ゴーストイントゥーザベース

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ゴーストイントゥーザベース(第一話「プロローグ」)

あれは十数年前の夏のことだったであろうか。甲子園の夏の日のことだった。
 元々この試合は前日にやる予定だったが、雨により試合が始まる前に中止になってしまっていた。この試合は頂点を決める戦い。
言わなくてもわかるが甲子園大会決勝戦である。この対戦校を紹介しよう。
一塁側は甲子園大会三連覇を目指すちょっとオカルティックで強豪校になりつつあった
鬼襲幽霊高校(きしゅうゆうれいこうこう)。
対する三塁側は勝てば初出場で初優勝の快挙を達成しそうになっているというなんとも王道的勝ちフラグを立てつつあった太陽山高校(たいようさんこうこう)。
そして投手は、鬼襲幽霊高校がこの大会ノーヒットノーラン、全試合完封勝利を収めている(恐らく)史上最強のフル出場先発投手の
舟山 助(ふなやま たす)。
190 km/hのストレート、画面外まで曲がる
カーブ、暴投かと思ったらドえらく曲がって
相手のミゾギリギリに決まるスライダー、
良質なナックル、曲がりすぎて満月を描いてしまっているスクリュー、ストレートより速すぎてビデオを見ないとしないと判定できないシュート、さらに全ての変化球にノビとキレを持っているため、バントしようが何しようがまともに当たらない。言ってしまえば
チート投手である。そして対する太陽山の投手は九条 真(くじょう まこと)。この大会一試合につき1000以上投げており、先発と抑えを行き来しながらフル出場でここまできた。実はまだ高2だったりする。驚異的なスタミナの持ち主だが、三振がなかなかとれないことから前述どおり1000以上投げている。
なお、一度も怪我をしたことがない。そして忘れてはならない両チームのスタメン紹介。
鬼襲幽霊高校のスタメンは一番投手の主将舟山 助、二番ファーストのスイッチヒッターでアメリカから来た球児「ラテ・オレ」、三番セカンドの舟山の恋人「西藤 陰」(さいとう いん)、四番キャッチャーで唯一の2年スタメン出場。通称カズ、
五番センターで(自称)バントゴット「岩井 央一」(いわい おういち)、六番ショートのムードメーカー「破戸々 楽」(はどど らく)、
七番レフトの下位打線の主砲「園 帝」(えん てい)、八番サードの潔癖性「座敷 乾太」(ざしき かんた)、九番ライトの鉄人「数寄屋 〆丸」(すきや しめまる)。そして太陽山のスタメンは一番ファーストの安打製造機
「島 四々郎」(しま ししろう)、
二番セカンドのパワーヒッター
「栄々 仁助」(さかさか じんすけ)、
三番サードの人気者
「木野原 小兵」(きのはら しょうへい)、
四番ショートのラッキーボーイ
「林 天吉」(はやし てんきち)、
五番ピッチャー九条、
六番キャッチャーで「暴れ馬」の異名を持つ
「厩出 空助」(うまやだし くうすけ)、
七番センターでノーエラーマン
「藤波 守郎」(ふじなみ しゅろう)、
八番ライトで一年生の
「炎神 号音」(えんじん ごうおん)、
九番レフトで九条が目立ちすぎて存在が皆無になりつつある主将、
「猪口 器」(ちょく うつわ)。
なお、両チームの監督およびベンチ選手、そしてアンパイア(審判)は尺の都合で省略する。前日と違いこの日は干からびてしまうほど太陽の日光強かった。魚の干物もほんの数分ほどで作れるほどであった。あと、すごくカサつく。そして審判が「プレイ!」と叫ぶと甲子園のアラームがウゥゥゥゥゥと球場に鳴り響いた。先攻は太陽山、一番島は積極的に振っていくが、
舟山カズの鬼畜バッテリーに内角真ん中スライダー、外角高めのナックル、そして3球目の外角低めのストレートで見逃し三振で島が落とされた。続く二番栄々を外角高めのストレートでセカンドゴロ、一塁送球アウトを取り、さらに三番木野原をファーストフライにしてラテがしっかり捕球しスリーアウト、
三者凡退に抑えた。そして一回の裏、鬼襲幽霊高校の攻撃。舟山がバッターボックスに入った途端、「お待たせぇぇぇぇぇ!」とスタンドから大声で歓声を上げ始めた。「お待たせコール」である。舟山の存在は彼が高校一年の時から全国で知られていた。一年生の時は150km/hの「スローボール」で全試合完封に抑え甲子園優勝。2年生の時は「打たれて捕る戦法」で平均完封球数27球でまた甲子園優勝。この数行の時点で人間離れした記録を持ってるということもあり絶大な人気を誇っていたのだ。そしてこんなことを説明している間に九条が投げた内角低めギリギリの厳しいカーブを完璧にとらえレフト方向のホームランを放った。これまでも甲子園で名門校が鬼襲に一点も取れず堕とされることから「名門キラー」だの「甲子園の黒い悪魔」だの色々言われてきた。