための準備も進めていた。
仮に戦争に負けるようなことがあれば、その時は名門中の名門であるマンシュタイン家の名と権益だけは守り抜けるよう水面下でブリストルの高官との接触も開始している。
今以上の待遇が約束されるなら王国を裏切ることもやぶさかではない。
もっとも手のひらを返されたり王国が勝利しないともかぎらないので決断には慎重を要するであろうが…………。
 
どう転ぼうともわしの掌中を飛び出すようなことにはさせぬ。
 
長年にわたってオルパシア王国に君臨してきた筆頭公爵家に既に王家への忠誠心はなかった。
あるのは肥大化した自尊心と権力への妄執、それだけであった。
 
マンシュタインが自らの右に控えていた青年に目を向ける。
礼服に身を包んではいるが、その鍛え上げられた肉体と冴え冴えとした眼光は明らかに軍人のそれである。
もっともその整った顔立ちと気品から察するにそれなりに身分の高い貴族ではあるだろう。
ただ、何かにとり憑かれたような余裕の無い瞳をしていた。
 
さて、この男どうやって使ってくれようか…………。
 
男の名はオズヴァルド・ヴァリアント・ソラス・エクゼター伯爵。
メイファン王国からの亡命者でメイファン残存勢力の中心になる人物であった。
 
 
 
 
「…………どういったご用件でございましょう?」
 
声音が冷たくなるのは如何ともしがたい。
シェラは目の前の女性が何のために現れたのかくらい問わずともわかっていた。
 
「せっかく真人さまが当家に来てくれると思っていたのに屋敷を出るつもりがないようですから私から出向いたのですわ!」
 
大きな胸を自慢げに反らせて見せるその女性はアナスタシア侯爵令嬢……今となっては真人の義姉にあたる女性だった。
 
「真人さま………いいえ真人。貴方の義姉が参りましたわ!もう寂しい思いはさせませんわよ!」
 
ご主人様は貴女なんかいなくたって寂しくなんかありません!
 
思わず絶叫しそうになるのをシェラは必死にこらえる。今の自分はメイドなのだ。分をわきまえなくてはならない。
 
「どうなさったの?早く義姉上と呼んではくださらないの?」
 
怒涛のアナスタシアの勢いに真人は口を挟むことも出来ずにいた。
それにしてもどうして自分の周りの女性陣はこうも強いのだろうか。
 
「あ、義姉上………いったどうしたのです?義父上はこのことをご存知なのですか?」
 
「余計な心配はしなくてよいのです。年下は年下らしく年長者の甘えていればよいのですわ!」
 
さあ!と言わんばかりに両手を広げいざ抱擁を交わさんとするアナスタシアの前に意外な伏兵が立ち塞がった。
 
「お兄ちゃん………式典の間お留守番で寂しかったの………このままギュッてしてもいい?」
 
「プリム!」
「なんじゃお主は!」
 
シェラとアナスタシアの抗議の声もむなしく既に真人は兄馬鹿スイッチが入ってしまってプリムを抱きしめてご満悦である。
 
「なりは小さくとも女だねえ……………」
 
ディアナは恋敵たちの暗闘を眺めつつプリムの手強さに舌を巻いていた。
もしかしたらあの幼い少女が一番のライバルであるのかもしれない。
時間の経過はあの娘の味方だ。とりわけ自分やアナスタシアのような年上の者にとっては。
しかも真人はどうも庇護欲をそそられるタイプに弱い。
 
だが、甘いねプリム。戦場での男女の付き合いってもんを私が真人に教えてあげるよ…………。
 
戦に高ぶった身体は性欲を滾らせる。
何気に真人を戦場で押し倒す気満々なディアナであった……………。
 
 
 
王国に新たな英雄譚が生まれた。
一介の傭兵から決死の敵地潜入を経て外務卿ラスネール侯爵を見事に救出し、いたく感謝した侯爵は彼を自らの養子とすることを申し出たと言う。
彼の名は中御神真人。
ふって湧いたような少年のサクセスストーリーに王国の民衆は悪化する戦況に訪れた一服の清涼剤としてこれを大いに歓迎していた。
 
しかしながらこの事態を苦々しく感じる勢力も存在する。
もちろんのことマンシュタイン公爵を筆頭とする門閥貴族たちであった。
彼らは始末するはずであったラスネールを帰還させた真人を深く恨んでいたし、ウーデットの影響下にある真人の出世を望むべくもなかったのだ。
 
