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山口 犬

6-276 ニーナとステイビル5









「――!?」

ステイビルは、自分がニーナに何をされたのか一瞬判らなかった。
時間が経つと、両頬に受けた刺激が収まっていき、いまだに自分の頬に触れているニーナの手の温もりが感じられ始めた。

触れているニーナの手は、グラキアラムで再開した時とは異なり、食事も普段通りの食事がとれるようになってきたおかげで、骨と皮だけの手ではなく、全体に厚みがついていた。
ステイビルはその心地よいニーナの手の上に、そっと自分の手を重ねたくなったが、脳裏にハルナの顔を思い浮かべてぐっとその気持ちを抑えた。

ニーナは小さな身体だが、座っているステイビルを上から見下ろし、自分の子供に語り掛けるような口調でステイビルに伝える。



「よくお聞きください、ステイビル様。いまわたくしのことも含めて色々なことが起きておりますが、取り乱してはなりません。しかも今、ステイビル様ふりまかれておりますその感情が、周りの者たちに迷惑をかけていらっしゃることにお気づきになられていないご様子……もう少し、周りのことを気にしてくださいませ」




ニーナは一部のメイドに嫌われてはいたが、ハルナが決めた通りステイビルの相談役としての地位に就いたことをきっかけに、ステイビルに対しての窓口となりそれなりの信頼を得てきていた。
それだけではなく、ニーナ自身の性格がやさしいことや、気軽に話しかけやすい性格によって、徐々に周囲との壁が取り除かれていき、ニーナは自分の周囲から近いメイドたちにから頼りにされる程になっていた。
だからこそ、今のステイビルの状況に不満と不安を感じたメイドたちは、ニーナにこの事をなんとかしてもらえないかと持ち掛けてきた。自分たちから国王に告げることはできないと。


ニーナは手を放さずに、さらにステイビルの目を見て告げる。



「そして、周りの者をもっと頼ってください」



「……頼る?」



「そうです。わたくしを含め大きな問題については、我々はハルナ様にお任せすることしかできません。ですが、この事実を知っている我々こそ、いま一致団結しなければならない時ではございませんか?」



「……」


「国民にも西の王国にも通達しないと決めた時、我々が責任を取ると誓ったではありませんか……決してステイビル様だけが背負うべきもの事ではございません」





ニーナはステイビル視線を固定させていた両手を離し、振り返って歩きステイビルと距離を取る。
ステイビルはそれに乗じて、先ほどまで伝わっていたニーナの手のぬくもりの上に手を重ねて頬を擦った。



ニーナはステイビルに背中を向けたまま、うつむきながらステイビルに伝える。


本当はこの件について、事前にハルナと相談をしていた。
優しいハルナは、ステイビルに伝え辛いのならば代わりに伝えるとまで言ってくれた。


しかし、ニーナはその申し出を断った。
ニーナ自身がこの城の中での地位を確かにするために、このことはハルナから与えられた相談役として行わなければならないと思っていた。
それとは別に、ニーナ自身もステイビルに伝えたいことがあった。







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