「今年も優勝するだろう。」誰もがそう確信した。しかし、ここから誰も予想できなかった異変が場狂わせに起きる。舟山に続いた三打者のラテ、西藤、カズが凡フライに抑えられたのだ。今までは舟山が本塁打を打った後、そこから全員続いて悲劇怪劇と打線が続いて、見てるこちらがつらいくらい打ってかかる。そんな安打製造機の化け物打線をこの九条真は名誉挽回と言わんばかりに抑えてみせたのだ。その後も両チーム三者凡退が続き、ついに三回の裏、その日唯一ホームランを打っている舟山もレフトフライに抑えられてしまった。鬼襲の一方的な試合になると思われたが、まさかこんなに点が入らない試合になろうなど誰も思わなかっただろう。しかし鬼襲も苦的状況にもあるが辛くも1点を取っている、やはり鬼襲が三連覇を達成するのか。球場に緊張が流れる。それでも両チーム油断するわけもなく、ついに9回表まできた。だがまたしても異変が起きる。舟山が太陽山の七番藤波に四球を与えたのだ。今大会一点も、ましてや走者を置いたこともない鬼襲の舟山が、ランナーを持つことになってしまったのだ。「この試合は何かおかしい」、そう誰しもが悟った。その後も八番炎神をデットボールで出塁させてしまい、さらに九番主将の猪口にセンター前に打たれヒット、そして一番の島が今、左バッターボックスに入ろうとしていた。今まで追い込まれたことがなかった舟山にとっては恐怖そのものであり、武者震いものだった。しかし舟山負けじとオーバースロウで渾身のストレートを投げた!その球は確かに彼のマックス球速である190 km/hだった。それをバッターの島は全力のフルスイングで打ち返した!打った打球は左にも右にも飛んでいかず、舟山の腹部に直撃した。あまりの威力に舟山の体は悲鳴をあげるように空中を舞った。そしてセカンド前に転がった球を二塁手の西藤が補給して、走ってきた一塁ランナーをタッチしてワンアウト、そして急いで一塁へ送球し、走ってきたバッターランナーを堕としてゲッツーにしたが、二塁にいた炎神は三塁へ、三塁にいた藤波はホームに行き帰還した。これにより太陽山に一点が入り1ー1の同点となった。球場はどよめき始めた「ついに強豪の鬼襲が堕とされるのか…?」色んな意味で不安と期待がグッと高っまてきた。その頃マウンドで投げていた舟山が痛みによりもがき苦しんで叫んでいる。鬼襲の監督もベンチからマウンドに上がり「タイム!タイム!」と球審に呼びかけた。舟山の恋人である西藤は舟山を抱いてあまりのショックで声を上げて泣きだしてしまった。このあと舟山はすぐさま救急搬送され、病院へ運ばれていった。後にわかったことだが、アバラ骨5本折れながら軽傷ですんだらしく、彼の選手生命に別状はなかったそうだ。話を戻すがこうなると投手の問題となるが無論心配はなかった。ただでさえ強かった舟山だが、ここで鬼襲は「中継ぎ」を使うには申し分ない選手を、控えから登板させてきた。光 龍亜(ひかり りゅうあ)だ。流石の舟山には変化球は負けるが、練習試合にて
195km/hをたたきだしていた。とはいえさっきのような事態がこの試合でまた起きると、
鬼襲にはあとがない。なにせもうベンチ選手には登板した光も含め、あと4人しかいないのだ。毎年、誰一人欠けず頂点までくる鬼襲
だが、お約束と言わんばかりに部員には恵まれず、この年の鬼襲は三年八人、ニ年四人、
一年に至っては一人という非常にギリギリの人数で毎年ここまできてはこの2年間優勝している。周りからは「この校歌聴き飽きた」なんて言われる始末である。やはり名門校といえば、「部員がたくさん居て切磋琢磨と
スタメン争いをする」といったイメージが普通だが、この高校にはそういうものが一切なかった。まだまだ説明補足を言いたいところですが、あとは別の回にて説明します。
話をもう一回まとめると、回は9、二死三塁(ツーアウトさんるい)。先攻の太陽山が送りだしたバッターは二番栄々、後攻の鬼襲の投手は左腕光、そして捕手のカズの同世代タッグでハイテンポで投げて3球直球三振に堕とした。スリーアウトで9回裏となった。鬼襲としてはこの回で決めたい所だ。この回の先頭バッターは座敷だったが、ここで鬼襲の監督がマウンドに出てきて審判に何か話しかけた。座敷がでてこないので、どうやら代打指名のようだ。すると球場一帯がどよめき始めた。問題は代打者のその格好である。
鬼襲のユニフォームは帽子が黒く、くねった赤いラインが左右一本ずつ描かれている。
服には三本の線があり、真ん中が真っ直ぐで残り二本は左右逆らうように一本ずつあり、
袖にかけても赤いラインが伸びていた。靴は人によって異なるため、基本黒一色だった。
