問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』
2-74 陥穽
「お前たちは、何者だ?なぜボーキンという男を探している?」
男は再度同じ質問を投げかけてきた。
なぜこの問いにこだわるのかわからないが、やはり何かを知っているのだとハルナは感じた。
「それは……」
クリエがその理由を告げようとした時、ソフィーネがクリエと男の間に割り込みんで、クリエの発言を止めた。
「それは今は言えません。ですが、こちらもある程度の情報を持っています。あなた方が何故、その男性を隠しているのかわかりません。がしかし、無駄な駆け引きなどなさらずに、そのような人物がいないのならばはっきりと仰ればよいのでは?」
「ぐっ……」
ソフィーネの言葉に、男は黙ってしまう。
ある意味、それが答えだった。
取り囲む警備兵も、その男の指示を待っている。
ハルナたちと警備兵の間に、様々な思いが交錯する。
それぞれが、如何にして優位な立場で物事を進めていくことが出来るのか。
その空気はとても重く、息苦しくなりハルナは耐えられなくなってきた。
その様子を見ていたカルディがやや強い口調で相手の男に話しかけた。
「結局、どうなんですか?あなた方はボーキンさんという方をご存じなのですか、そうでないのですか!?」
カルディは言葉の感情に合わせて、自分の背後に小さな氷の粒をいくつも作って見せた。
その様子を見て、取り囲む兵から「おぉ!?」という声が聞こえた。
自分たちの目の間に精霊使いがいることを認識した。
その様子を見て、警備兵の士気が揺らぐのを男は感じた。
(これ以上のやり取りは無意味だな……)
目の前の者たちは特に警備兵たちを襲う様子もなく、こちらに攻撃的でもなく無理な要求をしているわけではない。
そう判断した男は、剣の柄から手を離し片手を挙げて包囲を解いた。
すると、警備兵は、左右に列をなして関所までの通り道を開ける。
男は先ほどの威圧的な態度とは打って変わり、顧客をで向かうような丁寧な口調でカルディに話しかけた。
「大変失礼しました。ボーキンは現在職務のために席を外しておりますので、お急ぎであればご用件をお伺いできればお取次ぎさせて頂きます。もしくは、別室で戻るまでお待ちになることもできますが、如何いたしましょうか?」
その言葉に、カルディも氷の粒を元素に還し警戒を解いた。
「そうですか、それではお待ちさせて頂くことにしましょうか。……それでよろしいですか?ハルナ様、クリエ様」
ハルナもクリエも、お互い顔を見合わせて頷いた。
「……では、こちらへお越しください」
男は、自分の後に付いてくるように指示する。
カルディが先頭を歩き、その後ろをクリエ、ハルナ、ソフィーネと後を追った。
その様子を、左右に並んだ警備兵たちはただ見守っていた。
彼らの腹の中の思いは、その表情からは計り知ることは出来なかった。
通された場所は普段、警備兵が休憩に使用している部屋だった。
奥はカーテンが開いており、綺麗の整えられたベットが見えた。
どうやら、仮眠室のようだ。
この部屋には、汗・体臭・煙草・埃などいろいろな臭いが混ざっている。
ハルナは高校の時にあまり知らない同級生に誘われて、ほんの数日在籍していたサッカー部の部室の臭いを思い出した。
だが、嫌がらせでここに連れてきたわけではなさそうだ。
ここしか通す場所がなかったのだと気付く。
関所は、警備兵が常駐するための施設。
通常、訪問者の場合は、警備兵の詰め所や本部へと訪れる。
なので、応接室は関所には用意されていなかった。
そんな部屋の中で待つこと、三十分。
思ったよりも早く、ボーキンという男性はハルナたちの前に現れた。
「お待たせしました。私が、ここの隊長をしております”ボーキン”です」
小柄な体格で、顎髭を生やした男性は丁寧に挨拶をした。
「突然のご訪問、誠に申し訳ございません。私たちは、東の王国からやってまいりました。今回問題となっていたディヴァイド山脈のルートに出現するコボルドについて調査しておりました」
そう切り出したカルディは、これまでの経緯を説明する。
そして、最後に宿の老婆から預かったバッジをテーブルの上に置いてそのことを証明した。
ボーキンはそのバッジを手に取り、刻まれた名前を確認する。
「確かに、このバッジは実兄のものだ。これは世の中に二つとないもの。今のバッジの持ち主は、義姉である。私を紹介したというその話は、嘘ではないようだな……このバッジはこちらで元の持ち主に返却させてもらうが問題ないか?」
一応、今回の捕まえた警備兵を東の国で裁くことを西側の了承を取ることを目的とし、第一の窓口としてボーキンと接触できたので、提案されたルートで返却されることには問題ないと判断し、申し出を了承した。
「それで、できればこの件を承認していただける方をご紹介頂きたいのですが……」
カルディが、次の窓口を確認する。
「分かった。警備隊本部への紹介状を書こう。それをもって向かうといい」
「「ありがとうございます!」」
ハルナとクリエはボーキンに、お礼を伝えた。
その後ハルナたちは、関所を通ることを許可され、近くにある馬車の停留所まで案内された。
そして、一台の馬車に乗ることを支持され四人はそれに従った。
――ガシャン!
四人が乗り込むと、馬車についていた小さな窓は閉じられてしまった。
しかも、内側から窓もドアも開けることが出来ない。
「これって……閉じ込められたんですかねぇ?」
「そうみたいね」
おどおどしながらハルナに問い掛けるクリエ。
明らかに異常を感じ取っている。
何も見えないまま馬車は進んで行き、おおよそ一時間程走ったところでハルナたちの馬車は止まった。
          
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