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山口 犬

6-65 敵対








『それと……ワシはステイビルにも力を貸すと決めたぞ!』



モイスの言葉に、頭を下げていた警備兵の中からざわめきが起った。

大竜神と大精霊は、王国の安寧のために力を貸してくれているものと信じていた。
しかし、モイスの発言は、そのことを裏切るかのような内容だった。



「モイス様、なぜそのようなことをなさるのですか?我々はあなた様に対して何か不快なことを行ってしまったのでしょうか?……よろしければ、理由をお聞かせ願いませんか?」



キャスメルがうろたえたような態度をみせながら、モイスにその真意を問い質す。
しかしその言葉遣いとは裏腹に、モイスは一層不快感が増していく。

キャスメルの言葉に周囲の部下たちは、モイスの発言以上のざわめきが生じる。
その声の色には大竜神に対して敬意の気持ちがなく、対等……もしくは絶対的な存在にに対し威圧が込められていたためだった。

今までのモイスならば、そんな態度を見せていれば怒りの感情に支配され、この広場に集まっている人間を氷漬けにしてしまっていただろう。
今回それをしないのは、自分を恐怖に陥れることができる存在からの指示のためだった。
モイスは睨みつける視線に応じながら、このやり取りが不快感を超えて楽しさに変わっていくのを感じた。



『理由……だと?お前はいつからワシにそんな口をきけるようになったのだ?』



キャスメルにけしかけてみたが、相手はその言葉に委縮する様子も見られない。
モイスは、不機嫌な感情を更に混ぜてキャスメルの問いに答えた。



『フン!……理由などない。ワシがそう決めたのだ、それ以上の理由は必要あるのか?』


「では、モイス様は、我々と”敵対する”……と?」


モイスはその言葉に、ニヤッとした。
この場の会話で、初めてキャスメルが本心を込めた言葉を発したからだった。
その本心には、自身に対する怒りが込められているのがわかった。



『クククク……そうだ、キャスメル。ワシはお前たちと敵対するとここで宣言しよう!』



頭を下げていた全ての警備兵たちは、一斉に顔を上げて今まで国を守ってくれる存在だった神々の存在の一体を見つめた。







「キャスメル王……これからどうされるのですか!?」

モイスは王国に対し敵対宣言をした後、キャスメルの制止する言葉も聞かず大声で笑いながら上空へ舞い上がった。
そして、キャスメルはその直後に今後の対策を立てるための話し合いの場を設けた。



騎士団長であるヴェクターは、王座に座ったまま目を閉じているキャスメルに問いかけた。
キャスメルを挟み反対側にいるこの世界での王宮精霊使いのルーシーも、同じことを思っていたようだった。
魔法を使える亜人たちだけでも、精霊使いや騎士団でさえ大きな損害が出ることは容易に想像できる。
その上、大竜神のモイスが同時に攻めてきたのならば、人間だけの力で対抗するならばこの国は一瞬にして壊滅してしまうだろう。

故に、二人が導き出した答えは一緒だった……”我々も他の神々の協力が得られないか”という考えに。




「待て……お前たちの気持ちはよくわかっている。私もお前たちと同じ考えだ……」



「で、では!?」


「うむ、”ラファエル”様にこのことをお話してみよう」








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