問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』
4-105 砂漠の施設19
メイヤはの顔は、平然としていたが目の色は勝利を確信した色をしていた。
実際、そう思っていなくても、いまのべラルドにはそう映っていた。
「それでは、この馬車借りていくわね。その者たちは、どちらに向かっていったか教えていただけるかしら?」
「……ぐっ!?」
べラルドは腰に下げていた剣を鞘から抜いて、メイヤに構える。
「あら、それは一体どういう意味かしら?」
戦いになることを恐れないどころか、嬉しそうな声色が剣を向けた目の前の女性が尋常ではないことを感じ取る。
そして、この者が王国最強の部類にある諜報員であることを改めて認識した。
普通だと勝てない……そう思ったべラルドは、この状況で最も悪い手で対応した。
「ま、待て!ソイランドの町は私が完全に抑えている!メリル、お前の家のこともそうだ!俺に何かあると、お前の家の者もただじゃすまないぞ!!!それでもいいのか!?」
その言葉に対して、メイヤはちらりとメリルのことを見る。
メリルもそのことに気付いて、メイヤに対して頷いて答えた。
「わかったわ。ここはメリルさんにゆずることにしましょう」
「は?お前、何を言ってる??俺に下手なことをすれば、こいつの母親の命は……ごほっ!?」
べラルドも鍛えてはいたが、それ以上の重量のある氷の塊がべラルドの無防備な腹に衝撃を与えた。
「今頃はステイビル王子の命令で、警備兵の司令本部もチェリー家の屋敷も制圧されている頃でしょうね」
「な……なんだ……と!?」
「もう、あなたの悪だくみもこれでお終い。好き勝手やってきた罪の償いを受けてもらわないとね」
「な、なめるな!あの町は私のモノだ!誰にも渡さん!!」
べラルドはまだ続く腹部の痛みをこらえて、剣をメイヤに突き刺そうと飛び出した。
歩数にして七歩程度の距離、一歩一歩べラルドは獲物に向かって剣を運んでいく。
だがその獲物は避ける動作も遮る動作もしない、ただただべラルドの顔を見て微笑を浮かべているだけだった。
(くそっ!!俺をなめるな!!)
そして肘を折って構えていた剣を突き出し、距離を一瞬にして縮めた。
本来なら人の皮膚を貫き、鈍い感触がこの手に伝わってくるはずだった。
しかし、伝わってきたのは何か強固なものが尖っている剣先の侵入を拒む感触だった。
全力で突き出したため、肘や手首には強い衝撃がそのまま伝わり鋭い痛みが脳まで伝わってくる。
「ぐわっ!!」
――ガラン!!
べラルドの悲痛の叫びと共に、手にしていた剣が地面に落ちる音が響く。
「熟練した精霊使いは、岩よりも固い氷を作り出せると聞いていましたが……すごいですわね」
メイヤは喉元だけに現れた氷の板が、自分の身を守ってくれていたことに気付いていた。
そこにはべラルドが渾身の力で突いた剣の跡は、白い点さえも見当たらなかった。
べラルドは腕を抱えてうずくまっている、どうやら全力の突きがはじかれたことによって前腕の骨が折れてしまったようだ。
あっけない終わりにメイヤは不完全燃焼だったが、メリルの救出とべラルドの捕獲ができたので良しとすることにした。
ただ、途中で別な行動しているハルナたちが気にはなったがソフィーネも一緒にいるためすぐに心配することをやめた。
「助けていただきありがとうございました、メイヤ様。それで、先ほどのビル……いや、ステイビル王子が母を助けてくれたというのは……」
「本当のことですよ、メリルさん。ご安心下さい……さ、帰り支度をしましょう」
メイヤはべラルドを縛り、気絶していた男を起こして状況を説明する。
建物の中では裏の組織の者たちは、警備兵が制圧し終えていた。
騒動の始まりは、やはりコルムがメリルを含むこの場所の全てを奪おうとして起きたことが原因だった。
べラルドは、この場所が自分には関係がなく裏の組織の者たちだけのせいにしようとしてこの場から離れようといたという。
傍にいた男もべラルドのことは理解しており、このことを聞いても何も感じることはなかった。
ただ、今は長く続いていた悪夢のような時間が終わり、ソイランドに夜明けが来ることに喜びを感じていた。
そこに、一人の女性がメイヤのもとに駆けこんできた。
「メイヤさん!!」
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