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山口 犬

幕間6 【エレーナとアルベルト、ときどきハルナ】





『――あの人間どもの臭いに覚えのあるモノはいるか?』




群れの中からは、何も反応がない。



「ということは、同一メンバーの仕業ではないみたいね」



とはいえ、完全にギガスベアを狙った襲撃であることは間違いない。




「このまま、引き下がってくれるといいんだがな……」


「とにかく、もう少し様子を見ましょうよ。時間はまだあるんだし」


「そうね、帰ったらお母様にも相談してみるわ」


『申し訳ない……我らのために……精霊様とその契約者様に感謝します!』




ギガスベア達は、一斉にお辞儀をする。
その仕草がとてもかわいく見え、ハルナ不謹慎にも顔がニヤケそうになるが我慢した。

明日もまた、今日と同じ行動をとることとし、本日は解散した。



群れは一旦、今日のねぐらへ移動した。
今日襲われた場所もその一つだが、外敵を警戒するために何箇所かローテーションしているとのことだった。
何かあれば母熊が近くにいるので知らせてくれるとのことだ。
火は相変わらず怖いようだが、なるべく近くまで来てくれるようになった。




食事も終わり、子熊と少しだけ戯れ合い、明日に向け早めに眠ることにした。





そこから数時間経った。
テントから少し離れたところに、木々の間から人影が現れる。


「オイ、あんなところに焚火が……」


「なんだ?あれ……」


「アレ見ろよ!テントの近くに獲物がいるぜ!」


「1、2、3、4……と。大きいの一頭と小さいのが三頭だ」


「小さいのでもいいんだっけか?」


「依頼は特に大きさは指定されてねーしな……」


「テントの奴ら平気なのか?もしかして、もう……」


「だとしたら、俺たちは襲われた熊を退治した“英雄”ってことになるなぁ」


「なら、行かない手はないな!」





リーダーたる男は自慢のロングボウに矢をかけ、弦を引いて狙いを大きな方へ定める。
周囲を見ると、飛び込んでいく準備は完了しており、矢を放つタイミングを待つだけだった。



(当たってくれよ……)



――シュッ……ドス


獲物に当たる音がした。
悲痛な叫び声が周囲に響き渡る。

母熊は痛みで目を覚まし、子熊を逃がそうとした。
しかし、その方向には既に剣とラウンドシールドを持つ男が待ち構えていた。

母熊はラージシールドを持つ男の前に立ちはだかる。



『なぜ、あなた達は無用な殺生をするのですか!?』



しかし、男達にはその言葉は届かない。



「やっとだぜ。獲物……頂きだ!」

「おい、テントの中も金目のものがないか見とけよ!」




リーダーは、残りの二人の男に指示を出す。

指示された男は、テントの中を恐る恐る覗く。
中は悲惨な状況なんだろうな……と推測しながら。


と、同時に男の身体はテントから吹き飛ぶ。




「お前ら……」




ロングソードを背中に携えた男が、テントの出入り口に手をかけて出てきた。
吹き飛ばされなかった男が、その姿を見て取り繕うように声をかけた。




「な、なんだ……無事だったのかよ。俺たちは近くにギガスベアがいたのが見えたから助けにきたのさ」


「それで……そのギガスベアは、何かしてたのか?」




アルベルトは、その男に問いかけるが返事はない。




「……わかった。報酬は人数との割合で分配する……ってのはどうだ?」





リーダーはアルベルトが同業者と勘違いし、獲物を奪ってしまったのかと思い提案を持ちかける。
こちらは五人、アルベルトは一人なので1/6を払うだけで良い思っていた。



「悪くはないけど、あなた達にそのお金が手に入ることは無いわ」



エレーナが姿を見せる。




「なんだ、もう一人いたのかよ。……わかった。取り分は後で話し合うとして、まずはこっちを手伝ってもらえないかなぁ?」



リーダーはゲスな笑顔で、エレーナに話しかける。



(約束なんてしてなかった……これで押し切ってやるさ!)



心の声が顔の表情に現れている。




「ほんと……絵に描いたような愚か者ね」



――なにを!?



そう口にしようとした途端、上半身と足が縛られた。
男はバランスが保てなくなり、地面に倒れる。


不利と感じた子熊を狙っていた男が、盾を前に構えアルベルトに向かって剣を振り上げて襲いかかる。

剣は囮で、盾で相手を吹き飛ばし、体勢が崩れたところ切る。


この男のいつもの戦法だったようだ。
確かに瞬発力はあった。

だが、いつまでもアルベルトを弾き飛ばす感覚は伝わってこない。




――グワッ!



