問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』

山口 犬

4-80 指令本部での攻防9





(クソッ!こ……このままで……終われるか!)



クリミオは震えが止まった足に、残った力を込めて立ち上がり、再び剣をグラムへと向け対峙する。


(なんだ……この剣、よく見れりゃ、刃が欠けてボロボロじゃねーか……そうだ)




クリミオの中にある作戦が浮かぶ。
クリミオは小さい頃、生きていくために簡単な剣や道具の扱い方を覚えてきた。
今回思い浮かんだものは、その時に偶然覚えた技で今まで何度も役に立った技だ。


クリミオは両手で握り、剣の刃を縦にして正面に構える。
意を決し、グラムに向かって剣を振る。その距離は丁度剣先と剣先がぶつかり合う程度のものだ。
ぶつかり合う度、剣の鉄が打ちあう音が響く。
グラムはクリミオの剣の威力がないと、片手でその攻撃を弾いて行く。


(――いまだ!)


クリミオは今までよりも深く踏み込み、ぶつけあっていた剣先よりも中心部に近い場所で打ち合う。
そこには刃の欠けた場所があり、グラムの剣先はその欠けに上手く引っ掛かった。
両腕に全ての体重を乗せ、ひっかけたグラムの剣先を下げることに成功した。
本来なら相手の手から剣を落とすことが出来ればよかったが、自分よりも力のある相手にこの状態でもを作っただけでも成功と言える。


クリミオは、剣の腰のナイフを抜き取りグラムの剣を持つ肩口へ向かって突き刺す。
グラムの剣はまだ下がったままで、この攻撃を交わす手段はないと判断した。



そのナイフは肩に刺さる直前で、動きを止められた。
反対側の手で、クリミオがナイフを持つ手を掴んでいた。

グラムは掴んだ手首をそのまま外側にねじり上げ、クリミオの関節は本来動かない方向へ誘導され悲鳴をあげる。



カラーン……!


あまりの痛さにクリミオは両手に持っていた武器を落とした。


「……ぐわぁっ!?」



「勝負あったな……」


一言告げると、グラムは掴んでいたクリミオの手を離した。



クリミオは、痛めた左腕を抑えるように床で丸まくなりうずくまる。
グラムはその様子を上から見下ろし、剣を腰の鞘に仕舞った。



「最後の攻撃……あれは良かった。練習を重ねた迷いのないとてもいい攻撃だった……っと、偉そうにすまんな。つい昔の癖でな」



グラムは、照れながらクリミオに告げる。
実際に途中から、部下に稽古をつける感覚で向かい合い、クリミオの途中から変わった意気込みが昔の懐かしい感じを思い出させた。




「……のか」



「ん?」


「警備兵とは……こんなにも強い者たちばかりなのか?」


クリミオはこの質問が、馬鹿げていることは判っている。
ソイランドの副司令官として籍を置いているクリミオがしていい質問ではない。

だが、その意図を組んでグラムは、質問に対して真摯に答える。


「あぁ……そうだな。俺が見ていたころは、お前よりも強いやつは一杯いた……もちろん初めはお前のような強さのやつもいた……それがどうかしたのか?」




「……いや、何でもない」


グラムはクリミオが見せた一瞬の表情を見逃さなかった、何か言おうと息を吸いこんだが思い直してそれを止めていた。


(本当はこんなことをするためにここに危険を冒して乗り込んできたのではないのだが……)


なぜかクリミオの見せた表情が、悩みを抱えている部下の表情にみえ、お節介の虫が黙っていなかった。
グラムは腕を組んで、顎髭を撫でて考える、これは決して敵の目の前で見せていい行動ではない。
しかし、相手はこれ以上何かをするようにも見えなかった……相手から情報を引き出すためにもここは武力や勝者の権利をかざすよりも言葉を重ねる方が良いとグラムは判断した。



「俺は……あの廃墟の中で暮らしていた。知っているだろう?べラルドのやつに追われている身を隠すには、あの場所が丁度良かったんだ」



グラムは床に座り、クリミオの前で胡坐をかいた。



「そこでいろいろな奴にはいろいろな話を聞いてきた……もちろん俺の話も聞かせた、それで仲良くなった奴もいる」



クリミオはまだ痛む腕の関節を抑えながら、ゆっくりと身体を起こしグラムの顔を見る。



「なぁ……聞かせてくれないか?お前がどうしてこんなことをするようになったのかを」









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