問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』

山口 犬

4-30 商品





ブンデルは、拘束された状態のままの時間が過ぎていく。

何も身動きをとることができない間、ブンデルは怒りと不安とこんな場所に連れてきてしまった自分を呪う気持ちが頭の中で入り混じっていた。
そこから導き出した答えは、”今やるべきことは二人でここから生きて逃げ出すこと”、ブンデルはそう決めた。

男たちは、目が覚めた時にいた二人の男たち以外にもいる様子が彼らの会話から伺えた。
その男たちはいま、ブンデルが何もできないことを知ってか監視する者はこの場にはいない。
舐められているのも気に入らないが、実際にブンデルにはこの状態で何もできることはなかった。






一番気になることは、サナが今どういう状況にあるかということだった。
種族は違えど、サナは女性である。



(大切な身体に何かされていないか……)


人間は、生き物の尊厳を無視するかのような自分勝手な行為が行われていることは度々聞いている。
ブンデル自信もいろんな森を旅していた際に、その被害にあった同族他族問わず女性が弄ばれていた”形跡”がそのまま残されているのを何度か目にしたことがある。
その度にブンデルは、その亡骸を自然に還してきた。
なぜそんな行動をしたのか自分でもわからないが、自然と心がそういう行動につなげていった。


だが、人間がそういう残虐非道な者たちだけでないということは知っている。
ハルナたちと行動を共にしてから、見下していた人間という種族の良さもいろいろと知ることができた。
エルフやドワーフの寿命に比べ短命な種族が、その短い時間の命を精一杯生きている。
良い世界を次の世代につなげようとしていることは、モイスからも教えてもらえた。



ブンデルもサナも、ハルナたちを通じて人間のことが好きになっていた。
グラキース山のふもとにある村のミュイとチュリーのように、一緒に手を取り合って協力し合える日がすぐそこまで訪れている。




しかし、いまここに居る人間は決して許すことはできない。
今まで見てきた人間のうち、ここに居る者はろくでもない人間の部類であることは臭いと勘がそう告げている。





(サナ……サナ……)



ブンデルは今目の前にいない、最愛の存在の状況を心配し胸を痛める。
確認できない心配事は、勝手な妄想が拍車をかけ悪い方向へと想像が加速する。


そんな中、事態が動き始めた。


男たちが戻ってくる音がする、この足音からブンデルはこの場所が先ほど覗いた穴の下に通じている部屋の中ではないかと推測した。

先ほどの男たちがブンデルの前に現れた、その手には大きな麻袋を手にして。




「ほら……お前、そっちを持て」




スキンヘッドの男が手にした袋の反対側を相手に投げた。




「うるせぇー!偉そうに俺に命令すんじゃねぇ!!」



そう言いつつも男は、投げられた袋の口側を手にする。



「お前たちの買い主が決まったみたいだぜ……今までにないくらい早かったな……お前たち本当はすごいやつなのかもな?」



その言葉に、ブンデルは自分たちが誰かに売られてしまうことを悟った。
男はブンデルを足の方から、袋の口の中に入れていこうとする。
両足首と両膝を縛られたブンデルは、股関節や腰の動きを使って必死に抵抗する。



「……くそっ!?」



もうスキンヘッドの男が、ブンデルの身体と首を押さえつけ動きを止めようとする。
押さえ付けられ動きが封じられ、ブンデルの足首が袋の中に入ってしまう。


「……売り物じゃなけりゃ、コイツを”味見”してみたかったんだがなぁ」


ブンデルを押さえつけるスキンヘッドの男が、舌なめずりをしてブンデルの股間を欲情した目で見つめる。
ブンデルの背中にぞっとした感覚が走り抜ける。



「馬鹿なこと言うな……俺だってあっちのドワーフに興味があるんだ!なんだかあのドワーフ妙に体つきが色っぽいんだよなぁ……生きてることが条件だから、味見ぐらいしても構わないんじゃなぇか?」




スキンヘッドの男が、その言葉にニヤリと笑う。




「俺も……いまそう思ったところだぜ?」


「……なら、あの”粉”使わねーか?最近取引が中止になったやつあるだろ?気持ちよくなる程度なら、構わねェと思わないか?」


「あぁ、そうだ!お前、見かけによらず頭いいな!!」


「”見かけによらず”は余計なんだよ!?……なら、”試食”の場所は、粉置いてあるところでいいんじゃねーか?」


「……問題ない」


「よし、アイツらにも言ってくるからこいつをさっさと袋詰めにしようぜ!」





欲望にまみれた男たちによって抵抗も無駄に終わり、ブンデルは麻の袋に詰め込まれた。
少し離れた部屋からは、歓喜の声が聞こえてくる。
先ほどのことを、サナを見張っている男たちにも伝えたのだろう。


ブンデルは担がれて、男の肩に載せられて運ばれていく。
床から出されるとき少し体をぶつけたが、相手はお構いなしに運んでいく。

建物から出されたとき、麻の袋の隙間から冷たい外気が流れ込んでくる。
外は既に夜だった――




「おい!急げよ!!」




ブンデルの耳にあのスキンヘッドの男の声が聞こえる。
自分を抱えている男がもう一人の方に交替されたようだった。



『この町から出てしまってはハルナたちに二度と会えなくなる……』



そんな気がして、ブンデルは必死に抵抗しようと身体に力を入れたその時――





「……っ!?」


ブンデルを抱えている男から、うめき声が聞こえた。


「あなた達……こんな夜に何をしてるのかしら?」








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