問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』

山口 犬

4-59 合流





翌朝、メイヤは太陽が昇る前にソイランドに到着する。
馬での移動であれば、もう少し早く着いたのだが、静かに行動するにはこの身だけで移動する方が安心だった。

一晩中走り続けたが、さすが身体を鍛え上げた諜報員の一人だ。
疲れはあるものの、自分自身の身体のコントロールも問題ない。

今回も、関所の門番に気付かれることなくソイランドの中へ侵入した。


メイヤはまず、ステイビルたちが滞在していた宿屋に向かっていった。
だが、その中には既にステイビルたちの気配はなかった。

宿の者に聞こうとしたが、”誰か”に居場所を勘繰られるのも面白くないのでこのまま黙って他を当たることにした。


メイヤはそのまま、廃墟へと向かっていく。
次にいる可能性があるとすれば、ユウタがいたあの部屋と推測した。
ソフィーネの伝言によってソイランドの外に情報を探りに出たあの日、止めていた馬車は既にそこにはない。
それを使って移動したということは、遠くに向かっている可能性も考えらる。
しかし、問題が何も解決されていない今、ステイビルたちがこの町を離れる判断をする可能性は低い。
グラムを救出した後、その身をどこか協力者の場所に寄せているのではと、メイヤは考えを巡らせる。
この町で協力者として考えられるものは、王国に関りをもつ家の者たち。
ロースト家、ポートフ家……そしてチェリー家。


チェリー家はべラルドとの関わりがあり一番危険なため、可能性としては一番低い。
残る家のどちらかだが、ポートフ家はいまクリエがキャスメルと行動を共にしているためステイビルに協力をしてくれるかどうかは不明。
一番無難なのはロースト家であると判断し、この廃墟に痕跡が残っていない場合はそちらに向かってみることを決めた。




太陽が昇る方向の空にうっすらと赤い色に染まる空が、建物の間から覗く。
道端に寝転んでいる、生死のわからない人の姿を避けながら歩みを進めていく。


メイヤは目的の場所の建物の中に入り、顔を隠すために被っていた布を外す。
篭っていた体温を含んだ熱は外気に拡散していき、入れ替わるように夜明け前の冷たい空気が気持ちよく頬を撫でていく。

メイヤは、調理室の横にある幅の狭い階段の前に立ち一番上を見上げる。
その奥に人の気配は感じない……だが、何かメッセージが残してあるかもしれないと一段一段と階段を上がっていく。



「――」


最後から一つ手前の段に、小さな針が突き出ているのが見えた。
その先には、もちろん猛毒が塗ってあり、これを踏めばすぐさま命に別状はないがすぐさま解毒をしなければ徐々に毒が全身に回って呼吸が止まってしまう神経毒だ。

昇り切る手前……その先の通路に意識が向き始めるところにトラップを仕掛ける。
諜報員が用いる、教科書的なトラップの仕掛け方だった。


(見つかるトラップは、トラップじゃない……何度も言ったものだけど)



諜報員を指導する時に、何度も繰り返し教え込んできた言葉を頭の中でつぶやきながら、その段を飛ばして足を踏み出す。



――パシッ!




階段を一段飛ばして昇って不安定だった体勢に向かって、石礫が自分の眉間を目掛けて一番突き当りの部屋の暗闇から放たれる。
その速度は人を殺めるための速さではない、だが普通の者なら気を失って階段を転げ落ちてしまっていただろう。


「……やっぱり引っ掛かったりはしないわね」


「随分なお出迎えね……ソフィーネ」



そう言いながらメイヤは、飛んできて掴んだ石をソフィーネに向かって投げ返した。




サライの話を聞いたあと、ソフィーネはこの場所で待機していた。
場所を移動し、拠点をポートフ家の敷地の中に借りることにしたため、メイヤが戻ってきた際に今の居場所を伝えるためにステイビルからこの場に待機するよう命じられていた。


始めはチェイルがその役目を名乗り出たが、一番単独行動で信頼がおける者として、このメンバーの中ではソフィーネが適任だった。



「それで、ステイビル様にご報告があるんだけど……案内してもらえるわよね?」

「もちろんよ。遅いから待ちくたびれたんだからね……行くわよ。グズグズしないでね」






数日間の情報収集の任務が終わっても、これだけ動けるメイヤをソフィーネは憎たらしく感じている。


(これじゃあメイヤにいつまでも……追いついて……いや、必ず追い越して見せるわ。この憎たらしいほど強い女を!)





そう心でつぶやき、ソフィーネは後ろを気にすることなく廃墟の細い壁の間を通り抜けていった。










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