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山口 犬

4-67 ブンデルとサナ5







「あちらです……ブンデル様」



そういってパインの屋敷のメイド……メイは、窓の外に建つ住み込みで使用しているメイドの居住を指さして伝える。
その建物は長屋造りで、一部屋一部屋が横に連なって並んでいる。



チェリー家のメイドであるメイは、パインの指示によってブンデルとサナを先ほどパインを狙ったべラルドの息のかかったメイド達の元に案内した。
ブンデルとサナは屋敷の中の調理場やリネン室など、普段は客人に見せないような場所を通り、勝手口を案内された。
そんな通路を通ることにメイは、ブンデルとサナに詫びた。
だが、それらの通路や部屋が煩雑で汚れているかといえばそうではなく、綺麗に整頓され二人が見ても何の不快感を感じない……むしろ規則的で機能的に整ったその様子は芸術的な配列をしていた。
ドワーフもかなりの几帳面のはずだが、そんなサナの心に響かせるほどの出来を見せていた。





メイは移動中、主人であるパインを助けてくれたことに感謝の言葉をブンデルとサナに述べた。

ここで働くほとんどのメイドは、パインが大臣になる前から仕えているメイドたちだという。
パインが大臣になってから、新たに四名のメイドがべラルドの依頼でパインの屋敷に努めるようになった。
その者たちは仕事はこなすが、やや他のメイドを威圧的に接していたという。
メイの友人が一度だけ聞いた話では、武術も習得しているとのことだった。




「ふーん……じゃあ、仲が悪かったんだ」


「良いか悪いかで言えば、……”悪い”方でしたね」




屋敷の中を移動中、メイは実情を隠さずにブンデルの質問に答えた。
新しく来た者たちは、元いた者たちに命令をする。


”パインが自分たちの知らないところで何か怪しい行動を取った場合、すぐに連絡するように”
……と。
そのことが守られなかった場合は、メイドたちも責任を負うことになるだろうとも付け加えた。


元いた他のメイドたちもメイと同じ気持ちで、後から来たもの達を歓迎したり協力したりする気は起きなかったようだ。
パインもそのことを察してくれていたのか、今までべラルドの監視に引っ掛かるような行動は何も起さなかった。



「ですから、あの者たちには”重要”なことは教えていないのです」


「重要なこと……ですか?」



サナは、メイが発した内容をそのまま聞き返した。




「そうです……私たちは火災など緊急時にハンドベルを鳴らして居住区で待機している者たちに知らせる合図を用意しています。その中のひとつに”襲撃されたときに知らせる”という合図があるのです」


「それで、その者たちを誘い出すことができる……のですか?」




メイはサナの言葉に頷く。



「実は、あの者たちに教えていない偽の合図があって、それは襲撃のベルの回数が”三回以下”なら偽の合図ということを伝えていないのです」


「ということは、その偽の合図で呼び出し……その者たちを誘い出すということか?」


「そういうことです、ブンデル様」




ブンデルは、どうやってその者たちを部屋から一人ずつ誘い出して捕獲するかを検討していた。
ソフィーネやメイヤのように、諜報員としての技術があれば物音を立てず目標を捕獲することも可能だろうが、生憎そういった技術を持ち合わせていない。

ログホルムの魔法で草の檻を作ることもできるが、部屋の中にいたままでは難しいため外に誘い出す必要があった。
だが、その対象を一人ずつだけに行わせることは難易度が高い。
外で騒ぎを起こせば、一斉に外に誘い出すことはできるだろうが、二十名近い者の中から三名だけを狙うというのも現実的ではない。


そこでメイは、”その者たちだけ”を誘い出す方法を思い付いた。
それがその者たちが知らない”偽の合図”だった。



偽の合図と知らない者は、必ず飛び出してくる。
ましてやあの者たちは、パイン……その後ろにいるべラルドに歯向かう力を監視・排除させるためにここに居る。
襲撃となれば、その者たちを捉えその者たちの正体を洗い出しべラルドに報告する。
そのため、怪しむことなく自分たちの”任務”のために飛び出してくるはずとメイは言った。

ブンデルもサナも今は、時間がなくその方法が最善と判断しメイにその行動を取ってもらうようにお願いした。










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