なんとか理由をこじつけてでも真人を放逐したいところであったが、彼らの思惑とは裏腹に真人の昇進と授爵はとんとん拍子に進み今日の式典を迎えていたのだった。
謀略を策動する間もない電撃的な決定の裏にはオルパシア王国現国王アルハンブラの意向が大きく働いていた。
王家にとってはこの戦争の行く末は他の誰よりも切実な問題である。
メイファン王国で王家の人間が五親等にいたるまで虐殺の憂き目を見たことでもそれは明らかだった。
である以上戦争に勝ち抜くためならば門閥貴族を敵にまわすことも厭わぬ覚悟を国王は固めていた。
 
 
「汝、マヒト・ナカオカミ・ティレース・ノルド・シェレンベルグを王国騎士並びに子爵に任ずる。また、王命により南部方面において傭兵部隊と連携して二個中隊を指揮下におくものとする。真人子爵よ。卿が救い出してくれたラスネール侯爵は余の腹心にして数少ない友でもある。改めてここに礼を言うとともに、卿が王国に再び吉報をもたらしてくれることを望む。さあ、称えよ皆のもの!王国に勝利をもたらす英雄の誕生を祝って!」
 
「王国万歳!」
「アルハンブラ陛下万歳!」
「マヒト子爵万歳!」
 
宮廷内に歓呼の声が木霊する。
儀礼官の一人がしずしずと真人の前に進み出ると国王とともにバルコニーで国民に応えるように促した。
真人はただ頷くことで了承の意を伝えるとバルコニーへと歩き出した。
 
既に国王アルハンブラ一世の登場に民衆は大歓声をあげていた。
王城に集った民の数およそ10万人……それは王都に住まう人口の約半数に達する。
その人手と歓声の大きさは国王アルハンブラ一世の人気と、若き英雄の登場に対する国民の期待の表れに違いなかった。
 
ブリストル帝国は武力に特化した国家形態をとっており、国で地位あるものといえば軍人か軍神ストラトの神官と相場が決まっている。
文化も爛熟した文治の国であるオルパシアの民としては到底容認しがたい相手であった。
なんとしても故国オルパシアに勝ち残ってもらいたい。善良で篤実と噂の高いアルハンブラ国王のためにも。
ひたむきな思いと期待が入り混じった民衆の瞳にまるで稜線から朝陽が顔を出したがごとき煌きが飛び込んできた。
 
 
その白銀の輝きは目映く、どこか重厚な白亜の神殿を思わせる厳粛な空気を纏っていた。
見事な円形を描いた髪の艶がまるで王冠のようにも感じられる。
期せずして10万になんなんとする民衆の歓声が止んだ。
 
日のかげりとともに目も覚めるような造形の美貌が露わとなる。
嘆声がいたるところで漏れ広がった。
ほとんど奇跡のような黄金率の体現された肢体であった。
煌く髪
眼光鋭い黄金の瞳
白磁を思わせる染みひとつない手
しなやかさと頑健さを兼ね備えた引き締まった身体
10万の人間が想像をだにすることができなかった若者がそこにいた。
 
 
ゆっくりと真人の右手が息を潜めて見守る民衆に向かって伸ばされる。
 
「王国騎士にしてシェレンベルグ子爵を拝命したマヒト・ナカオカミ・ティレース・ノルド・シェレンベルグである。我は誓約する。我は己の守るべきものの守護者である。貴君らが我の友であるならば我は貴君らの守護者である。我の敵に災厄を与えよう。二度と歯向かう気の起きぬまで。我の友に安寧を与えよう。敵から守る千丈の壁となって。」
 
 
爆発が起きた。
 
アルハンブラは驚きを通り越して呆れながら隣の若者を見つめるしかなかった。
日ごろ国民の歓声を聞きなれている彼にして、声が爆発するものであるということを今日初めて知ったのだった。
しかも彼から発散される威風ときたらどうだ。
見た目にはようやく身長が170cmほどに達しようかという決して長身とはいえぬ体型。
肉つきも華奢な部類に入るだろう。
だが身にまとった気配は歴戦の戦士、あるいは治世の賢王も及ばぬ守護者のそれだ。
この少年なら自分たちを守ってくれる。
そう根拠もなしに信じられるだけの気配が一国の王たる自分ですら感じ取れるのであった。
 
いったいどんな矜持と覚悟があればかくも見事な守護者と成りうるのか………?
 
