問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』

山口 犬

3-24 犯人との遭遇





全員が部屋の中に荷物を置いて、そのあとロビーに集合した。
ソフィーネとアルベルトは念のため馬車の扉にカギがかかっていることを確認した。




「よし、集まったな。それではいくとするか」




ステイビルの掛け声とともに、食事ができる場所に向かっていく。


今回は、ソフィーネに案内を依頼した。
条件として、人目に付かず静かに食事ができそんなに高くないところ。
そして、この中で誰も知り合いがいないところという条件だった。




そうなると、町の中心から離れた薄暗い通りの店になりそういう場所だと”下品な輩”も多くいると伝えたが、ステイビルは問題ないとそこに案内するようお願いした。



一応念のため一番先頭をソフィーネが歩き、ステイビル、ハルナ、エレーナ、ノーラン、マーホン、アルベルトの順で町の中を進んでいた。


ステイビルアだけ冒険者用のローブで身を包み、その中にミドルソードを隠し持っていた。



通りのはずれに到着し、小道の中に入っていく。
左右に並んだまだ空いていない店も多く、空いている場所があっても準備中の札が下がっていた。


準備中の札が掛かっていたが、中に人がいる気配の店に入って交渉をしたが既に三軒は断られている。





「あ。あそこにもありますね、”準備中”の札が」




エレーナが指を指した場所に、ソフィーネが向かい店の扉に手を掛ける。
カギはかかっていなかったのでそのまま、扉を開き声を掛けた。





「どなたかいらっしゃいますか?申し訳ありませんが、食事をしたいのですが……」






……
…………
………………






返事がないため、扉を開けて出ていこうとしたその時。




「――何名だ?」




声が聞こえ、カウンターの奥から人が現れた。


ソフィーネは扉に掛けていた手を離して、振り返り応える。




「六名なんですけど……」





「なら、そこの階段を上がった二階の奥のテーブルを使いな」




ソフィーネは外で待っていたハルナたちに声を掛け、中に入れることを伝えた。


誰もいない店の中を六名の足とが響きわたる。
普段ならば店の中が騒がしいのでこういう音も気にはならないが、誰もいない酒場はとても静かなものだった。



ハルナが椅子を引いたとき、指先に触れたべたっとしたものが気になった。
手を見ると何も付いていないので、このまま座ってしまえばと覚悟を決めて座った。



着席後数分経ったが、注文を伺いに来る様子もない。
アルベルトが代表して、下の階まで降りて呼びに行った。





「すみませんが、メニューは無いんでしょうか?」





男は火の付いたパイプを咥え、面倒くさそうに姿を見せる。





「そんなものは無いね。食事なら、ふかしたジャガイモか麺類しか用意できないがどうする?」






口からパイプを外し、横を向いて煙を吐き出しながら言った。






「わかりました、それを人数分お願いします」



「酒は飲まないのかい?メシだけってこともないんだろ?」






そう言われ、アルベルトはエレーナの顔を思い浮かべ、飲めない自分を除いた五名分のグラスと酒も注文した。



「出来たら呼ぶ、聞こえたら取りに来な」




そう言い残して、男は奥の方へ煙と共に姿を消した。





アルベルトは、上に戻ろうとしたが壁に付いたシミが気になった。
よく見ると、血痕が付いている。
見渡せば、テーブルやイスも壊されて補強や修理された痕跡も多くある。
しかも、修復されたばかりの新しいものもあった。




(ふーん……)



アルベルトはその状況を理解し、上の席に戻った。








しばらくすると、カウンターに置いてあるベルが二回程誰もいない店内に鳴り響いた。
その合図にアルベルトとソフィーネが下の階に降りていき、出来上がった食事を受け取りに行く。



「……銀貨二枚だ」



「おい、これでか?」


「お前は、注文してから文句を言うのか?警備兵呼ぶか?」


「いいのよ、アルベルト。南の湿地帯の中で食べてた草の根よりは美味しそうだわ」


「へへ、そりゃどうも」





アルベルトは、銀貨二枚をカウンターの上に置いて食べ物と飲み物が乗ったトレイを手にする。
もう一つのトレイをソフィーネが持ち、アルベルトの後を付いて行った。



「おいおい、なんだコレは。食べ物か?」


「あら、この場所はガヴァスさんの”ご指名”でしたが?」


「む、確かにそうだが……」


「あ……案外美味しいかもしれないわ、食べてみましょう」


ハルナはふかしただけのジャガイモを一つ口に入れた。




「――!!!!」




ハルナは両手で口を塞ぎ、飲み物を要求した。




「大丈夫ですか、ハルナ様!?」


マーホンは慌てて酒を注いで、ハルナに手渡した。


ハルナはそのグラスを受け取って、口に水分を流しこんだ。




口に含んだ酒も度数が強く薬品のような味もしたが、出すわけには行かないのでそのまま我慢をしてジャガイモと一緒に飲み込んだ。



落ち着いた後、ハルナはみんなに感想を告げる。




「いやー、これ塩辛いだけの食べ物よ!?」


「え?そうなの!?……うわっ、本当だ。しょっぱいわね」




「こ、これは……お酒が進む食べ物ですね」



ノーランが、せっかく食事に連れてきてくれたことを気にして、目の前の食べ物を最大限のお世辞で感想を述べる。



「あ、そうかも。そういう場所なんですよ。きっと」



そう告げたのはマーホンだ。




安い酒場で、つまみは塩のみ。
お酒ではなく、アルコールが飲めて酔っぱらえればそれでいい。
そんな人たちが利用するお店なのだろう。


そう聞くと、アルベルトも先ほど見た下の階の壊されたものが修復される理由がわかった気がした。





何とか時間をかけて、テーブルの上に並べた食べ物を六人で食べ尽くした。

”もうそろそろ出て宿場に帰ろう”とエレーナが言いかけた時、店の扉が開き店内に入る数名の足音が聞こえてきた。


しかもその足音は、迷うことなく二階に向かって上がってくる。
もう二階にはハルナたちのテーブル以外に、足音の人数分が座れる場所は無い。


そしてその人物たちは、ハルナたちのテーブルを囲うように並んだ。



「お食事はお済かい?なら、そろそろ金目の物を置いてお帰り頂こうか」




一番最後に階段を昇ってきた男が、腰からゆっくりと剣を抜いてハルナたちに告げた。





その男の顔を見て、ノーランが指を指した。





「あー!あの人、私の荷物を持っていった人です!!」






          

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