問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』
3-143 出口のない罠
「……その鱗はいま、私の兄”ナンブル”が持っています」
ゾンデルはこれまで、このことを誰にも話していなかった。
村を形成してエルフの生活が発展していくことには、異論がなかった。
むしろそうしたほうがいいとさえも思っていた、村を興すきっかけは何であっても。
だから今まで、黙っていたのだった。
この平和に過ごしてきた村に、わざわざ混乱を起こさないためにも。
ナルメルは父ゾンデルがもしも自分の身に何か起きた場合、証拠を奪われないために鱗の一部を息子のナンブルに渡しておいたのだ。
「ナンブルか……今はどこにいるのやら。そんなヤツが”いま持っている”などと。ここに居ないからって、何とでもいえるんじゃないのか?」
ナルエルの話を聞き終え、マルスが決して悪気のない素直な感想を述べた。
「だけど、これは本当のことよ。私も実際に、その鱗を手にしたこともあるわ。嘘か本当かは、お父様のゾンデルのところへ行けばわかります……今どこに?」
ナルメルがそういうと、マルスは目を逸らす。
その様子をみて、ナルメルは不安になる。
「……どうしたの、お父様は今どこに?」
マルスは村長の顔を見るが、村長は目を合わせようとはしなかった。
再び、マルスはナルメルの顔を見て質問に答えた。
「村長の命で……山頂の……酸の池の中の牢に」
その言葉を聞いて、ナルメルは悟った。
ナルメルがいない間に、ゾンデルは村長に村を解放し助けを求めるべきだと進言しに行った。
多分ゾンデルは、その時に何らかの理由であの隠し続けていた話をしたのだろう。
村長の一族はおかしいくらいに大竜神へ信仰を捧げ、自分たちが大竜神から選ばれたものだからと主張していた。
村長はそれを知って、ゾンデルを口封じのために捕らえたのだろう。
ナルメルは怒りに肩を震わせて、下をうつむいている村長の姿を見る。
「村長……あなたって人は!?」
「す……すまないナルメル」
自分も止められなかったことを悔やみ、村長の代わりにマルスが詫びた。
ナルメルは、村の中でいろいろと嫌がらせを受けていたことを思い出す。
そのせいで、ノイエルも片親となってしまい辛い思いをさせた。
その他にも数えきれない程、押し込めた気持ちが込み上げて気持ちがどうにかなりそうだった。
いま思えば、村長はゾンデルが話をする前に知っていた可能性がある。
だからこそ、ゾンデルの一族に嫌な思いをさせ村から追い出そうとしたのだろう。
ナルメルは村長を睨みつけたまま、言葉にできない感情で身体が震えていた。
「あの場所は危険な場所で、我々ドワーフも絶対に近付かない場所です……早く助けに向かわないと!」
サナの言葉に、ナルメルは我を取り戻した。
「その場所は、遠いのか?それ以前に、魔法の仕掛けは解除できないのか?でなければ間に合わないのでは?」
ステイビルは状況がひっ迫していると感じ、村長に村の周りにかけている魔法の解除を依頼した。
だが、魔法の解除はそう簡単なものではなかった。
複数の魔法が反発することなく発動させるには、精密にコントロールされている。
それを一気に解除の魔法で行うとすれば、魔法の力が暴走しかけないということだった。
暴走の恐ろしさは、先ほど味わったばかりだった。
さらに今回は幾重にも絡みあった状態、その魔法が一気に暴走したら……
そう考えると、強引な方法で解決をしない方が良いという結論に達したが、ステイビルには次の一手が何も浮かんでこない。
ナルメルは一人で行こうとしていたが、サナがいうには一人では危険な場所という。
回復魔法が使えるサナと、魔法解除が掛けられている村を出ていくには誘導のためにとブンデルもついて行くことにした。
その間、村長もエルフの中で高レベルの魔術師を集め解除に尽力することを伝えた。
ブンデルはログホルムで蔦を出し、それをナルメル、サナ、マルスが身体を繋げ茂みの中に入っていった。
その時、異変が起きた。
先頭を行く道案内のマルスが、茂みの前で立ち止まる。
「は、入れない……!?」
「え、なんで!?」
ナルメルがその理由を問うも、マルスもその理由は判らないといった。
「もしかすると、魔法解除を破って入ってきたため、緊急措置とした掛けた空間をゆがませる魔法が発動したんじゃろう……」
本来は道を知っていれば、魔法を使わずとも入れる。
魔法解除を破られ、入ってきた場合は緊急事態として出入りができなくしてあるのだといった。
「非常用の出口とかないんですか!?」
エレーナが村長に確認するも、まだ移動したばかりなのでそこまで用意していないとのことだ。
「どうしよう……あぁ、お父様が!?」
悪い環境に投獄されていることもショックだったが、かなりの時間が経過しこのまま親を見殺しにしてしまうしかできない状況にナルメルは両手で顔を覆う。
ハルナも必死に何とかできないか考えているが、精霊使いではどうにもできない環境の要素が強く気ばかり焦ってしまう。
「……痛っ!」
ハルナは、握りしめた手の中に異物を感じた。
手を広げてみると、そこにはまだモイスの鱗が手の中にあった。
次の瞬間、手にした鱗が蒼く輝き始めた。
          
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