問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』
6-338 小さな痕跡
「……はぁ!?」
報告を聞いたサヤの口からは、こんな言葉が漏れてしまっていた。
そのことを報告した警備兵も、サヤの気持ちがわからなくはなかった。
しかし、その引っ掛かりを覚えたところは、サヤの物とは別なところにあった。
「私もおかしいと思っていたのです。こんなところに村があるなんて……しかも、この村にはつい最近まで人が住んでいたような形跡があるのです。ですが、我々はこの場所に村があるとは把握しておりませんでした」
「じゃあ、アンタが言うには……ここには人がいた形跡があるけど知らなかったってこと?」
「……?はい、私はそのように認識しております……が。何か気になる点がございましたか?」
「ん?いや、何にも」
「そうでしたか。では、この件の捜査もサヤ様とご一緒ならば、すんなりと解決されてしまうのでしょうな!そのお手伝いをさせていただけるなど……我々はなんと運がいいことか、なぁ!?」
警備兵の男は、最初に出会った――きっとこの男の部下であろう――男に同意を求めた。
「は、はぁ……」
求められた男は、何のことかわからないと言った感じで気の抜けた返事を返している。
そこから更に男のおべんちゃらが次から次へと口から湧いて出てくる。
サヤはその男の無意味な言葉を背中で無視をしながら、家屋の中へと勝手に入っていく。
そこで見たものは、途中になってしまった食事の用意や、仕事道具を手入れした形跡もある。
サヤは周囲で起きたことの結果を見て、一旦王都へ向かおうと村の外へ向かおうとした。
”もうここには用はないのだ”と判断した最初に出会った警備兵は、足早にサヤに近付いて声をかけた。
「サヤ様……これを」
「……これは?」
「はい。周囲を探索しておりましたら、切り株の上に置いてあったものです」
サヤは、若い警備兵から渡されたものを掌の上で眺める。
それは木でつくられたものや丸くとがった木の実に棒が刺さったコマだった。
きっと子供たちは”消える”直前まで、これで遊んでいたのだろうとサヤは推測する。
「どうしてこれを……アタシに?」
その質問を男が返そうとした時、ずっと背中にいた警備兵の隊長らしき男が横から割り込んできた。
「おぉ!これは、私が”見つけた”物ですぞ!な、ここで取っておいた方がよかっただろうが!?」
「は、はぁ……」
そこから男は、さらに自分の手柄にするために聞き苦しい言葉を再び並べ始めた。
その時点で、サヤの堪忍袋の緒が限界を迎えた。
「……モイス」
『はっ』
再びサヤの肩に現れた小竜は、その口から身体のサイズに合わない程の多量の水を男に対して吹きかける。
「――ぶおっ!?」
自慢げに語る口には大量の水が入り込み、それを上回る水圧がその男の身体を吹き飛ばし後方へと転がっていった。
若い警備兵も、上司のその姿を見て何も感じることはなく、ただただ冷静さを保っていた。
サヤは再び、若い警備兵に向き合い同じ問いかけをした。
「悪かったね……で、なんでこれをアタシに?」
「はい、これは家屋の外で見つけた物です。この村がいつから存在し、なぜ消えてしまったのかはわかりません。ですが、この状況を見るとつい最近まで人が住んでいたのだと思います。それに……」
「……それに?」
「それに、サヤ様が部屋の中を確認されていた時の悲しそうな表情が、私と同じ気持ちのように思えたからです」
「え?アタシ、そんな顔してた!?」
男は頷いて、サヤにやさしく微笑んだ。
「……ったく。あぁ、これは預かっておくよ。ちょっとステイビルのところに行ってくるから」
「お気をつけて」
そうしてサヤは、この村を離れモイスに乗って王都へと向かった。
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