世界を渡る少年
第五話
 
 
「どうしてよ!?」
 
ルーシアは思いもかけない父親の反対に思わず噛みついていた。
 
「今記憶喪失と言ったな、ルーシア」
 
「…………うん」
 
もちろん嘘だった。
しかし真人が異世界から来ましたなどという話をこのお堅い父が信じるはずもない。
真実を話せない以上今の真人を言い表せるのは記憶喪失くらいしか思いつかなかったのだ。
 
「彼が記憶を取り戻したとき、実はブリストルの生まれ出ないとどうして言える?」
 
真人は違うー!本当は大声でそう言いたいが……ルーシアは言葉を失ってうつむいた。
 
「それでなくとも今は我が家の落ち度を探そうと国相派の貴族どもが鵜の目鷹の目で狙っておる……今日お前が狙われたのがいい例だ。
ブリストルの内部工作とていつあるか知れたものではない。いずこのものとも知れぬ男を屋敷に引き込むわけにはいかんのだ。………感謝はしているのだが。」
 
さすがのルーシアもそう言われて父に頭まで下げられてはこれ以上ごねるわけにはいかなかった。
 
「………仕方ないわ……褒美はいただけるのでしょう?」
 
「王国金貨で千枚だそう。」
 
「ええっ?」
 
一瞬耳を疑う。
金貨千枚という金額はルーシアの想定を遥かに超えたものだった。
ハースバルド伯爵領からあがる年収のほぼ一割に相当する。平民どころか下級貴族でも一生遊んで暮らせる金額だった。
 
ルーシアはようやく父親の真人に対する感謝の深さを悟った。
本当はいくらでも屋敷でもてなしたいのだ。
できることなら真人が軍で一定の地位を得られるよう口を利いてやりたい。
しかし公人たるウーデットはそれができない。
謝礼金で解決するなど、ウーデットの気性からいって不本意に違いない。
その中で最大限の感謝の表象に違いなかった。
 
「本当に不器用なんだから………お父様は……!」
 
ルーシアはため息とともにたくましい父の胸に頬をすりよせた。
 
………そんな父が大好きだ。
父とともにこの国を守る力となる……軍に入ったときの誓いをルーシアは再び思い出していた。
 
 
……そうだ
 
「お父様、傭兵は出身の有無を問いませんでしたわね?」
 
「確かに傭兵なら腕さえ立つなら問題はないだろうが………大丈夫なのかね、彼は」
 
ウーデットは胡乱な目で真人をみやった。
腕のことを言っているのではない。
剣の腕前に関する限り娘の目は確かだ。それは自分が一番よく知っている。
問題は………少女のようにたおやかなで柔和な顔立ちをした少年が荒くれ者の巣窟と化している傭兵隊でやっていけるのか、ということなのだ。
 
「何も問題ないわ。どうせ真人に傷一つ負わせられる奴なんているわけないし……ねえ真人、それでいいでしょう?」
 
ルーシアは傭兵の荒くれどもが腰が抜けるほど驚くさまを想像してニヤリと笑った。
 自分の指揮下におくという予定は変わったが大筋で計画に変更はない。
むしろ危険な任務に真っ先につかされる傭兵のほうが頭角を現すには早いかもしれない。
 
屋敷への帰り道、真人はルーシアへの協力を約束していた。
なんといってもこの異世界で初めて得た知己であるし、ルーシアを穢そうとした敵のやり口にも憤りを感じていたのだ。
それに真人のいた中御神家ではこうした偶然の出会い……縁の中には神意が介在する場合があるからおろそかにしないように…との家訓がある。
真人には異世界に放りだされてすぐ、たまたまルーシアの命を救うことになったことがただの偶然とは思えなかった。
ならばしばらくは乗ってみるのも悪くはない。それにどうせ一度失われた命だ。
傭兵というのがどういったところかは知らないがいずれにしろ…………
 
 
オレは戦うことでしか人の役にたてない……………
 
 
必要なことは正しく戦う時と相手を見定めるのみ………
 
 
「それでかまいません。ルーシア」
 
真人は艶やかな微笑みを浮かべてルーシアに頷いた。
 
 
 
 
 
