問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』
6-122 通り過ぎた嵐
「ふー……これからどうしようか?」
ルーシーは気持ちを落ち着かせるためと、この辺りの環境を把握するため、フランムと一緒に散策していた。
これほどまで急激に生活が変化を見せたのは、ルーシーが王選の精霊使いに選ばれた時以来だった。
だが、今回の王都から脱出した件については今まで以上に状況が変わってしまった。
「そうだねぇ……こうやって一緒にのんびり暮らすのはどう?ルーシーも”誰か”と一緒になって家族とか作ってみたら?」
「んもぉ!……フランムったら!?でも……さ。そういうのもいいわね、少しだけ憧れちゃうわ?」
ルーシーは耳を赤くしながら、相棒のフランムの言葉に返した。
お互いの気持ちが繋がっているため、それぞれが何を考えているのかある程度分かる。
フランムの言葉は本当にルーシーの幸せを願っての言葉だった。
ルーシーのお相手の対象が、誰のことを指しているのかも……
気持ちのいい風がグラキース山から山肌を降りてくる。
そんなに高くない草木が、その吹き降ろされた風に擦れながら心地の良い音を立てている。
しかし、その風はまだ乾いて寒さを感じるためルーシーは身を震わせた。
「ルーシー、そろそろ戻ろうか?食事の支度もあるし」
「そうね、家に戻りましょう」
ルーシーはこの数日、食事の時間が楽しみで仕方がなかった。
食べることによりも、その準備や家族で食事を共にすることがルーシーにとっては楽しかった。
家にいた頃は、食べきれない程の食事が並んでいた。
一度そのことを指摘すると、”それが貴族にとっては当然だ”と返された。
その頃セイラム家は、余裕のある家庭ではなかった。
使用人たちの人数も減っていき、王国から支給される貴族への給付がセイラム家の主な収入源だった。
給付額は、王国への貢献度によって異なる。
人材や資源など、王国に貢献する度合いによって給付額は増えていく。
貴族の中には、提供する物資の量を増やす手ために事業に手を出し、その資産を増やしていく者もいた。
だが、セイラム家は旧家のプライドもあるため、そういった商業的なことで資産を増やすことはしなかった。
だからこそ、ルーシーが精霊使いとなり王選に参加したことによって、セイラム家は再びその存在を王国の中に示せることに父親は喜びを感じていた。
そんな状況にルーシーは、ストレスを感じていた。
家のためにと精霊使いになったが、結局元の状態に戻ってしまっていた。
だが、この状況では家のプライドもなく、自分の命が助かったことへの喜びと、周りの者たちが自分たちの生活を損得勘定なく支えてくれていることに感謝の気持ちを持ちながら生活する両親の姿がルーシーにとって嬉しかった。
「……それじゃ、そろそろ帰ろうか?」
フランムと共に、心地よい風を頬に感じながらルーシーは家路につく。
「遅くなりました、今から食事の支度……!?」
ルーシーは扉を開けると、その違和感に気付いた。
狭い部屋の中で、父親の表情が依然と同じく険しいものに戻っていた。
そして、父親は心配しているルーシーに対して命令する。
「……ルーシー、支度をしなさい。王都に戻ります」
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