あなたが好きでもいいですか

文戸玲

花火

 
 憑き物が落ちたかのように美月は私の顔を見つめていた。その顔を見ると,やはりさっきの言葉は冗談ではないということが伝わってくる。そして私は,その問いに答えなければならない。「私のことをどう思う?」という美月の綺麗な唇から発せられた残酷な問いかけが頭の中でぐるぐると渦巻いている。考えれば考えるほど自分の中での答えが分からなくなる。自分が何を考えているのか。自分は美月との関係において何を求めているのか。酔ったように気分が悪い。
 いつまで経っても言葉が口を突いて出てこない。なにを言ったらよいのか分からない。私自身,何を思っているのかが分からない。こんな感覚は久しぶりだった。菜々美も,今度はじっと私がどんな言葉を返すのかを辛抱して待っている。これは,私が答えるべき問題なのだ。
 しびれを切らしたの,今度は目を細めて美月が口を開いた。その目は優しそうに見えて,私の心の奥底の,自分でも知らないところを見詰めているように不気味なものだった。

「茜は,私と同じだと思うんだ。今は自分でなんとも思っていないっていうか,ただ気付いていないだけ。菜々美に体を触られているとき,どんな気持ちだった? 女子更衣室でどんなことを考えていたの? 私と菜々美がバドミントンをしていた時,なにを見ていたの? 私の部屋で私が襲いかかった時,本当に嫌だったの? 思い返してみて。そして,本気で考えてみて」

 一息に美月が言い切った言葉を聞いた後,私の頭の中は火花が散った。美月は知っている。菜々美が私の胸をむさぼった時に妙な高揚感があったこと,菜々美と美月がバドミントンをしていた時に揺れる乳房を見詰めていたこと,座った時のズボンの裾や手を挙げた時の腕と服の隙間に視界が吸い込まれるように焦点が定まっていたこと。後ろめたさを感じていたのにも関わらず,私はそんな自分を抑えることが出来なかった。
 菜々美も,目を見開いて私の顔を見ている。きっと,美月が言いたかったことを捉えているだろう。少しずつ,私は私が何であるのかを掴みかけている気がした。本当の自分に近づいている。いや,すでに存在していた自分の奥深くに隠れていたものが掘り起こされているようだった。今まで開いたことのないような,開けてはならないパンドラの箱に手をかけてしまった感覚に包まれた。

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