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山口 犬

6-309 ハルナがいなくなった日2









「ニーナ……」


そう言ってステイビルは、自分の前に立っていたニーナの肩に手を置き呼びかけた。



「……ステイビル様」



その反応に、自分の感情が周囲に漏れてしまっていたと反省をし、ステイビルの後ろへ下がっていく。
ニーナは今でも、あの西の王国の騒動がフェルノールが起こしたものであると考えていた。
フェルノールがカステオに接触をしなければ、あのような事態にはなっていなかったと考えている。


だからこそ、フェルノールを生み出したサヤの無関係な態度がどうしてもニーナには許せなかった。
たとえそれが、自分の恩人であるハルナの知人で会ったとしても……



ステイビルは今までに見たことのないニーナの感情を感じ取り、その感情が暴発してニーナに危険が及ばないようにと、二人の間に割って入った。
後ろに下がったニーナの雰囲気が徐々に落ち着いていくのを感じ、意識を目の前のサヤに向け直した。




「私からも、お伺いさせていただいてよろしいですか?」




「あぁ。こういう状況だから、仕方ないね」





「なぜあなたは、自身の同郷であるフユミという者の亡骸を使われたのですか?」


「……」


ステイビルの問い掛けに対し、サヤは無言で次の言葉を待つ。その言葉の意味に何の意図を含ませているのかが判断できず、ただ
ステイビル側は、その態度に話の意味を理解されていないのではないかと感じ、サヤの感情を引き出そうとさらに言葉を繋げていった。




「聞くところによると、これまで対峙してきたヴァスティーユとヴェスティーユは、こちらの世界の者だったはず。自分と同じ存在の者の亡骸を使われたのはどのような意味があったのでしょう?」



「……アンタは、ハルナからアタシたちが”元いた世界”の話しは聞いてるんだろ?」


その問い掛けに、ステイビルは無言で一度だけ頷いてみせた。



「そうか。じゃあ、アタシがこの世界に来たのは、ハルナたちよりも”かなり前”だってことも……だろ?」



「はい、伺っております」


ステイビルは一国の王でありながら、サヤの言葉に丁寧に返した。
そこにはモイスから聞いたステイビルの知る王国建国にまつわる話において、瘴気を扱う者が初代国王となる資格を持つ者たちが狙われたことを聞いている。その襲撃を行った者は、サヤが生み出した存在であるとモイスは言っていた。

しかし、自分の知らないことを知っている人物に対し、見下すような態度をステイビルはとれなかった。
そのことについては、ハルナからも申し訳ない気持ちだと何度も口にしていた。

サヤをずっと一人にさせてしまっていたことを……


その話を聞き、ステイビルは複雑な気持ちになっていた。
この国……いまではこの世界を混乱に陥れている人物が、何を考えて何のために行動しているのかということが気になっていた。


「……ですから、なぜあなたがこの世界の人間ではなく、元にいた世界の人物をそのような形で再び別な生を授けた理由が知りたいのです」



ステイビルは、サヤに対する感情を怒りなどではなく、純粋に理解したいという気持ちからサヤに問いかけた。







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