真人の生い立ちに興味をそそられつつも、アルハンブラ一世はそれが決して心地よいものでないだろうことを予想していた。
あれほどに無私で純粋な守護の担い手は、間違いなく人として壊れているはずだからであった。
 
 
 
割れんばかりの歓呼の声をマンシュタイン公爵をはじめとする門閥貴族たちは苦々しい思いで聴いていた。
群集の中には真人を中傷するべく手の者を配置していたのだが、この歓声ではかき消されて何ほどの役にもたつまい。
いささか真人を見目形がいいだけの若造と侮っていたが、今後は考えを変えねばならないだろう。
少なくともただの美貌では説明のつかない風靡の才があの少年にはあるのだ。
 
「閣下、あの若造どう扱ったものでしょうか?」
 
マンシュタインに同じく門閥貴族であるダウディング伯爵が問いかける。
本来ならいかなる手段を使ってでも排除すべき男だ。
しかし今は戦時であり、戦争に負けることは自分たちの破滅でもある以上手心を加えねばならないこともまた事実であった。
要は真人抜きでこの戦争に勝てるかということが問題なのだ。
 
「様子を見るしかあるまいな。少なくとも当面の間は」
 
いかにも不本意だ、という顔をしながらもマンシュタインの内心はそれほど焦ってはいない。
戦争に勝ったときこそその甘い果実は自分が独占するつもりであったし、そのための準備も進めていた。
仮に戦争に負けるようなことがあれば、その時は名門中の名門であるマンシュタイン家の名と権益だけは守り抜けるよう水面下でブリストルの高官との接触も開始している。
今以上の待遇が約束されるなら王国を裏切ることもやぶさかではない。
もっとも手のひらを返されたり王国が勝利しないともかぎらないので決断には慎重を要するであろうが…………。
 
どう転ぼうともわしの掌中を飛び出すようなことにはさせぬ。
 
長年にわたってオルパシア王国に君臨してきた筆頭公爵家に既に王家への忠誠心はなかった。
あるのは肥大化した自尊心と権力への妄執、それだけであった。
 
マンシュタインが自らの右に控えていた青年に目を向ける。
礼服に身を包んではいるが、その鍛え上げられた肉体と冴え冴えとした眼光は明らかに軍人のそれである。
もっともその整った顔立ちと気品から察するにそれなりに身分の高い貴族ではあるだろう。
ただ、何かにとり憑かれたような余裕の無い瞳をしていた。
 
さて、この男どうやって使ってくれようか…………。
 
男の名はオズヴァルド・ヴァリアント・ソラス・エクゼター伯爵。
メイファン王国からの亡命者でメイファン残存勢力の中心になる人物であった。
 
 
 
 
「…………どういったご用件でございましょう?」
 
声音が冷たくなるのは如何ともしがたい。
シェラは目の前の女性が何のために現れたのかくらい問わずともわかっていた。
 
「せっかく真人さまが当家に来てくれると思っていたのに屋敷を出るつもりがないようですから私から出向いたのですわ!」
 
大きな胸を自慢げに反らせて見せるその女性はアナスタシア侯爵令嬢……今となっては真人の義姉にあたる女性だった。
 
「真人さま………いいえ真人。貴方の義姉が参りましたわ!もう寂しい思いはさせませんわよ!」
 
ご主人様は貴女なんかいなくたって寂しくなんかありません!
 
思わず絶叫しそうになるのをシェラは必死にこらえる。今の自分はメイドなのだ。分をわきまえなくてはならない。
 
「どうなさったの?早く義姉上と呼んではくださらないの?」
 
怒涛のアナスタシアの勢いに真人は口を挟むことも出来ずにいた。
それにしてもどうして自分の周りの女性陣はこうも強いのだろうか。
 
「あ、義姉上………いったどうしたのです?義父上はこのことをご存知なのですか?」
 
「余計な心配はしなくてよいのです。年下は年下らしく年長者の甘えていればよいのですわ!」
 
さあ!と言わんばかりに両手を広げいざ抱擁を交わさんとするアナスタシアの前に意外な伏兵が立ち塞がった。
 
「お兄ちゃん………式典の間お留守番で寂しかったの………このままギュッてしてもいい?」
 
「プリム!」
「なんじゃお主は!」
 
シェラとアナスタシアの抗議の声もむなしく既に真人は兄馬鹿スイッチが入ってしまってプリムを抱きしめてご満悦である。
 
「なりは小さくとも女だねえ……………」
 
ディアナは恋敵たちの暗闘を眺めつつプリムの手強さに舌を巻いていた。
もしかしたらあの幼い少女が一番のライバルであるのかもしれない。
時間の経過はあの娘の味方だ。とりわけ自分やアナスタシアのような年上の者にとっては。
しかも真人はどうも庇護欲をそそられるタイプに弱い。
 
だが、甘いねプリム。戦場での男女の付き合いってもんを私が真人に教えてあげるよ…………。
 
戦に高ぶった身体は性欲を滾らせる。
何気に真人を戦場で押し倒す気満々なディアナであった……………。
 
 
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