問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』
4-151 チェリー家の屋敷で9
「私……二番目でもいいです。ハルナさんなら……きっとステイビル王子と……」
「え!?あの…ちょ、ちょっと!メリルさん!?」
手を握られたまま解くこともできず、メリルからの熱い眼差しをただ受け止めていた。
「ハルナ様……私、ステイビル王子が小さな頃に一緒に過ごさせていただきました」
その話は、メリルを救出するときにステイビルから聞いていた。
そのことに対してハルナは何の驚きもなかったが、話の先が気になったため口を挟まずに続きを待つ。
するとメリルはハルナの手を放し、テーブルの上で手を組んだ。
「あのお方は本当にお優しい方です……よく厳しそうに見られますが、あれは”そうあれ”と成長の中で取り入れられたお姿です。困った者を見捨てることができず、自分にお近い方から可能な限り遠くの者までも救いたいと考えらるお方です。そして、その中は繊細で純粋な心をお持ちの方です」
ハルナはそのことに関しては、否定はしないどころか同じことをステイビルには感じていた。
でなければ、グラキース山のふもとの村やドワーフとエルフの村との交流、このソイランドの町も助けるような行動には出なかっただろう。
ハルナが持つそのステイビル像も、間違っていないことをメリルに告げた。
「……にしても、メリルさんはやっぱりステイビル王子のことをよく見られているのですね……私はメリルさんの方が、ステイビル王子に似合っていると思っていますよ」
その言葉にメリルの目が一瞬見開き、頬が真っ赤に染まるのが見えた。
「は……ハルナ様の今のお言葉……私の気持ちまで気遣って頂き、そのお心使いに感謝申し上げます」
メリルは、自分がステイビルの部屋から出てきた時にその中で何があったのかを察していると判断した。
さらには自分からの質問に対しハルナは、真剣にステイビルに対する言葉を語ってくれた……しかもメリルのことを気遣ったうえで。
ハルナの言葉からはステイビルに対しても、ステイビルに思いを抱くメリルに対しても気遣いが感じられわ、メリルはハルナの懐の深さを感じた。
ハルナ自身には、当然のことながらそんなつもりはない。
自分に降りかかりそうな厄介ごとをすり抜けるためだけに、過去の経験から保身のためにつなぎ合わせた言葉だった。
しかしそれは、メリルにとってはどうでもよいことだった。
嘘であっても本当であっても、それよりも深いところにあるハルナの考えに触れることができた。
メリルはおよそ一年という長い拘束から解放され、捕らわれの身となっていた間の心の支えの人物と勢いで事を成してしまった罪悪感。
その行為は本来であれば、ありえないものだろう。
それを知ったうえでのハルナの気遣いは、メリルが救われるに十分な言葉だった。
「私は、ハルナさんはステイビル王子にふさわしいお方だと確信しました……」
「で、でも!……あの、メリルさんも……王子のこと……」
ハルナの言葉はメリルによって途中で遮られ、人差し指を立てて”これ以上は言ってはいけない”という仕草を見せる。
「私など、王子の傍にいられるだけで幸せと思うべきなのです。これ以上のことを望んでは、大精霊様からお叱りをうけてしまうでしょう」
ハルナは、ラファエルのことを頭に思い浮かべながら、”そんなことで怒られるはずはない”と心の中で思う。
だが、そのことを口に出しては言わなかった。
「……決めました、私!」
メリルは突然、小さな声ながらも力を込めた。
「な……何をですか?」
「私、ハルナさんと、ステイビル王子を一緒にさせてみせます!」
「はっ?……はぁ……え?」
ハルナの口からは、驚くほど感情と意思が乗っていない音しか出てこなかった。
メリルを見ると、その瞳には力強い意志が込められており、決していま口にした言葉が冗談や嘘ではないことが分かった。
またしても、言葉をどう返せばいいかわからないまま、ハルナはメリルの顔を見つめている。
「私にお任せください、ハルナ様!きっと、ステイビル王子はハルナ様を幸せにしてくれることでしょう」
「ハルナ様なら……私が王子の傍にいても……許してくださいますよね?」
「え?……は、はい……多分大丈夫かと」
そのハルナの返事に対し、メイルはにっこりとほほ笑んだ。
明日から忙しくなる……と口にして、メリルは冷めたお茶を口にした。
空はほんのり、朝日が昇る方向が赤く染まり始めていた。
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