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山口 犬

6-331 二人の事情






そんなサヤの表情を見たヴェスティーユは、慌てて姉の言葉に対して取り繕う様に許可を得ずに発言をする。



「し、しかし!?私たち、サヤ様にお仕えできることに喜んでいたのです!?」


「喜んだ?……なんで?」




サヤも取り繕う様にも思える反応に対し、不愉快な感情がさらに湧き上がってくる。
しかし、その感情を抑えながら、念のためにヴェスティーユにその理由を問い質してみた。

その答えは、ヴェスティーユからではなくヴァスティーユから聞こえてきた。



「はい……こんなことをサヤ様に申し上げてよいのかわからないのですが……私たち、今回のような機会に巡り合えなかったのです」



そう告げて、いま二人が王国内での立場について話し始めた。
サヤもそのことに対して、姉妹の行動を制することなく話しを続けさせた。

その内容は、王国内におけるメイド職の階級的な構造に問題があった。


この世界の二人は、母親に育てられ仲良く暮らしていた。
そして、母親はこの二人の娘をどうしても王国の城内で働かせたいと考えていた。

そのためには多額の保証金が必要と言われ、母親は何とか二人分の費用を用意した。
もちろんそのお金は決して安いものではない、母娘三人で暮らす数年分の金額を用意した。

母は二人には決して口にできないことまでして、何とか二人のためにお金を稼いだ。
母親は常に二人の娘が幸せになることを願って、生活に困らないように願っていたため、二人はただ知らない振りをしていた。

二人の容姿は母親譲りで決して悪くなく、住んでいた町の長からは二人と母親には婚姻の申し込みがいつでも来ていると言われていた。
母親は、小さな町での結婚だと二人のためにはならないと断り続けてきた。


そして、母親の願いは叶うことになった。

王選の決着がつき、キャスメルが王となった。
その際に、城内の人員の大幅な入れ替えが行われた。それは、ステイビル側の協力者の排除が大きな目的だった。二人は小さな町に住んでいたため、城内の大きな派閥とは無関係に過ごしてきたため、その辺りは問題にされなかった。
こうして、ヴァスティーユとヴェスティーユは王都の中での生活を始めることができた。

もちろんその先の二人の生活には、様々な問題が生じていた。
派閥こそ問題は無いが、生まれ持っての地位が二人にとって次の足かせとなった。
城内でも、清掃や調理などの表に出ない仕事などは、平民出身がほとんどだった。
だが、来客や王家との対応を求められるメイドは、ある程度の社会的地位を持つ者が選ばれるのが通例だった。
今回、容姿を気に入った採用官がメイドの仕事を二人に与えた。
そのことを一部の地位の高い家から来たメイドたちが、二人のことを良く思っていなかった。
これまでの派閥というものから、地位というものに争いの種が変わってしまっただけだった。


だが、それを気にしない者たちもいたことが、二人にとって幸運だった。
二人よりも上位の地位のメイドたちが、二人のことを庇ってくれ、しかも熱心に教育してくれることになったのだった。







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