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山口 犬

3-80 長老との面会









デイムの後ろに続いていくと、ハルナたちは洞窟の中にある広い空洞の中に出てきた。






「地下にこんな空洞が……」






エレーナは口が空いたまま、この広さに驚く。





「これは自然にできたものですか?」


「いえ、これは私たちの祖先がつくり上げたものです。」


「それにしても、凄いな。さすがドワーフといったところか」






ステイビルも、この人工的に造られたホールに釘付けになっていた。
当然、人間の世界ではこのような規模の洞窟など造れる技術はない。

東の王国では、炭坑用の洞くつや簡単なトンネルくらいが今のところ精いっぱいだった。




洞くつを切り崩す際に、うまく階段を作っていた。
その先には長老が住んでいると思われる、大きな屋敷が存在している。







「あの場所に長老たちがいらっしゃいます……それでは、行きましょう」






デイムは垂直の崖に削り出された階段を上っていく。


それに続いて、ハルナたちも上っていく。

丁度中間地点まで来た頃には、20メートル程度の高さまで達していた。

一応階段の横には腰よりもやや上の辺りまで手すりが付いているが、下が覗けてしまうため高いところが苦手な者にはちょっとした恐怖だった。

その一人が、エレーナだった。







「だめ、コレ……なんでこんなに……高いのよぉ!?」






エレーナはアルベルトの背中に顔と身体を近付けて、必死に高さの恐怖を堪えていた。
ここまで来て戻ることはできないし、ここでうずくまって立ち止まっているわけにもいかない。


泣きたくなる気持ちを抑えて、エレーナは必死になって上っていった。


そして、ようやく最上段の階段を踏みしめた。






「やったわね、エレーナ!お疲れ……さ……ま?」






ハルナはエレーナに声をかけたが、恐怖を我慢したためクシャクシャに泣いた顔と、恐怖か疲労か分からない足の震えを見て言葉が詰まってしまった。


ソフィーネの提案でエレーナはアルベルトにお任せして、随分と待たせてしまった長老との面会を急ぐことにした。



屋敷の前には二名の小柄なドワーフのメイドが、デイムと来客を待っていた。





(か……かわいい!)






そのメイドを見た、ハルナの第一印象。

背丈はハルナの胸よりもやや上で、丸くぽっちゃりとしたドワーフならではの体形だった。






「デイム、随分遅かったですね。何をしていたんですか?長老がお待ちですよ」




メイドの一人は、ハルナたちにちらっと目線をやる。

だが、その感じは決していいものではなかった。
せっかくの、可愛らしさでハルナの好感度は高得点だったが、再評価をする必要があると感じた。


この気持ちを分かり合おうと、ハルナはエレーナを見る。





「……!?」






エレーナの表情は、崩壊していた。
先程までの恐怖とそれに耐えた辛さと悲しみの表情に、ドワーフのメイドの可愛らしさに心を鷲掴みにされた表情が加わった。





(な……何にせよ、立ち直ったみたいで良かったわ)





ハルナは、エレーナの方を向いた理由を忘れてしまっていた。





「遅れて申し訳ない。この者たちが、先ほど伝えていた人間だ。長老との面会のため通るぞ」








そういうと、メイドはデイムの言葉に頷いて、扉の前からさっと身をかわし二人で二枚の扉を開く。





見事な装飾品が、至る所に飾られている。
聞いたところによると、屋敷や装飾品は全て組み立てたりしたものではなく、崖から掘り起こしてできたものだという。




ここは当時のドワーフの土木建築や芸術の集大成ともいえる建物だった。



デイムに続いて、屋敷の中を進む。
後ろには、先ほどの二人のメイドが付いてくる。


屋敷の奥へ進み、デイムは大きな扉の前で立ち止まった。

後ろを歩いていたメイドは、両脇から前に躍り出て扉の前に立つ。






――コンコン






メイドが、扉に付けられた輪を持ち扉をノックした。






「長老様、お客様をお連れいたしました」




そういうと、またもや二人で大きな扉を開いた。





開くと中には、中央の少し高くなった場所に、鎮座する三人のドワーフが見えた。
そこまではカーペットが惹かれ、三人の前には数段の段差がある。

一番下には、長斧を持った二人の兵士が並んで立っていた。






「よくおいで下さいました。デイム……中に通しなさい」


「はっ」






そいうと、デイムは後ろを振り向きステイビルたちにデイムに続き、部屋の中へ入るように促した。




ハルナたちは、長老たちの前で横一列に並んで一礼する。







「長老様、この者は東の国の王子のステイビルと申すものです」






デイムは、ステイビルのことを紹介した。
その言葉に、左右と真ん中に並ぶ長老の一人が声をかけた。








「ようこそ、人間の王子よ。我々はここのドワーフを取りまとめておる長老の一人、”イナ”といいます」







「突然の訪問の失礼をお許しください、ドワーフの長殿。我々は今回お願いがあり、こちらに参った次第です」






ステイビルは挨拶もそこそこにして、本題を切り出した。






この山の下に人間の集落があり、そこの水がドワーフのこの町によってせき止められてしまっているので開放して欲しい要望を告げた。
さらにステイビルは、この町でもその水の流れを動力として使っているところが多くみられるため、ドワーフの生活にも影響を考慮し話し合いを行っていきたいとも告げた。







「ちょっと待って……一人エルフが混じってない!?」







一番右側に座っていたドワーフが、身の乗り出して指摘した。






扉の外から兵士が駆けこんで、ハルナたちの周りを囲った。







          

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