そんな真人を天空から見つめる一対の瞳がある。
 
「さて、仕込みは終わった………次はお主が自分で動く番だぞ、少年よ………」
 
アヌビア世界のもっとも強大な五柱の一、カムナビの姿がそこにあった。
 
 
「どうしてよ!?」
 
ルーシアは思いもかけない父親の反対に思わず噛みついていた。
 
「今記憶喪失と言ったな、ルーシア」
 
「…………うん」
 
もちろん嘘だった。
しかし真人が異世界から来ましたなどという話をこのお堅い父が信じるはずもない。
真実を話せない以上今の真人を言い表せるのは記憶喪失くらいしか思いつかなかったのだ。
 
「彼が記憶を取り戻したとき、実はブリストルの生まれ出ないとどうして言える?」
 
真人は違うー!本当は大声でそう言いたいが……ルーシアは言葉を失ってうつむいた。
 
「それでなくとも今は我が家の落ち度を探そうと国相派の貴族どもが鵜の目鷹の目で狙っておる……今日お前が狙われたのがいい例だ。
ブリストルの内部工作とていつあるか知れたものではない。いずこのものとも知れぬ男を屋敷に引き込むわけにはいかんのだ。………感謝はしているのだが。」
 
さすがのルーシアもそう言われて父に頭まで下げられてはこれ以上ごねるわけにはいかなかった。
 
「………仕方ないわ……褒美はいただけるのでしょう?」
 
「王国金貨で千枚だそう。」
 
「ええっ?」
 
一瞬耳を疑う。
金貨千枚という金額はルーシアの想定を遥かに超えたものだった。
ハースバルド伯爵領からあがる年収のほぼ一割に相当する。平民どころか下級貴族でも一生遊んで暮らせる金額だった。
 
ルーシアはようやく父親の真人に対する感謝の深さを悟った。
本当はいくらでも屋敷でもてなしたいのだ。
できることなら真人が軍で一定の地位を得られるよう口を利いてやりたい。
しかし公人たるウーデットはそれができない。
謝礼金で解決するなど、ウーデットの気性からいって不本意に違いない。
その中で最大限の感謝の表象に違いなかった。
 
「本当に不器用なんだから………お父様は……!」
 
ルーシアはため息とともにたくましい父の胸に頬をすりよせた。
 
………そんな父が大好きだ。
父とともにこの国を守る力となる……軍に入ったときの誓いをルーシアは再び思い出していた。
 
 
……そうだ
 
「お父様、傭兵は出身の有無を問いませんでしたわね?」
 
「確かに傭兵なら腕さえ立つなら問題はないだろうが………大丈夫なのかね、彼は」
 
ウーデットは胡乱な目で真人をみやった。
腕のことを言っているのではない。
剣の腕前に関する限り娘の目は確かだ。それは自分が一番よく知っている。
問題は………少女のようにたおやかなで柔和な顔立ちをした少年が荒くれ者の巣窟と化している傭兵隊でやっていけるのか、ということなのだ。
 
「何も問題ないわ。どうせ真人に傷一つ負わせられる奴なんているわけないし……ねえ真人、それでいいでしょう?」
 
ルーシアは傭兵の荒くれどもが腰が抜けるほど驚くさまを想像してニヤリと笑った。
 自分の指揮下におくという予定は変わったが大筋で計画に変更はない。
むしろ危険な任務に真っ先につかされる傭兵のほうが頭角を現すには早いかもしれない。
 
屋敷への帰り道、真人はルーシアへの協力を約束していた。
なんといってもこの異世界で初めて得た知己であるし、ルーシアを穢そうとした敵のやり口にも憤りを感じていたのだ。
それに真人のいた中御神家ではこうした偶然の出会い……縁の中には神意が介在する場合があるからおろそかにしないように…との家訓がある。
真人には異世界に放りだされてすぐ、たまたまルーシアの命を救うことになったことがただの偶然とは思えなかった。
ならばしばらくは乗ってみるのも悪くはない。それにどうせ一度失われた命だ。
傭兵というのがどういったところかは知らないがいずれにしろ…………
 
 
オレは戦うことでしか人の役にたてない……………
 
 
必要なことは正しく戦う時と相手を見定めるのみ………
 
 
「それでかまいません。ルーシア」
 
真人は艶やかな微笑みを浮かべてルーシアに頷いた。
 
 
 
 
 
そんな真人を天空から見つめる一対の瞳がある。
 
「さて、仕込みは終わった………次はお主が自分で動く番だぞ、少年よ………」
 
アヌビア世界のもっとも強大な五柱の一、カムナビの姿がそこにあった。
 
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