問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』
5-48 防衛戦
エルメトは傷ついた兄を背中に背負い、泣きじゃくる妹に対して走れるかどうかを確認する。
ここまで逃げてきただけでも、相当な疲労があることは見て取れる。
だが、得体のしれない魔物に追われていたことから、追手がさらに来る可能性が高い。
エルメトは少し気を使いながら、今できる限りの最速で宿屋まで駆けていった。
宿の前を掃除していたスィレンがエルメトの姿を見つけ駆け寄ってくる。
「一体どうしたの!?……その子は!?」
エルメトは、この二人が魔物に追われていたところを助けたという。
ただ、その襲われていた理由までは聞かず、あの場から逃げることを優先させた。
スィレンは怯える妹を抱きしめて、何度も背中をさすりながら大丈夫と言い聞かせた。
一通りこの場所で出来る限り怪我の処置を行い、兄を部屋の中に寝かせた。
アーリスとボーキンとマギーも呼んで、兄妹から何が起きたのかを聞いた。
その内容は、ボーキンにとっては信じられない話だった。
だが、両親が命を投げ出して二人の命を助けてくれたことを話すとき声を詰まらせながら語る姿は、今までの経験が決して嘘ではないと告げていた。
ボーキンはエルメトとアーリスに周囲を警戒するように命令する。
西の王国の警備兵を退役しても、こういう時はある一定の規律に従い行動することが過ちが少ないためだった。
ボーキンの号令に従い、二人は決められたとおりに行動を開始した。
エルメトは裏山の高台に上り周囲を警戒し、ボーキン、スィレンとアーリスは宿の周りにあらかじめ作っておいた策を持ち出して設置をしていく。
ある程度の準備が整ったとき、エルメトが高台から急いで降りてきた。
「ボーキン様!魔物がこちらに向かってきております!」
「なんだと!エルメトよ、その数はわかるか?」
「は、はい!視認ですが、おおよそ十数体の規模かとおもわれます!」
「な……なんだと!?」
五体程度であれば何とか、この状況でも凌げるとボーキンは踏んでいた。
だが、それ以上の数となると対応は難しくなる。
逃げてきた二人の話からすると、王国からの援軍も難しいだろうと推測する。
ディバイド山脈の中に身を隠したとしても、その数だとすぐに見つかってしまう可能性が高い。
できればただその魔物たちの目的が別な場所にあり、通り過ぎてくれることを祈った。
ボーキンは屋根裏の小窓からも魔物の群れを確認し、その様子を息を殺しながら見守った。
だが、その願いが神に届けられることはなかった……
魔物の集団はこの宿を発見し、まっすぐこちらに向かってきた。
「……くそっ!?」
ボーキンは思わず、恨みの言葉を口にした。
そしてポールを伝って滑り降りて、マギーのところまで行った。
「スィレンとアーリスは!マギーさんとあの子たちを連れて裏の洞穴へ避難させてくれ!エルメトは東の王国へこの状況を報告に行ってくれ!」
「し、しかし……ボーキン様、お一人では!?」
「だが、全滅してしまうよりはマシだろ?それに、もうしわけないがお前もおとりになって欲しい。ディバイド山脈を超えるまでに見つかってしまうだろうが、それでも何とか生き延びて応援を……それまでは何とか持ち堪えてみせよう!」
だが、エルメトには判っていた。
その言葉が偽りであり、ボーキンは一人で犠牲になろうとしていたということを。
ここで派手に暴れて魔物たちの注意を自分に向けておけば、洞窟に逃げたアーリスたちや応援を呼びに行く自分から目をそらせることができると思っている。
確かに、エルメトがここに残っていたとしてもあの戦力に抗うことはできない。
ボーキンは一番少ない犠牲で、他の者たちが生き延びる可能性がある手段を選んだのだった。
それをわかっているのか、妻であるスィレンも何も言わない。
夫の覚悟を無駄にしないことは、自分たちが生き延びることだと知っていた。
エルメトはボーキンに対して敬礼をし、これより任務を遂行すると告げた。
そのエルメトの姿勢に、ボーキンは満足そうに頷いてみせた。
「……それでは、いくぞ!」
その掛け声とともに、この場にいる全員が行動を開始した。
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