神様、ごめんね

ロヒサマ

第二十一話【初デートとの出会い】

 その後は激動の一週間のような事はあまり起きなかった。いつも通り学校へ行き、勉強会に参加する。バイトを減らして勉学に勤しむ高校ライフだ。
 夏過ぎには健二は推薦入学が決まり、遊びほうけていた。その間はもちろん、山下と田中とは仲良くなり、たまに映画を観に行ったり、海にも行ったりした。普通に仲の良い三人組になっていた。そんな中でも、ちょくちょくトラブル(主に山下のアピールタイムだが)があったけど、毎度笑い話にしていけた。
 秋になるとクラスの雰囲気は受験環境に少しピリピリし出したが、それは仕方ない。俺は田中の勉強会のおかげで、志望校は安定圏に入り、余裕を持って勉強する事が出来た。

 そして冬が来た。最近は雪も見かけなくなったが、吐く息は白くなり、手足は冷たく暖房の有難さが身に染みる。そんな季節の十二月。あの日の夜は一生忘れられない、大きな転機となった。

「よし、強志も受験大丈夫そうだし。折角だからイヴの日遊びに行こうぜ」
 健二はノリノリだった。遊びに声をかけてくれたのは勉強に余裕が出てしばらくしてからだった。世間はクリスマスシーズン。街は電飾ばかりで、昼も夜も境がない。駅前にはイチャつくカップルに溢れている。
「クリスマスイヴに男二人って、寂しいな」
「違うよ、四人だ。あの二人も誘おうぜ」
「田中と山下か?」
「そう。お前最近仲良いじゃん。頼んでみてよ」
 俺は早速メッセージを送った。すると二人からすぐに連絡が返ってきた。

 山下からの返事はこうだ。
『良いけど、それって美徳実にも行ったのよね。せっかくクリスマス二人きりであんたとデートしようと思ってたんだけど、まぁしょうがないわ』
 田中からはこう返ってきた。
『実は私、クリスマスイヴの前日に、家族でおばあちゃんの家に行くんです。帰ってくるのは翌日の夕方くらいだから、途中からなら参加出来ます!』
「だってさ。だから夜から皆んなでご飯食べようか」
「いやぁ、せっかくだから昼頃からどこか行こうぜ」
「どこにする?」
「とりあえず渋谷かな。ま、それはまたみんなで決めよう」

 時は経ち、クリスマスイヴ当日。俺は予定より少し早く待ち合わせ場所にいた。真昼間の渋谷は、人で溢れかえり、人一人探すのは困難を極める。どこもかしこもカップルだらけだ。流れる交差点の景色をぼんやり眺めていると、ブルルっとポケットが震える。そうだバイブモードにしてたんだ。電話を取ると、鼻声の健二の声が聞こえた。
『悪い、高熱出た。今日行けそうにないわ』
「マジかよ。大丈夫か?」
『まぁシンドイけどただの風邪だから大丈夫だ。無理に行って移したら悪いからさ。まぁ俺の分も楽しんでくれ』
「そうか。ゆっくり休めな」
 電話を切ると、画面に沢山の通知が来ていた。山下からだ。
『今日もしかしたら行けないかも。何か熱あるみたい』
『高熱で倒れた。無理っぽい』
『メッセージ見てよ』
『おーい』
『よーなーかーくーん』
 お前もか。というかLIMEでも元気だな。本当に熱がえるのかと疑ってしまう。
「健二も来れないって。これじゃ今日の企画はなしだな」
『マジで? でもダメよ、そこにいて』
「何でだよ。田中には俺から説明しておく」
『その美徳実が凄い楽しみにしてたのよ。あの子こういうのあまり乗り気しない性格なのに。あれから毎日ワクワクしてたのよ。ちゃんと行ってあげて』
 山下は結局友達思いだ。良い奴だと言う事はここ何ヶ月かで肌で感じていた。

「先輩? 谷中先輩?」
「え」
 顔を上げると田中が目の前に立っていた。山下とのメッセージに夢中になっていて、気付かなかった。
「あれ? 夜になるって言ってなかったっけ?」
「飛行機が早いの取れたので、さっき帰って来たんです。とりあえずそのまま来ちゃいました」
 こうなったら仕方ない。俺は『分かった。ゆっくり休んでくれ』と返信して、スマホをしまった。
「実はさ、健二も山下も熱出して来れなくなったんだ」
「え、大変! お見舞い行かなきゃ」
「俺も最初はそう思ったんだけどさ、移るかもしれないからって」
「そうですよね。とりあえず私一美ちゃんに連絡してみます」
 田中は山下に電話をする。えー、とか、そんなー、とか言っているが、電話を終えるとニコっと笑う。
「お見舞いは来ないでって言われちゃいました。あと、二人で楽しんで来なさいって」
 何を言われたのだろう。ちょっと覚悟を決めた様に見えた。そうして今日は、二人で遊ぶ事になった。

