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山口 犬

6-270 ソフィーネとマーホン2









「おはようございます、マーホンさん」


ハルナが挨拶すると、マーホンはお腹に手を当てて軽く頭を下げてハルナに対して挨拶をする。



「ちょっと、マーホンさん。それ、止めてって……」



ハルナは何度かマーホンへ、自分に対しての恭しい態度はやめて欲しいとお願いをしている。
その反論としてマーホンは、国の上位の存在のお方に対して、今までのような馴れ馴れしい態度はとれないと、ハルナの申し出を拒否していた。
だが、ハルナはやっぱり気持ちが落ち着かないとのことで、二人だけの時や仕事の時以外はどうしても今まで通りで願いしたいと命令に近い形で説得した。
その命令をうけ、マーホンは条件付きで今までと同じようにハルナに接してきた。



顔を上げたマーホンの表情は、いつもの厳しさや優しさの表情が消え、悲しみの色がにじみ出ていた。
その表情を見ると、”止めて”の先が言えなくなっていた。



「マーホンさん……こちらへどうぞ」


ハルナは自分の隣の椅子へとマーホンに勧めた、マーホンも挨拶以降の言葉が出ずに、ハルナの言葉に黙って従った。
ハルナの隣の席に座るが、マーホンはハルナに言葉を掛けない。
いつもと様子が違うことを察し、先ほどのソフィーネがハルナ自身の手伝いを断ったのは、マーホンの表情を見て察したからだろうと判断する。


「あ、あの……いい天気ですね」


ハルナは暗い顔をするマーホンに対し、なんと声をかけていいかわからず、当たり障りのない天気の話題から口にした。
しかし、マーホンはその言葉に対して何も返すことができず、ただ黙ってうつむいていた。


「マーホンさん……」



返答がないままさらに沈黙の時間が続き、ハルナはマーホンのことが心配になり名前を呼んだ。


「す……すみません。声をかけていただいたのに、お応えしなくて」


「それはいいんですけど、一体どうしたんですか?どこか身体の調子が悪いのですか?」


「いえ、そうではないのです。ただ、解決できない心配事があって」


「心配……事?」


「ハルナ様……どうか、私たちを……見捨てないでください!!」


マーホンは急に立ち上がり、ハルナの手を取りながら必死に訴える。
ハルナもその勢いに押されて、後ろにひっくり返りそうになった。


「ど、どうしたん……」


ハルナは”どうしたのか?”とマーホンに問いかけそうになったが、その言葉を飲み込んだ。
その理由は既にわかっていることであり、それを問い質す意味がないと感じたから。


言いかけた言葉を取り消しても、マーホンはずっとハルナの手を握りその眼を見つめている。
マーホンの目は赤く滲んでおり、悲しみの感情と一晩中眠れずに悪い考えに頭の中を支配されて疲れ切った目をしていた。

きっと自分のことや世界のことが気になって、一晩中……いや、この事実を知った時から、マーホンはこのことについて考えてきたのだろう。
だが、今回ばかりは自分の力を超える事態となっているため、マーホンには何も手を出すことはできない。
その状況と、マーホンの頭の良さがネックとなり、不安が増長していった結果が今のマーホンだった。

ハルナは握りしめられた両手を放し、一つはマーホンの手を改めて握り、もう一つの手は背中に手を回してハルナの胸元へマーホンを引き寄せた。

するとマーホンは、声を抑えながら今までの不安を吐き出すように泣き始めた。
ハルナはただ、そんなマーホンの背中を気持ちが落ち着くまで擦ってあげた。














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