そして肝心の代打で登場したこの選手は頭に茶色く少しボロい大きめのソフト帽、首に黄色いマフラー、そして茶色いマントで体覆っていた為、正確な体格は把握できなかったが、身長からして細めであることは想像できた。バットは鉄製で金メッキで施されていた。そして代打者が打席に立った。左バッターのようだ。そして九条はこれといって何も考えず直球を真ん中低めに投げたが、その球を代打者はなんとバント威力を殺して球を転がし走ったのだ。三塁線をギリギリ転がったところで線を超えた為、ファウルとなった。
ノーランナー(塁に誰ぇもいない状態)でバントして走るということは、「自分は足が速いんです」と言っているようなものだが、彼の走りを見ている限り、間に合いそうは見えなかった。やはり「ただの代打」だったのか。
そして九条が外角高めにカーブを投げて、これを代打は見送りストライク判定となった。
このままアウトになるのか、無駄な指名だったのか。誰しもが「三振」の二文字が頭をよぎった。だがまた異変が起きた。しかしこれは両チームの得損有無がつかない怪奇現象だった。何故か急に空が薄く暗くなったのだ。
雲は一つもない。快晴と言ってもいいくらい
だった。それでも雲がかかったかのように、
薄く暗かった。しかもまだ午後の3時である。夏にしてはあまりに暗い時間だった。
それよりも驚いたのは、空が少しずつ暗くなってきたと共に、代打選手のバットが金色に光始めたではないか。誰もが我が目を疑った。自分の頭が茹で上がったんじゃないかと自然に疑った。しかし、これは現実である。
「バットが金色に光る現実」である。
ピッチャーの九条も一瞬疑ったが、すぐに我に返って直球を投げた。代打がその球を打った。弾道は高かった。しかしセンター方向に飛んでいった所で一瞬消えてしまった。
そして火が灯つように再びフッと現れ、矢のような線と化し、どこかに大きな音が響いた。ふと音のなった所に目を持っていくと、
球がバックスクリーンのど真ん中直撃し、
貫通して小さな風穴ができていたのだ。
「ホームラァァァァァァン!?」、疑問形で
歓声が上がった。代打が塁を周って本塁へ戻って来た所を鬼襲ナインは戸惑いながらも迎え入れようと囲もうとしたが、ホームベースを踏んだ瞬間、消えてしまった。
ホームランを打たれた九条はまさか自分が打たれるとは思わなかったのか、正座の体制でひざまずいてしまった。その目は憂鬱だった。一方代打が急に消えてしまい、やっぱり戸惑った鬼襲ナインだったが、とりあえず喜ばない訳にはいかなかいので、この後4~5分ほど部員全員でワチャワチャと本塁で跳ねた後、両チーム集合してゲームセットとなった。激闘と言っちゃ激闘だったが、あまりの早送り展開で結構味気の無い展開のように思えるがそうでもない。文で何個かまとめてみると、
「九条の覚醒」
「鬼襲打線絶不調」
「ピッチャー舟山、散る。」
「太陽山打線の一種の希望」
「バックスクリーン貫通ホームラン」
こう並べてみると意外と強いドラマが多かった。例のサヨナラ代打ソロホームランは夢だったという人もいる。だがこういう大会の試合模様は大体テレビや携帯なんかで録画されているから、確認できる。そして何よりもあの代打がバックスクリーンに開けた風穴が、
しっかりと残っているのだ。
やっぱりこう、優勝したらパーッと校歌を
歌うのがお約束だが、何故か今年は歌わなかった。野球協会の関係者によれば、「三連覇を達成した鬼襲に対して根拠のない苦情が殺到して、余りにも気味が悪いから中止になった。」という。しかし校歌のかわりになるようなことでも思いついたのか、鬼襲の部員全員出てきた。その中に上半身裸で、腹部に包帯を巻いた少年がいた。それは数々の快挙を成し遂げた鬼襲の主将、舟山 助の姿だった。病院が意外と近く、怪我も軽く済んだことから、駆け足で戻ってきたと、後に本人が語っていた。だがあの代打の姿はなかった。
そして部員全員がピッチャーマウンドに出てきた所で、舟山が中央に立ち、それ以外は
肩を並べ円陣を組んだ、すると舟山が声を張って、「鬼襲10連覇、行くぞぉ!」と甲高く
声を張ると、部員たちが続け様に「おぉ!」
と鼓舞した。…本日はここまでにしよう、
そしてここから残された2年4人、1年1人が
弱小のような人数で来年の甲子園を目指すわけだが、本当にしでかしそうで心配である。
巨人ジャイアンツが無理だったV10をあと7回
、県大会も突破することを考えると、
彼等なら本当に出来そうだ。何せ「王道フラグ?なにそれ美味しいの?」と言わんばかりに名門校をコールドゲームという惨劇を見せつける高校なので、一筋縄ではいかないような存在になるだろう。去年も今年に近い部員数で頑張って素人を集めて優勝したわけだから、今年もそうなると筆者は予想している。
これは三連覇を達成してまぁた甲子園で
暴れることになるであろう鬼襲幽霊高校の、
ちょっとオカルティックな日常を描いた物語だが、生暖かい目で読んでくれたら、
幸いです。




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