問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』
6-94 突破
「……止まりなさい」
いつもならその言葉は、命令形であるべき言葉だ。
騎士団と王宮霊使いの間で権力を主張し合っているなかで、自分よりも役職の高い”精霊”に対して失礼な言葉遣いはできない。
しかし、いくら争っているとはいえ、下に見て対応することも憚られる。
そのためこの語り掛けが、目の前の高位の精霊に対して要望を出す最善の言葉だった。
二人のメイドを連れた精霊は、騎士団の男の言葉に素直に従った。
特段、この言葉に対して反発する理由もない。
今はそれ以上に自分のパートナーより重要な役目を申し付けられているため、何とかその目的を達成すること以外のことは自身の中には思い浮かばなかった。
そして、フランムはこちらの要件を男たちに告げる。
「ルーシーからの依頼で、こちらの物を”キャスメル王”にお渡ししたくやってきた。この扉を開けていただきたい」
通常は”王”と言えば現国王のことを示すため、わざわざ”キャスメル”という名を告げることはこの世界では失礼にあたる。
フランムがわざわざ、キャスメルの名を付けて呼んだことは、今まで王選の旅の中で培ってきた信頼関係の元に許される行為だった。
「王はいまご不在にしておられます、また改めてお越しください!」
フランムの要件を聞いた男は、そのことが緊急でないと判断し不在を理由に別の機会にするようにと告げた。
扉を塞ぐために交差した槍は、そう告げた後も元に戻る気配はない。
「そう……ですか」
フランムは、男の返答にそう答えた。
本来ならば、王が室内にいない今がハルナたちが行おうとしている行為に対して良い機会であることは間違いない。
だが、この先を通してもらうためにはどうすればいいか、フランムは小さな身体で目の前の扉の中に進む方法を考える。
「……っと」
フランムの後ろからかすかに聞こえた声、その瞬間二人の男は目の前から姿を消す。
「――!?」
「……キャスメルはいないって言ってたろ?いないんだったら、丁度いいじゃない。邪魔なのはこいつらだけだから……じゃあ中に入ろっか」
二人の姿を消し去った本人は、何の問題もなかったかのように扉の近くに歩んでいく。
だが、フランムは二人の男の存在が一瞬にして消えたことに対して驚きが収まらない。
その疑問を、扉の取っ手に手をかけるサヤに対してフランムはぶつけた。
「お、お待ちを!?あの二人は……」
「ん?大丈夫だって……”ここにはいない”けど、大丈夫だからさ。心配する必要ないって……さ、行くよ」
その後ろを歩いていたハルナも、その言葉を疑っていない様子で安心してサヤの後を付いていく。
二人はそれぞれの取っ手に手をかけ、力を込めて大きな扉を押し開いた。
扉は二人の力に応じて、擦れるときの発する音もせず静かに開いていく。
「さ、いくよ」
そう言ってサヤは床に置いていた箱を手に取り、キャスメルが使っている誰もいない部屋の中へと進んでいった。
まるで、初めて訪れる部屋ではないかのような足取りで。
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