問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』
6-174 見覚えのある者20
「ぅっ……え……ぁ……ふぇええええあぁ!!」
エレーナの腕に抱かれた子供から、特有の大きな声が響きわこの部屋の中に響き渡る。
それによって張り詰めた緊張感の他に、別なものが減少していく。
「え?」
「あ……あれ!?」
男を取り囲む外周にいた精霊使いたちの慌てる声が聞こえ、隊長がその現象を確認する。
「どうした!?何が起きているのだ!!」
「そ、それが……」
近くにいた精霊使いの話では、用意していた精霊の力が突然、霧のように消えていったという。
その近くにいた他の精霊使いに聞いても、同じような答えが返ってきた。
さらに言えば、この周囲の元素が薄くなり、精霊使いとしての力を発揮することができないという。
「……むむっ!?本当か、それは!!お前たちが、手を抜いているのではないだろうな!?」
隊長の信じ難い言葉に、精霊使いたちは呆れてしまっていた。
元素を扱いに長けた精霊使いがそう言って、しかも自分たちも未知の状況に戸惑っていることに対して、こちら側が悪いと疑いをかけている。
「その子たちが言っていることは、本当のことよ!」
少し離れたところからエレーナは、泣き止まない我が子をあやしながら王宮精霊使いたちが言っていることが正しいと告げる。
その証拠として、エレーナも残り僅かな元素を振り絞り、氷の塊を創り出してみる。
だが、それも長くは保てずに空気の中に散っていった。
「これを信じるかどうかは……任せるけどね」
「……」
そう言われた隊長は、味方である精霊使いたちの言葉が嘘ではなさそうだと判断する。
しかし、それでも事態が変わっていない……騎士団を抜けようとしている男は自分の言葉を取り消すことはしていない。
そこで隊長は、精霊使いではなく一番最前列に並ぶ盾を構えた兵たちに取り押さえるように命令した。
それでも、その命令も実行されることはなかった。
兵士たちの足元は見えない力で固定され、身動きが取れない状況となっている。
精霊使いは元素の力が扱えずにいるが、それでも”何か”の力によって兵たちの動きが抑制されていることに疑問を感じる。
今はその理由を探すよりも、この男を何とか処理しなければという思いが頭の中で埋め尽くされる。
その思いと同時に、男が反抗をしてきた際の危機感から隊長は近くで警戒していた兵から槍を奪った。
どうい理由だか判らないが、自分自身はその身動きが抑制されていないことは確認している。
隊長は人の列で目標物となっている男が遮られているため、跳躍して男を狙って手にしていた槍を投げ付けた。
その動作を見ていたが、男は何の反応を見せなかった。
隊長はこの男も、動きの抑制の効果の範囲に入っているのだと確信した。
そして、この男を倒したことで王国の戦力が低下することを懸念したが、一人の身勝手な行動をすることにより作戦が乱されることの方が重要であり、むしろ良い結果になると隊長は判断した。
だがその楽観的推測は、男が望んだ結果と大きく異なった。
――ガキーン
身動きの取れない目標に当たった槍は、その手前で見えない壁に弾かれてしまっていた。
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