問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』

山口 犬

5-30 結ばれた契約






「シュナイド様……貢物は私です!どうぞ、私をお食べください!!」


隣のブンデルの訴えを聞き、サナは今まで黙ってうつむいていた顔をあげてブンデルの顔を見る。
その顔の表情は怯えながらも自分を守ろうとする目は真剣で、サナが好きなブンデルのパーツの一つだった。
その瞳が見られなくなるのは残念だが、この世から消えてしまうのは耐えられない。


「ブンデルさん!ダメです!!私が!!!シュナイド様、どうか……どうか、わたしを!!」

「ダメだ、サナ!!サナは生きて帰るんだ!」


そこから二人は大きな存在がいないかの如く、どちらが犠牲になるかを言い合った。
その場に姿は見せないが、自分の前で言い争う二人に苛立ちを覚えた。


『やかましいわ!!お前ら、ワシを本気で怒らせるつもりかぁっ!!』


音は出ていないが空気が震えるほどの頭に響く声に、ブンデルとサナは言い争うことを止めて再び頭を下げて詫びる姿勢をとる。


「も、申し訳ございません!」

「失礼をしました、シュナイド様!?」



二人は慌ててシュナイドに対して、間違った態度をとってしまったことを詫びた。


『お前たち二人を同時に消してしまっても構わないのだが……ワシも一度結んだ契約は必ず守る。それに……だ。お前らに我に差し出すものの決定権があると思うな!どちらを喰らうかはワシが決める!!』


「「もうしわけございません!!」」


二人は同時に、シュナイドに対して失礼を詫びた。



ブンデルは、その言葉に対し焦りが生じる。

サナだけは何があっても絶対に逃がすと心に決めていた。
このような場所でも、ブンデルの魔法があれば時間稼ぎにはなるはずだという算段があった。
しかし、目の前にある見えない巨大な存在に対しては、自分が持つすべての力を用いたとしても敵うことはないと判った。
それに下手に手を出してしまえば、せっかくどちらか――ブンデルとしてはサナを助けたい――が情報を持ち帰ることができるところまで話を持っていくことができた。
そのチャンスを”無駄な抵抗”で台無しにすることはできないと、ブンデルは今の状況を判断をする。


サナは、ブンデルが助かれば自分がどうなってもよいと思っていた。
自分とブンデルのどちらかを選ぶにしても、ブンデルが助かる道ができただけでも嬉しかった。
せめて最後には自分の想いをもう一度伝える時間はいただけないかと、ブンデルにしては考えて欲しくないようなことをサナは考えていた。


ブンデルは何とか状況を改善できないかと必死に頭の中を巡らせる……
しかし、シュナイドは二人の考えを知らないのか、自分の欲望だけを口にした。



『よし!ドワーフの女よ、お前に決めた!!こっちに来るがいい!!』



「ま……待っ!?」


ブンデルがシュナイドに何かを言おうとしたが、サナが手を向けてその言葉を止めた。
サナはブンデルに、怯えのないやさしい笑顔を向けて声に出さない言葉が口から伝わる。

(今まで……ありがとうね)



(サナ……!……待ってくれサナ!)


ブンデルは、今にも叫びだしそうな声を喉の奥で噛み殺している。



サナは数歩足を運んで、両手を組んで膝の前に置く。
そして目をつぶり、その時が来るのをじっと待つ。


『いい度胸だ、ドワーフよ。口の中で味わうつもりだったが、せめて一口で苦しまないようにしてやろう!!』



ブンデルは何もできずに、ただサナの後姿を見ている。
すると、魔法の明かりの届かない暗闇から、赤い鱗で覆われた竜の顔が姿を見せる。
モイスと同じような空間を作り出す力を持っているのか、浮かび上がったのは邪悪に満ちた顔だけの部分で、そこから先は暗闇の中に消えていた。

シュナイドは口を開けると、尖った鋭い歯が並んでいるのが見える。
ブンデルは目をそらしそうになったが、サナのことを忘れないためにもこの状況を見ておくべきだと目を開いた。


『……!?』



サナの頭部がシュナイドの口の中に入ったとき、シュナイドの動きが止まった。
シュナイドは顔を引き、口を閉じて再び闇の中に顔が隠れていく。


サナは頭部を覆いかぶさる感覚が遠ざかり、ゆっくりと目を開けて何が起きたのかを確認する。
そこにはすでに、シュナイドの姿はなかった。


そして、二人頭の頭の中に再びシュナイドの声が響き渡る。


『お前……モイスとどういう関係だ!?』







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