クラス転移したら俺だけステータスが現れた件

S・R

3話 エルド

 異世界で初めて出会った騎士が男色だと知り、約一週間ほどの時間が流れた。
 神父から話を聞いて、ここが異世界であることが分かった。
 その名もエルド。

 約2000年前、この世界では神々と悪魔達の代理として、純人族と魔人族たちが地上の覇権を巡って争っていたらしい。
 その戦争では純人族が勝利したのだが、10年前に魔人族が急速に力をつけ、あっという間に一国を滅ぼしてしまったようなのだ。

 魔人族は一国を滅ぼした後、宣戦布告をして大陸中の国々へと侵略していった。
 今のところ落とされた国は無いが、このまままでは純人族が滅ぶと思った神父は、昔の文献を使って見様見真似で儀式を行ったようである。

「見様見真似で儀式.......か。この世界の人間はバカなのか?」
「こらっ!そういうこと言わないの!」
「いでっ!」

 俺の小さな呟きが聞こえてきたのか、頭を引っぱたかれてしまう。

 俺たちが召喚された場所は、《神聖国アルヘリオン》。
 絶対王政を正当化する為に王権神授説を主に広められている国家として作られ、その頂点に存在する教皇が国を統治している。

「考え込んでるみたいだけど、しっかり休まないと体調崩すよ」

 俺の体調を気遣っているのは、見た目は美少女だが下半身には立派な息子が付いている少年.......春である。

 この世界に召喚される時、クラスメイト全員に《スキル》という特殊な力を与えられたそうだ。
 そして、春が与えられた力は【韋駄天】。
 誰よりも早く走れる能力である。
 一度だけ使っているところを見たが、新幹線ほどの速さだった。
 早すぎて、思わずドン引きしてしまうほどだ。

「やぁ。君たちは相変わらず仲がいいね」

 そして、いつも通り春と二人でいる時に現れた美青年は.......もちろん光磨のことである。
 光磨が得た能力は、2000年前の勇者たちを率いた《救世の勇者》の力、【光の加護】という能力。
 その能力を持っていると知った人たちは、神父と一緒に発狂しながら喜んでいた。

「光磨くんは修斗くんとは幼馴染なんでしょ?良いなぁ。僕も同じくらいの時期に修斗くんと出会いたかったよ」

 春は羨ましそうに俺たちを見つめていた。

「.......そういえば、光磨はスカウトが来たんだろ?」
「うん。人々のために力を貸してほしいってね」

 光磨は2000年前の英雄と同じの能力を持っているので、様々な国からスカウトが来ている。
 そして、つい先日は《ソレイユ》という大国からも来たようだ。
 この国は《救国の勇者》が興した国であり、現存する国の中で最強と謳われている。
 そんな国にスカウトされたのだから、かなりの高待遇で迎えてくれるだろう。

「そんでスカウト受けるの?」
「うん。その条件として一緒に召喚されたクラスメイトたちを養ってもらう事にしたんだ」
「お前らしいな」
「それでさ.......」

 光磨は何か言いにくそうにしていた。

「.......どうしたんだ?」
「修斗.......この世界に来た時なんて思った?」

 いつもの爽やかな笑顔ではなく、真剣な表情で問いかけてきた。

「んー.......少しワクワクしたかな」
「はぁ。やっぱりね」
「ふふふ.......修斗くんらしいよ」

 俺は真面目に問の答えを返したら、光磨は溜め息を吐きながら呆れ、春は微笑んでいた。

「分かっていると思うけど、この世界はゲームの中ではないんだよ」
「おう。そんくらい分かってる」
「つまり.......この世界で死んでしまったらコンティニューなんてものは無いから、そこで終わりなんだ……だから一緒に来ないか?」

 光磨は縋るような視線を向け、手を伸ばしてきた。
 幼馴染にもしもの事があったら嫌なのだろう。
 それに、こいつは優しい.......優しすぎるのだ。
 だから、いつも自分にとって損な役回りをする。

「嫌だね。せっかく異世界に来たんだ。楽しまなきゃ損だろ」
「はぁ.......やっぱり」

 最初から答えが分かっていたのか、また溜息を吐いていた。

「沢田くん.......も来ないよね」
「もちろん!」

 春もソレイユへ行かないようだ。
 他の大国からスカウトが来ているから、そっちに行くのかもしれない。
 みんなバラバラになってしまうと思うと、少し寂しくなってくる。

「修斗くんは何をしでかすか分からないから僕が見ておかないとね!」
「ん?.......はあ!?」

 少しの寂しさを感じている時、春がトンデモ発言した。
 どうやら大国からのスカウトを蹴って、俺に着いてくる気のようだ。

「うん。そうしてくれると俺も安心できるよ」
「大船に乗った気で任せなさい!」

 光磨は安心した表情を浮かべ、春は華奢な腕で自分の胸を叩いた。

「いやいや!ちょっと待てよ!なんで着いてくる事になってんだ!」

 光磨と春は互いに顔を見合せた後、当然のことのように言う。

「この世界には魔物という危険な生き物がいるんだろ?修斗を一人にしたら危ないじゃないか」
「僕も異世界を冒険したいからね!それに修斗は.......ギフトとスキルがないから」

 そう.......光磨や春.......そしてクラスメイトたちから、俺はスキルが無いと思われているのだ。

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