問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』

山口 犬

3-189 ほんの些細なこと








「さ、行きましょう」






イナは、サナに合図をしてゾンデルの部屋の扉を開けてもらった。





――カチャ





そこには複数のエルフと人間が集まっており、そこにドワーフも入っていく。
今まで、誰も見たことのない光景がそこにはあった。

サナは扉を押さえて、後ろに続く二人に部屋の中に入るように促した。







「……ようこそお越しくださいました、そちらの椅子にお掛けください」







部屋の中には長い長方形のテーブルが置かれ、扉の正面の短辺にはゾンデルとナンブルが座っている。


そこから左側の席には、ステイビルたち東の王国のメンバーが座っている。
イナたちは、その反対側の席に座るようにナルメルから勧められた。


始めはステイビルが両種族の架け橋のようなものと、ゾンデルたちは真ん中に座らせようとした。
ステイビルは、ここはエルフの村であることを繰り返し告げてこちら側の席に座らせてもらった。



イナの正面にはステイビル、デイムは警備のためとイナの後ろに立っていた。
デイムにも席に着くようにナンブルは勧めたが、地位の違いがあると頑なに断った。


それを見たハルナとエレーナは自分たちも立った方がいいのかと、ステイビルに目で合図をする。
それを察したゾンデルが、ハルナとエレーナに”うんうん”と頷いてそのまま座ってもらうように合図をした。





イナはブンデルとサナが、東の王国側に座っているのが視界の端に見えた。


この場に主要の人物が全て着席したことを見届け、エルフの世話人がこの部屋の扉を内側から閉めた。

そして、ゾンデルが椅子から立ち上がり両脇に座る人物に視線を流していく。






「お集まりいただき、ありがとうございました。まずはお時間をいただいたことに感謝申し上げます」






そう告げると、ゾンデルは椅子から少し横に外れて長く感じられるくらい深々と頭を下げた。
そして再び椅子に座り、ゾンデルは言葉を続けていく。






「ここに集まっていただきましたのは、まず勇敢に戦いこの村を惨劇から助けていただきましたステイビル王子始め、ドワーフの方に感謝の念を伝えたくお呼びした次第です」







その言葉に対し、イナが片手を上げて中断させた。







「待ってください、エルフの長。我々ドワーフは何も手を貸しておりません……ですから、そこまでお礼をいわれる理由が思い当たりませんが?」








イナは、ゾンデルの表情を確認する。
この言葉にエルフの長は、イナの言葉に対し、驚くのか、怒りを表すのか、見下した態度をとるのか。


しかし、想像していたいずれのネガティブな態度は見せずに、優しい目つきでイナのことを見ていた。
それがわざと向けられた言葉であるということを理解したうえで。






「ドワーフの長老よ、あなたのサナ様に私たちの村民を救って頂いております。それに、そんな探り合うような言葉は我々に不要です……確かにこのグラキース山にお互い長く住んできた中で、争い合うようなことも行ってきました。ですが、これを機にそのような関係は終わりにしたいと考えているのですよ」







このタイミングで、それぞれに温かい紅茶が運ばれてきた。
部屋に広がるその香りは、ほんの少し刺々しい空気を和らげた。

最後に継がれたお茶を手に取り、ゾンデルは口元に運んで一口含む。

それに合わせてナンブル、ハルナたちもお茶に口をつけた。






「それで先程の話の続きですが……今回ステイビル様からご提案を頂きまして、人間、ドワーフ、エルフの三者間で協定を結んではどうかというご提案をいただいております。我々エルフはこの協定に、参加させていただきたいと考えています」






そこまで話をしたゾンデルに続き、イナは再び口を挟む。






「その話……我らドワーフの町にもいただいております。それはあなた方エルフよりも先にです」





イナは、少し棘のある言い方でゾンデルの言葉に対して返答をする。






「で、ありましたら、その話はもう既に進められているのでしょう。その中に我々もご協力させていただきたいということですよ……イナ様」




サナが、眉間に皺を寄せてイナに向かって身体を乗り出して告げる。




「ねぇ、イナ……もう、いいでしょ?あんまりゾンデルさんを困らせないで!?それに、きっとバレてるわよ」


「――え?」





イナの態度に痺れを切らし、そう告げたのはエルフではなくサナだった。


そのことに驚いたブンデルは、サナの袖を引っ張り落ち着くように小さな声で話しかける。





その意見が嬉しかったのか、ゾンデルはニコニコとした笑顔でサナに話しかける。





「サナさん……いいのですよ。我々も長年啀み合ってきた仲です、それがこのように手をお互い手を取って協力していくとなるには少し時間がかかることでしょう。”嘘をついていないか見分けられた”のことは、これからのことを考えてもほんの些細なことです」







(――やっぱりバレてた!?)







ゾンデル他、エルフたちは魔力の流れを見ることに長けているものが多い。

イナにかけられた魔法の正体を見抜くことは、そういったエルフたちにとっては容易なことだった。

だがそのためされていることを失礼とも感じず、黙ってイナたちの気が済むようにさせていた。
それが信用してもらえる唯一の手段だと思ったから……



全て相手には判っていた。


イナが煽って、化けの皮がはがれることを待ってていたことを。



「……そういうことだ、イナ殿。そのためこれから、この三種族間で本当に同盟を結びたいか確認したいのだ。出なければ、これからの手配が全て無意味になってしまうからな」





ステイビルの言葉に、イナは素直に賛同の意を示した。





ここから、歴史的にも珍しい新しい同盟関係が設立されることになる。






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