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山口 犬

5-72 異変





モイスは、オスロガルムが”サヤ”という存在の名が持ち出されたことに対し、今まで持っていた思考を修正する。

サヤはオスロガルムが剣を狙い、この場所に襲い掛かってきたのだと認識していた。
そのため、その目的はキャスメルたちであるとモイスは認識していた。

しかし、オスロガルムが探している対象が剣ではなくサヤという存在だといった。
それによって、敵対する存在達への関係性や危険度を修正していく必要が生じた。


まずモイスの中に浮かんだのは、”仲間割れ”。
二つの存在の関係性は判らないが、何らかの問題が生じたことによってその関係性が崩れたのだとモイスは考えた。


それに対して、モイスはどのように関わるべきかと考えを巡らせる。


しかし、時間をかけることにより相手の疑いが増すため、そろそるオスロガルムからの問いかけに応じなければならなかった。
それに対してどのように答えるべきか、その答えによってこれからの対応が異なってくる。


……サナの存在を教えるべきか、それとも守るべきか


オスロガルムもサヤも、モイスたちにとっては悪しき存在である可能性が高い。
だが、この状況でどちらも敵に回すということは避けたいと考えた。

そして、モイスはオスロガルムの質問に対して答える。


『サヤ……?知らぬ名だ、そいつがどうかしたのか?』



『そうか……知らぬというのか……ならば、その臭いはどこで付けてきた!!!』



――!?




モイスは直線状に吐き出された、黒いブレスを瞬時に上方に逃げて回避した。
回避行動と共に、モイスの周りには無数の氷の塊が浮かび上がりオスロガルムめがけて突進していく。


『――むぅ!?』


オスロガルムは掲げた掌の上に巨大な瘴気の塊を作り上げ、氷に向かって投げつけた。

氷の礫は瘴気によって弾き飛ばされ、そのままモイスをめがけて進んでくる。
モイスはその瘴気を両手で受け止め、抱え潰し黒い霧となって消えていく。


(……?)


その時に、モイスはある違和感を覚える。
それを確かめるべく、モイスはオスロガルムを視界に入れたまま距離を広げた。
そして、尖らせた爪を後ろに引き、オスロガルムに向かって身体から突進する。

真っすぐに突進するモイスに対して、オスロガルムは再び黒いブレスをモイスに浴びせた。
避ける気もない相手に拡散させずに、息を束ねて細い真っすぐブレスは伸びていく。


オスロガルムは、モイスが避ける動作もとらないため、勝利を確信しようとしたその時。
相手を貫くと思われた勢いのあるブレスは、モイスに直撃する手前で拡散していった。



『な……なんだとぉっ!?』



オスロガルムはこのような現象を直前で見たことがある、シュナイドのブレスを避けてみせた時と同じ現象だった。
あれは自分の能力によるものと思っていたが、同じものをモイスができるとは思ってもみなかった。
勝利を確信した慢心と驚きから、オスロガルムはモイスの攻撃を避ける動作が遅れてしまった。
突き出されたモイスの鋭利な爪が、オスロガルムの肩を狙い貫こうとした。


――ふわっ


オスロガルムでさえ腕をもっていかれると思っていたが、その感触はやわらかいものが触れただけだった。


攻撃した側のモイスには、その現象に驚きはない。
自身が立てた仮説の理由は不明だが、思った通りの結果となっただけだった。




オスロガルムは、攻撃が通用しなかったモイスに対し好機と判断して反撃に出る。
既に手の届く範囲のため、オスロガルムは手刀でモイスの胸部を貫こうとした。

しかし自分の手には、いつものように生き物を貫いた心地よい感触はなく、先ほどのモイスの攻撃を防御したかのようなやわらかい感触だけが返ってくる。

オスロガルムは思い通りにならないことに苛立ちが増し、何発も無防備なモイスに向かって左右の爪を突き立てる。
しかし、その度に本来の肉に突き刺さす感覚は感じ取れずに、ただやわらかいものにはじかれているだけだった。









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