問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』

山口 犬

5-23 下りなかった許可








「え?なんでダメなの?どうして?どうして?」


矢継ぎ早にソルベティに質問しているのは、外出先から戻ったばかりのエレーナ。
町から最後に戻ってきたハルナたちを待って、ソフィーネから書簡の内容が告げられた。



「おちついて、エレーナ!ソルベティさんだって、驚いているんだから!」


「そ……そうよ……ね。ごめんなさいね、ソルベティ」


「いえ……本当に、私も何が起きているのか判らないんです」




いままで、その場所の調査研究を目的とした者や、配管の点検をしたい者たちは、あの場所に入るために許可を求めてきた。
それらは何の問題もなく、許可が下りていく。
その条件として、”その命は自らが責任を持つ”という単純なものだった。

ガスを吸い込めば命の危険はあるが、濡れた布で口と鼻を覆うことによりある程度の活動は可能となっていた。
しかし、それでも苦しさはあるため三十分ほどが限度とされていた。
そのため、奥深い場所には誰も到達したことがない。


当然、ステイビルたちもそう言われれば、自分の命の責任を取るつもりではある。

ステイビルたちはソルベティにその管理施設までの案内をお願いし、行って直接交渉することにした。
だが、そこで予想外のことが起こるのだった。



「なんだと!?どうしてだ!一体どういう理由で!?」


「大変申し訳ございません!ステイビル王子と言えども、これが命令でして。今は何者も通すなと言われております!」




片手に槍を手にした警備兵は、背筋を伸ばしやや顎を上に向け、空に向かうようにして声を張ってステイビルの質問に答えた。
すると、その次はエレーナが納得いかないという勢いでステイビルを避けてさらに前に出る。
アルベルトがその腕を掴み、行動を止めようとしたが間に合わなかった。



「ちょっと……この方はこの国の王子よ?国王のご子息様なのよ?あんたたちの上司よりも上のお方よ?なんで上司の命令を聞いて、王子の命令が聞けないのよ!!!」



そういってみるも、エレーナはその考えが愚かなものであることは自分でも理解している。
組織の中にいる者が、直属の上司の命令を無視して他の命令を聞けば、それは組織として成り立たないということを。
だが、この対応は理不尽で納得がいくものではなかった。

こうやって交渉している間に、後ろの扉から一人出てきたのだった。
手には書簡を持っていたため、あの場所に関する許可をもらったのだろう。

”誰も通すな”という命令が、嘘である可能性が高いと踏んだエレーナは圧力をかけて交渉することを選んだ。


しかし、その結果は変わることがなかった。
どんな圧力にも屈せず、与えられた命令を忠実に従う良い警備兵なのだろう。


普通の状況ならば――



最初は”怒るフリ”だったが、徐々に本当の感情に変わり始めた頃、その気配を察したアルベルトがエレーナの服を引き後ろに下がらせた。

そして、ステイビルはその警備兵の顔を見る。
見られた男は先ほどから上に向けた視線を変えずに、ステイビルからの無言の圧力に耐えていた。



「最後にもう一度問う……本当に我々を通すことはできないのだな?」




ステイビルの静かな言葉に対して、男は命令という盾を用いて即座に言葉を返した。




「はっ!今は誰もお通しすることはできません!!」




刺さるような感情を向けられても、ステイビルの前にいる男は命令された任務を果たしている。



「そうか……邪魔をしたな」



そう告げるとステイビルは男に背を向け、エレーナたちの横を通り抜けて施設に向かって歩き出した。
この感情をどうやって処理したらいいか困っているエレーナも、とりあえずステイビルの背中を追って歩くことにした。
他の者たちもそれに続く中、ハルナは何かに気付いて足を止めた。


「……ハルナさま?」


すぐ後ろにいたソフィーネが、歩みを止めたハルナに声をかけた。




「ちょっと気になったことがあって……先に行っててください!」

「あ!ハルナ様!?」


ハルナはそういって、先ほどの警備兵の前に戻っていった。
しかし警備兵の視線と姿勢は、つい先ほどここを離れようとした時にみた姿と全く同じだった。



「あの……お伺いしてもよろしいですか?」


「はっ!私に応えられるものであれば!!」



その言葉を聞き、ハルナは質問が二つある告げてまず一つ目を聞いた。



「キャスメル王子も、ここの町にいらっしゃったんですか?」


「……」




その質問に対しては、警備兵は何も返さない。
少し待ってみても、その答えが返ってくる様子はないため最後の質問を投げた。





「私たちの邪魔をするおつもりですか?」


「いえ、そんなことは決してありません!」


「ありがとうございます!どうも、ありがとうございましたー!!」




その答えを聞き、ハルナは表情と姿勢の変わらない警備兵に礼を告げ、ステイビルたちを走って追いかけていった。






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