あなたが好きでもいいですか

文戸玲

涙~美月side~

「今日学校で友達が言っていたこと。びっくりさせてごめんね。間違いのないように言うと・・・・・・,半分は嘘で,半分はほんとのこと。トイレでやったって言っていたこととか,盗撮していたとか,あれは全部嘘。でたらめ。・・・・・・だけど,女の子が好きだとか言っていたのは事実。自分でもよく分からなくて,上手く言葉にする自信がないんだけど・・・・・・,男の子をかっこいいって思うんだけど,・・・・・・女の子も恋愛対象として見ちゃっているって感じ。最初はその気持ちがどういうことが分からなかったし,ほら,手をつないで歩いている女の子たちがいるじゃない? ああいうのを見て,羨ましいなって思っているだけだったの。でも,いつの日か,自分の身体が恥ずかしくなって,しかも・・・・・・ほかの女の子の身体はどうなっているんだろうってすごく気になるようになったの。それって,気持ち悪いことだよね。周りからなんだか煙たがられたり,面白がられているのも納得が出来た。それでも,私はそんな自分を受け入れることにしたの。だって,自分らしく生きたいって思ったから。でも,やっぱり気になるのはお父さんとお母さんのこと。きっと,二人とも私がそんな感覚を持つことを嬉しくは思わないだろうし,認めてくれないと思う。でも・・・・・・,もうどうしようもないの。だって,私の中に根付いてこの感覚が離れないの」

 詰まりながらも,全てを話しきった。二人の顔を直視するのが怖くて,下を向いたまま嗚咽が漏れた。自分の中にたまっていたものを出し切って,頬を伝った涙が乾くころになると,気分はずいぶんと楽になった。私は何にでもなれるのではないかと思えた。
 それでも,やっぱり両親の反応は怖かった。
 もう,お母さんのあの顔は見たくない。廊下で感情的になって詰め寄る顔がよぎる。そしてその後に私の方を振り向いたあの目。怒っている顔よりも,悲しい顔を向けれる方が辛いなんて知らなかった。
 私が話している間,背中をさするでもなく,続きを促すでもなくリアクション一つ取らずに黙って聞いていたお母さん。どんな気持ちなのだろうと恐る恐る顔を除くと,意外なことにあっけらかんとしていた。
 お父さんも,もしかしたら事前にお母さんから連絡が入っていたからかもしれないが,特に動揺した様子もなく,私の顔を何を言うでもなくじっとしている。

「美月はむかしから,男勝りなところもあったからねえ。恋愛の相手なんて正しいも何もないの。好きになった人が好きな相手。私は誰だって応援しているけど,恋人が出来たら家に連れておいでよね」

 微笑みながらお母さんが言った。口元を抑えた手の先は少しだけ節くれだっている。手があれやすいのに,毎日水仕事をしてくれている手だ。

「何を聞いたって,人の生き方は自由だ。お父さんもいろんな人を知っている。だけど,そうはいっても学校は閉鎖的なところだからなあ。少数派は苦労するんだ。どうだ。美月が良いなら,転校を考えるのも一つだぞ?」

 特に大ごとな雰囲気は出さないが,置かれた状況を共感的に受け入れて具体的な解決策を出してくれる。昔,お父さんの職場の人が家に来た時にこっそりと,「お父さんは職場ですごく頼られている。頭の回転が速くて決断力があるということもあるけれど,それ以上に心があったかいからなんだよ」とこっそり言われたことを思い出した。その意味が分かった気がする。
 ただ,話の展開はなんだか唐突で,答えを急ぎすぎている気がしたけど,その時はどう返事をしたらよいのか本当に分からなかった。何が正解か分からなかった。強がりたい自分もいたし,お父さんの言葉を聞いてほっとした自分もいた。
 答えに困ってお母さんの顔を見ると,頬に一筋の涙が流れたのが見えた。きっと強がっていたんだ。そう思った。

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