問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』

山口 犬

6-103 混乱






「よし……っと」


「いや、どうなるかと思ったわよ……さ、行きましょ!」


「ちょっと待ちな、ハルナ……なんか聞こえない?」



「え?……そういえば」




ハルナの耳には、落ち着いている城内にふさわしくない耳障りな騒音がかすかに聞こえてきた。
その音は城の内側ではなく外から聞こえており、精霊たちが創り出した強固な石の壁の向こうから届いていた。



「あいつたちも動き出したか、それじゃこの騒動に紛れて脱出しようかね」


「うん、行こう!」


そう言ってハルナとサヤは、王の部屋から出ていく。




「……っと、忘れ物」


サヤは小さな小石を廊下に放りなげ、それは軽い音を立てながら奥へと転がっていく。
小石の回転が止まった頃、ハルナたちはその通路からは姿を消していた。











「「――っぁ!?」」


そこに姿を見せたのは、王の部屋の前の番をしていた騎士団の男たちだった。



「た……助かった……のか?」


「はぁ!……はぁ!……な、なんなんだったんだ!?、死の世界のようなあの暗闇は!!」




二人の男は、今まで体験したことのない経験をした。
騎士団としての厳しい訓練や戦場で、命を落としかねない場面が幾度となくあった。
だが、つい今しがた経験したものは、それを優に超える経験だった。
暗闇の中で意識だけで存在し、手や足も動かせず言葉や呼吸や、五感のすべて奪われた死の世界。
並大抵の者ならば、そのような状況になれば残された自我は恐怖のあまりに崩壊してしまっていたであろう。
この世界に戻った後でも、これだけで済んだのは鍛え上げた騎士団の精神力のおかげであった。



「……生きてる……よな?」


「あぁ……生きてるな」


「何者だったんだ?あの二人は??」


「俺が知るはずもないだろ……」


「神のみぞ知る……いや、人の姿をした神だったのか?」



あのようなことができる存在など、これまでに亜人や魔物を含めたとしても聞いたことがない。


「そうなのかもな……」


もう一人の男は、心臓の拍動を感じる喜びをかみしめながら、やっとの思いで同じ経験をした相方の言葉に応えた。












「撃て!作戦などない!!必ずアレを撃ち落とせ!!!」


隊を指令する隊長の怒号に応じて、兵や精霊使い達は空に向かって自分たちのできる限りの攻撃を放つ。







「デイム!サヤ様とハルナ様は見えますか!?」


「まだ、確認できておりません!」



『焦らずともよい、デイムよ。あやつらの攻撃など大したことはない。それよりもかのお方のこと、よく見るのだ』


「は、はい!?モイス様、お任せを!!」


この世界では、グラキース山に住むドワーフたちが厚く信仰する、憧れの水の大竜神からその名を呼ばれたデイム。
そのことに対し、いつも以上の力を出そうとするデイムだが、普段持つ実力以上の力は発揮されなかった。
後ろからデイムを見守るイナは、デイムの性格を理解して自分もハルナたちの姿を見落とさないように上空から見下ろしていた。




「――あ」


下で怒号が鳴り響く中、デイムは一言だけだが緊張した声を発した。


「どうしました!?サヤ様ですか?」




「い……いえ!?王……キャスメル王が出てきました!!」









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