問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』
5-83 予言1
『ナ……ハルナ……』
うっすらとした意識の中、自分に語り掛けるような声が聞こえる。
「……ん」
『ハルナ……聞こえますか?……ハルナ』
「……」
何度も何度も繰り返し呼びかけるその声は、ハルナの沈み込んだ意識を覚醒させるにはいたらない。
声の主は、一旦ハルナに呼び掛けることを止め別の方法を探ることにした。
『……』
そして、その方法を見つけた存在は再び深い眠りの底に沈んだハルナの名を呼んだ。
『……ハルナ、起きてください。”終点”ですよ?』
「はっ……?あ……え!?」
その言葉が、ハルナの意識を急速に取り戻すことに成功した。
ハルナは目を開けて、左右に首を振り今の状況を確かめる。
だが、ここは乗り過ごしていた終着駅ではなく、以前も王宮内でお世話になった時に泊めてもらったゲストルームのベットの中だった。
『ごめんなさい……ハルナ。起こしてしまって』
「いえ、大丈夫です。……ラファエル様。一体どうされたのですか?」
ハルナは初めてラファエルの姿を見るが、その声は何度か聞いたことがあるため、突然の訪問にもハルナは驚くことはなかった。
『ハルナ……もうこの世界に慣れましたか?……ごめんなさい。こんな質問、今のあなたには無意味ね』
そう言ってラファエルの表情は、今まで誰にも見せたことのない困った感情を含んだ笑顔をハルナに見せた。
その様子にハルナは、不安な気持ちになりラファエルに質した。
「ラファエル様……どうされたのですか?何かあったのですか?体調が良くないのですか……?」
精霊という存在に体調があるかはわからないが、ラファエルに感じた違和感をそのように表現し相手を気遣った。
『やはり、あなたはあの者と一緒で特別な方なのですね……』
「……?」
ハルナはラファエルの言葉が理解できず、黙ったまま次の言葉を待った。
『ハルナ……あなたにしか話せないことがあるのです』
「私にしか……話せないこと……ですか?」
ラファエルはベットの横に立ったまま、一度だけ頷いて下腹部の前で手を重ね目を閉じた。
『その話をする前にまず、私が持つ”能力”についてお話ししましょう』
ラファエルには、対象物から過去の記憶や感情を閲覧したり、さらにはそれを消す能力があることを話した。
ハルナはその能力の一部について、モイスティアでのキャスメルに施した感情の操作をおこなったことを知っていた。
ハルナはその話で、先ほど目が覚めた時に掛けられた声のことを思い出した。
「あ、さっきの起きた時の……」
『ごめんなさい……少しハルナの記憶を勝手に覗かせていただきました』
ラファエルが見た記憶は、長い椅子が左右に並べられた箱の中で馬車よりも早い速度で外の景色が変わっていく。
その中には動物の耳をつけた帽子をかぶったりと、服装がこの世界とは違う楽しそうにしている人が大勢その中にいた。
ハルナはその中で椅子に二人で座っている、ハルナは隣に座って眠る年下の女性の肩を抱き引き寄せていた。
それは反対側の人への配慮のためであることが、ラファエルには理解できた。
ハルナもその乗り物の振動と繰り返し聞こえる単調な音の中で、睡魔に襲われて一緒にいつしか一緒に眠ってしまっていた。
次の場面では外の景色は見えず、どこかの洞窟の中のような場所に変わっていた。
そしてその景色を見る前に誰かから声をかけられていた。
「お客さん……終点ですよ」
その話を聞いたハルナは、ある日のことを思い出した。
大学時代、初めてのバイト代を手にしたハルナは妹の風香の誕生日に何か欲しいものはないか聞いた。
すると風香は二人きりで、とある全国的にも有名なアミューズメントパークに連れて行ってほしいと言った。
そして、ハルナは妹の風香と二人きりでアミューズメントパークに行くことになった。
いつも遠慮がちな風香が、要望を出してくれたことがハルナにとっては嬉しかった。
施設内では飲食物やお土産をねだられたが、ハルナはそれに快く応じた。
ハルナも風香がハルナの財布を気にして、安価なものを選択しているのはわかっていた。
ちょっと高い方を提案するも、風香はそれを拒否する。
日も暮れて最後に帰りの電車をホームで待っていると、妹は”連れてきてくれてありがとう”ハルナに言っていた。
『ごめんなさい……勝手に大切な記憶を……』
「いえ……いいんです。なんだかとても大切なことを思い出せて……ありがとうございます」
ハルナは、ラファエルに自分の忘れていたことを思い出させてくれたことに感謝をする。
だが、ラファエルはその感謝の気持ちが胸に突き刺さる。
『それで、ハルナ……あなただけに伝えておきたいことがあります』
「はい?なんでしょうか?」
ラファエルは、重ねていた手をほどき力強く握った。
『……近々、この世界が滅びるかもしれません』
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