逆に自身の身体に痛みが走る。
アルベルトは、ロングソードの腹で相手を横から叩き付けた。
男の横にくの字に曲がり、叩き飛ばされた。

アルベルトは長剣を正面に構え直し、ロングシールドの男と対峙する。



(こりゃ……分が悪いな。俺だけでも逃げるとするか)



その男は、平気で仲間を裏切ろうとする。
この者たちは、数日前に集まった寄せ集めのパーティだった。

そこまで、義理がある訳でもない。所詮は儲かる話に乗っただけだった。


フルプレートアーマーで防御は自信があるし、逃げ足だってそんなに遅くはない。しかも、攻撃力もそこそこあるので逃げる分には問題がない。



――左手に茂み



自分の逃走経路を見定める。
盾の男は、気付かれないように反対の手で逃走用に持たされた袋を持つ。




「……じゃあな」




男はそう呟くと、手にした袋を地面に叩きつけた。
袋はバラけ、そこから粉が舞い上がる。



(よし!)



男は粉がこの一帯に充満するのをみて、茂みの中へ飛び込もうとする。

すると



――ブワッ!



一帯に突風が巻き起こる。
風は粉を上空に舞い上がらせる。

男の姿も、丸見えとなった。



――チッ!



少し距離が空いているが、飛び込むことにより茂みに隠れることができると判断した。

男は地面を蹴って、水平に茂みに向かって飛び込んだ。



――ガギーン!



茂みの手前に氷の壁が現れる。
男は自分で壁に向かって飛び込んだ形となり、そのまま地面に倒れ込んで動かない。




「ほんとバカね……逃げれる訳ないじゃない」




エレーナは、脳震盪を起こしている男を憐れな眼差しでみる。


一応ハルナは可能性として、この男たちに【黒いもの】が見えないか聞いてみた。
フウカの答えは、ないとのことだった。




「さて、お前たちは何者なんだ?」




アルベルトは残った一人に問いかける。




「ま、待て……待ってください!何でも話しますから!?」



その言葉を聞くと、アルベルトは手元で遊んでいたナイフを仕舞う。

テントからロープを取り出し、身体の自由を奪う程度に手首と足首を縛っていく。







「……それでは抜きますよ」



母熊は、頷いて歯をくいしばる。




――!!



矢は抜けた。すかさず、その場所に薬をかける。


この世界ではゲームのようなポーションはない。
消毒液や生理食塩水のようなモノをかけているだけだった。
とりあえず、傷口が化膿しないための処置だった。

母熊は、身体を動かし問題なく動かすことができるのを確認した。
子熊たちは、傷口を舐めようとするが消毒液が付いていることと傷口を化膿させないために止めるように聞かせた。



気絶していた者たちは、全員意識を取り戻し手足の自由が奪われ武器という武器がなくなっていることに気付く。
盾役に於いてはフルプレートアーマーだったため、ほぼ下着の状態となった。

当然、引っ剥がしたのはアルベルトだ。



リーダー格の男は届く範囲に目をやると、ギガスベアに囲まれていることに気付く。
その殺気は、今にも腹わたを食い千切ろうというものだった。
その後ろには、アルベルト達が睨みを効かせる。

男たちは、死を覚悟する。




『――ようやく目が覚めたか、愚か者どもよ』




リーダーは目が落ちそうなくらいに見開く。
昼間に出会った、ギガスベアの群れの長だ。




「な、なんで獣が人の言葉を話してるんだよ!?」




その言葉に長の隣にいた、一頭が吠えて威嚇する。



『オロカナニンゲンヨ……マダコノジョウキョウガ  ミエテナイヨウダナ!』


『……よい、下がれ』




長の顔を見て一礼し、元の位置に下がる。



『改めて、問おう。お前たちの目的は?』



「……そ、それは」



借金をしている男から仕事の依頼があり、ギガスベアの心臓を持ち帰ればその数に応じて高値で買い取ると持ち掛けられた。

やはりギガスベアの心臓は、良い薬という評判だった。
だが、本当に効果があるかは不明なのだ。
これだけ、人気があるのは”手に入りづらい”という、錯覚からきているに過ぎなかった。




ただ、このことを罪として裁けるかというえば難しい。
ギガスベアは危険な生き物として、広く認識されている。
それを討伐したとなれば、逆に誇れることになる。



『これが、人と獣の差か……』




「ごめんなさい……長の言うことはわかりますが、今は何もできないのです」


確かに人を襲った個体もいただろう。
それは今回のように、人間側に非があるかはわからない。

しかし、被害は人間側の立場を基準に考えられる。
特に意思の疎通ができない野獣など、考慮されるはずもない。



これに関しては、エレーナは国に報告をし何か対策が取れることはないか話してみると長に約束した。



翌日、連絡用の発煙筒で警備隊に連絡し男たちを連行してもらい、この件に関しては一つの区切りをつけた。


ハルナ達には、とてもやりきれない気持ちが残った。



          

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