問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』
5-111 闇の世界10
『――ガァ!!』
まず初めに一匹が、サヤの左側から大きな口を開けて飛びかかってきた。
「ぐっ!?」
サヤはそれを左腕で防ぐ……というよりもわざと噛ませて対処しようとした。
腕に牙が刺さる感触が伝わり、直観的に生半可なことでは外れないということ感じた。
サヤはその噛みついたオオカミの顔に、自分の拳を力いっぱい叩き付ける。
しかし、サヤの力では深く刺さった牙は外れない。
「――このぉ!」
今度は牙を外そうと腕を振ろうとしたが、狼は顔を左右に振りサヤの行動を止めようとする。
サヤは顎を引っ掛けて、口を開けようとするが噛む力には敵わなかった。
『ガゥ!!!』
他の場所から、別の狼がサヤの足に噛みついてくる。
これによってサヤは、バランスが崩されてよろけてしまう。
これをチャンスと見た狼たちは、もう一本のサヤの足と腕にも飛びついてくる。
「あ!?」
四肢の自由を奪われた後に、最後に髪の毛に噛みついてきてサヤは仰向けに倒れ込んでしまった。
喉を噛まれているせいで、その姿は見えないが腹部にも噛みついてきてその中身を引きずり出そうとしているのが分かった。
サヤ必死になって身体をよじらせ、狼の牙から逃れようとする。
だが、狼の顎の力と獲物を狩るための連携は見事なものだった。
何一つ運動らしい運動もしてこなかったサヤには、その牙のくさびを外す能力はない。
「――!!!」
腹部に獣の牙が刺さる感触が伝わり、少しだけ危機感を覚えた。
それと同時に、イヌコロのような動物にどうして自分がここまで無様な姿を晒さなければならないのか。
その思いが頭に浮かんだ瞬間から、今までにない怒りの感情が爆発した。
「……んのぉ、くそどもがぁああぁあぁああ!!!!」
サヤの叫び声は、静かな森の中に鳴り響く。
それと同時にサヤの身体の中を、今までに感じたことのない力が流れた。
すると腹部に噛みついていた狼が、その姿を消した。
「……は?」
次の瞬間、狼に関する情報がサヤの頭の中に流れてくる。
サヤの脳は情報を強制的に詰め込まれ、その感覚は今までに経験したことのないものだった。
「ぉぇええぇえぇぇえ!!」
仲間が突然消えた狼たちは、動きが止まっていた。
それに突然獲物の口から、酸っぱい液体が吐出されて周囲にはその臭いに満たされていく。
サヤの髪を噛んでいた狼の鼻に、逆流してきた胃液がかかりくしゃみに似た行動を繰り返していた。
サヤは噛まれた手の力が緩んでいることに気付き、左右の腕を力強く引き抜いて自由にした。
引っ掛かった牙が身体の一部を削り取っていったが、サヤはそのまま気にせずに頭の上の狼の尾を掴んだ。
掴んだまま頭上から腕を振り下ろし、遠心力で狼を地面にたたきつけた。
『ギャン!!!!』
叩きつけると同時に、犬が暴力を受けた時に泣くような声が聞こえた。
叩きつけられた狼は、よたよたと起き上がりそのまま森の中に逃げていった。
他の狼たちも狩りを諦めたのか、その後を追い掛けていった。
どうやら腹部を噛みついていた狼は、あの群れのボスだった。
一番美味しいところを持っていくために、ほとんどの生物が弱みを持つ腹部を狙ったのだろう。
しかし、サヤの新しい能力によってボスを失った群れは一気に統率を失い獲物を諦めた。
サヤは、気持ち悪さと疲れで肩で息をしながら、胃液で汚れた口元を腕で拭い仰向けになって木々の間から見える夜空を眺めていた。
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