問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』

山口 犬

2-21 勝てない勝負





三人の前にソフィーネが姿を表す。
ソフィーネはそのままハルナたちを、ドアの前まで連れて行った。


ここは反抗するよりも、この施設の従者に従った方が良いと考えたからだ。




「お前たちだな。今回の王選に関して、企んでいるとの報告がある。我々と一緒に来てもらおうか」



エレーナはハイレインの名前を出そうとしたが、先程の件もあるためここは様子をみようと決めた。




「私もご同行しても?」




ソフィーネが確認する。




「だめです、今回はこの三名だけで話をお伺いする。元諜報部に来られても厄介ですからな……」



執事はそう言って、ソフィーナを拒んだ。




言い終わると執事はハルナたちを廊下に出るように指示し、ハルナたちもそれに従った。


そして、地下のとある部屋に三人ん連れて行かれる。


四角部屋の中の四隅と何もない木のテーブルの上にろうそくが、それぞれ置かれている。
そのテーブルの前にはボロボロの木の椅子が三脚並べられている。
昨日のハイレインと謁見した場所とは全く正反対の場所だった。


冷たい部屋の冷たい椅子の上に座らされて、部屋を数名の従者が囲むように立つ。


そしてテーブルの前にこの中で一番位の高いと思われる従者が腰を下ろし、ハルナたちに問いただす準備が整った。





「……さて、お前たちは自分たちがなぜここにいるのか、思い当たる節はあるかな?」




薄暗い部屋の中でわずかに揺れるろうそくの炎に照らされたその表情は、不気味という言葉以上の雰囲気を醸し出している。




「いいえ、全く思い当たることはありません」




最初に答えたのはエレーナだった。




「……そうか。他の二人はどうだ?」




ハルナもオリーブも、エレーナと同じく否定する。




「あくまでもシラを切るか……」




テーブルの男は、軽くため息をついて首を横に降振る。




「ヤレヤレ。あまり無駄な時間をかけたくないのだが……な」


――カチャ


従者の一人が男の後ろの扉にある鍵を内側からかけた。


ハルナたちの緊張感が一気に上がる。
フウカが出ていこうとするも、ハルナは心の中で必死に止めた。


カルローナがラヴィーネに来たとき知ったのだ。
精霊使いの存在に抵抗がある相手には、契約精霊を見せた場合に攻撃の意思があると取られる可能性があることを。
相手からすれば、剣を抜いたことと同じと取られる。
ここで、迂闊な行動に出れば益々この状況が不利になる。
相手はこういう話し合いの場においては、経験の豊富な貴族たち。
失言や感情的な行動を相手に取らせる狡猾さは、お手の物だ。




三人は必死に頭を働かせる。
どうすれば、このマイナスから始まっている状況をプラス……いや切り抜けることが出来るのかを。
かといって、下手に手を出すと相手を優位にされる可能性もある。
そして、三人の発言の整合性をとり、お互いの足を引っ張り合わない様にもしなければならない。


まずは、エレーナが揺さぶりをかける。



「この件に関しては、王国側やハイレイン様にも話が通っているのでしょうか?」




テーブルの男は、この世で最も不愉快といった表情を見せる。
忌々しそうな目つきで、エレーナに返した。


「……お前たちにそんなことを伝える必要もないし、そんな言葉は望んでいない、こちら側としては。お前たちはただ、余計なことを言わずに正直に話せばいいだけなのだ!」



男は苛立ち、声を荒げながらそう告げた。



しかし、これにより三人は感じ取った。
これには何か別の力が働いていることを。


だが、相手が威圧的なため下手に動くと状況が悪くなってしまう。



(どうすれば……)



三人は、頭をフル回転させる。
ハルナは、一つの案を閃いた。



(ねぇフーちゃん……姿を見られずにソフィーネさんかメイヤさんに助けを呼んでこれる?)



(部屋を通り抜けるのはいいけど、姿は消せないよ?)




(そっか……消せないか)




もしかして、フウカもディグドのように姿を消すことが出来るのではないかと思っていたが、無理だったようだ。
試してみようという気持ちもあるが、もし消えなかった場合はさらにこちらが不利になるのは目に見えている。


頼りにしたいディグドも、何の反応もない。
多分他の候補者も同じような状況であること考えた方が良い。
貴族側が先手を打ってきているという状況なのだろう。


動きは監視をしていたが、ちゃんとした証拠もないためルーシーたちも動けなかったのだ。
そういった状況で、ハルナ達がこの情報戦で敵うはずがない。
王国内においても立場は、向こうが上であることも間違いない。



エレーナがそんなことを頭の中で考えていた時、状況が少し変化する。



「……わかった。ただ話したくないのは良く分かる。話した後に、自分たちの処遇がどうなるか気になるところだろう。なので、こうしないか?」


男は立ち上がり、テーブルの上に置いてあったろうそくの燭台の取っ手を持って三人の前まで進む。
そのろうそくの明かりで一人一人の顔を流しながらこう告げた。




「……お前たちの中で、最初に”正しい”ことを言ったやつの処遇は保証しようじゃないか。王選の候補者のどちらかが、話してくれればそのまま王選は継続させてやる。もう一人はもちろん、罪を受けることになるため候補者からは外れるがな。候補者じゃないやつが話せば、王選に残れるやつを決めさせてやる。自分が応援する方を選んでいいぞ!……どうだ?」


仲間割れを狙った作戦であることは、三人がすぐに理解できた。
正しくもないことを選択させる、そのこと自体が不正であり脅迫なのだ。



しかし、ハルナ達にこの選択肢以外の答えを返すだけの根拠がないのも確かだ。




「……どうだ?百数えるうちに答えろ。出なければ、全員ここから出られない様にしてやる」




ハルナ達は顔を見合わせるも、言葉はでない。
全て周りに聞かれているから。




「五十、四十九……」




エレーナはいざとなれば、ここの全員を倒すつもりでいた。
ハルナ達もエレーナの目つきでそのことが伝わってくる。

だが、オリーブの目は、必死に”それはダメだ”と訴える。



「どうした……十一、十、九……」




カウントダウンの声が響いていく。










――カチャ



外からカギを開ける音が聞こえた。
従者は一斉にその方向に目を向けた。




          

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