問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』

山口 犬

6-57 エレーナの面影








グラキース山の木々の間を軽快に駆け抜ける一つの影――坂の勾配、岩や植物などの障害物は、まるでそこに存在しないかのように進んでいく。
その姿は、この山に住む動物達でも追い付けない速さで駆け抜けていく。
だからこそ、この山で一番恐れられてた存在であり、狙われるとその恐怖もなく一瞬にして相手の餌食となってしまっていた。
狙う側もそれが、山の秩序を守る者としての慈悲であり役目だと自覚をしていた。



そして、エルフは山頂に到着した。



「ここで……いいのか?」



ここまで全速力で駆けてはずだが、その息はいつもと同じ状態だった。
エルフは腰に下げた袋から一つの石を取り出し、そっと枯れ葉が積み重なる地面の上に置いた。



「これで……よしっと。急いで戻ってあのお二人に報告しなければ」




そういうと、エルフは先ほどと同じようにただこの場に風が吹いたかのように麓を目指して移動を開始した。









「……は~、疲れた疲れた」


「何言ってんの、楽だったじゃないの……運んでくれたのはあの方だったでしょ!?」


「いちいちうるさいね、アンタは。これはお決まりみたいなもんだからこれでいいの!……アンタってそんなに口うるさい性格だったっけか?」



その言葉にハッとするハルナは、その脳裏にエレーナの顔を思い浮かべる。



(うつちゃったのかなぁ……あたし)



それと同時に、ハルナの胸の中に寂しさが込み上げてくる。
今までと同じような世界だが、ハルナの知っている人物は皆、ハルナのことが記憶の中から消えてしまっているという事実に。
まだ、エレーナやアルベルトには会ってはいないが、きっと二人は自分のことは覚えていないだろうと。
ハルナの目には寂しさの感情が涙となって滲み出ていた。





「……ったく。なんて顔してんのよ。まぁアンタの気持ちもわからないわけじゃないけど……さ。だけど、泣いたってなにも変わらないんだよ!?今やることをやらなきゃ、何もできないまま終わっちゃうんだよ?」



ハルナはサヤの言葉が正しいと感じ、完全に流れ落ちる前の涙を袖で拭った。
そして、サヤがこんなにも相手を気遣ってくれる性格だと初めて知って感心した。





「サヤちゃん……優しいんだね」


「バカ、何言ってんの。アンタも大した力を持ってるんだから、弱気になってたらこの命も危ないんだよ?あたし達はいま、今までと違う環境なんだ。二人のうち、どちらかが気を抜いたらやられてしまうんだよ!」


「そうだね……もう、だいじょうぶ!それよりさっきのエルフの人、大丈夫かな?」


「さぁ、大丈夫でしょ?……さ、行こうか」





ハルナは自分のことを知ってくれているサヤの背中を見て、不安から安心感に胸の中で変わっていくのを感じる。
ゆっくりと息を吸い込んで、目を瞑りゆっくりとその息を吐きだした。

空を見上げると、みんなで旅をしていた時と同じ青い空が広がっている。



「……よし!」




ハルナはそう呟くと先に進んでいったサヤの背中を追いかけて、距離を戻すため速足で進んでいった。








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