「とりあえずどっか行こうか」
 二人してブラブラと歩いていく。周りは手を繋いだカップルばかりだ。みんなデートを楽しんでる。ん、待て、これも周りから見たらしっかりデートじゃないか。そういえば二人きりで遊ぶのはこれが初めてだ。どうしよう。意識してしまう。急にドキドキしてきた。何か話題を、と思ってると田中が口を開く。
「なんだか、デートみたいで照れますね」
 マフラーに隠れた口元から、白い息と共に可愛さが溢れる。その唇は少しピンク色に染まり、なんだかいつもより大人っぽく感じた。
「もしかして、化粧してる?」
「あは、気付いてくれました? 今日はちょっと挑戦してみようと思って。変、ですか?」
「いや、変じゃない。その、可愛いよ」
 正直な気持ちだった。マフラーに顔を埋めて照れる姿も相まって、いつもより数段綺麗に見えた。
「あ! あれ美味しそうじゃないですか? 期間限定って書いてありますよ」
「お、クレープ。良いね。じゃあ俺はチョコバナナを一つで。田中は?」
「じゃあ私は、イチゴホイップキャラメルで、チョコシロップを」
「めっちゃ甘党だな」
「今日は特別ですから」
 嬉しそうにクレープを食べる彼女は、しっかり高校生をしているな、と思った。もし付き合ったら、こんな感じで毎日楽しいのかな。なんてじっと見つめていると、田中がこちらの視線に気付く。
「その、はい。どうぞ」
 田中は両手でクレープを俺の口まで持ってきた。頬が赤く見えるのは化粧のせいだろうか。
「ずっと見てたから食べたいのかなって」
 勢いに押され、一口食べる。それはそれは、とても甘いものだった。

 俺たちはその後も、服を見たり、カフェに入ったり、思いつくままに遊んだ。最初の緊張も忘れ、ただただ楽しんだ。田中は良く人にぶつかる。何度手を掴んで回避したろうか。その度に触れる温度は、徐々に高くなっていく。そしていつの間にか、俺達は夕暮れを歩いていた。
「暗くなってきたな。今日は凄い楽しかった。そろそろ帰るか」
「そうですね。私も凄く楽しかったです。あ、じゃぁ最後にあれやりましょう!」
 俺の袖を引っ張り彼女が指差したのは、ゲームセンターだった。田中について行くと、プリクラの機会があった。
「ここ、覚えてますか?」
「これって、あの時の」
 俺はあの時の事を思い返した。八ヶ月前、ここに来なかったら、田中とこうしてデートする事もなかった。全てはここから始まったんだ。
「はい。私達が初めて出会った場所です。あそこで先輩が生徒手帳を落とさなかったら、こんなに仲良くなる事、なかったかも知れませんね」
「あぁ、確かにな。もう半年以上経つんだな」
「さ、行きましょう」
「え、二人で撮るのか?!」
「せっかくだし、記念になるかなって。迷惑でしたか?」
 しょぼんとする田中を見て、胸がきゅーっとなる。こんなの断れる奴いないだろ。
「いやいや、撮る、撮りたいです!」

 [ハイ、チーズ]
 [パシャ]

「プリクラって一回でこんなにたくさん撮るんだな。知らなかった」
 俺は今の撮ったプリクラデータに落書きする田中に言った。色んなポーズとか請求されて、意外と面白かった。まぁほとんど田中の事ばかり見てたから、ちゃんと撮れているか不安は残る。
「そうなんです。スマホで自撮りとかとは違った雰囲気で、良いですよね。私今日は、絶対ここでプリクラ撮ろうって決めてたんです」
 はいっ、と印刷されたプリクラを半分に切って渡された。そこにはカメラ目線を外した俺と、今までに見た中でも最高級の笑顔の田中が写っていた。
「わがままに付き合ってもらって、ありがとうございます。さ、帰りましょう!」

 俺達はホームに立ち電車を待った。電光掲示板に示された到着時間はもう過ぎているんだが、なかなか電車が来ない。それに、何だか駅員がざわついている。
「何かあったんですかね。周りがざわついています」
 田中も気付いていたようで、辺りを見渡す。すると駅員が大きな声で注意を引いた。
「皆さん、落ち着いて聞いて下さい。渋谷駅内に爆弾が仕掛けられた可能性があります。速やかに駅員に従い、駅から離れて下さい。繰り返します…」

「マジかよ」
 俺達は一先ず駅から出た。溢れ出る人波に流され、俺は田中を見失った。改札を出て辺りを見渡すが見つからない。とりあえず電話してみた。
「田中、今どこにいる?」
「えっと駅前の、ひゃっ」
 田中の声が途切れると同時に、俺は背中越しに人とぶつかった。相手も同じように背中がぶつかっていた。その相手は、俺が探している人だった。
「お、こんなところにいたのか。心配したぞ。まさかこんな映画のようなことって本当に起こるんだな。爆弾って、有り得ないだろ」
 俺がら駅を眺めながら状況説明していると、田中は急に笑いだした。
「あはは、先輩ってやっぱりトラブルメーカーの才能あるんですね」
「俺のせいかよ!」
「だって先輩とどこか行くと、だいたい何かあるんですもん」
 確かに。思い返した俺も、自然と笑っていた。二人で過ごす時間がこんなに楽しいなんて。田中も意外と積極的というか、学校では見れない顔が見れて素直に嬉しかった。
 そして俺達は騒ぎが落ち着くまで、とりあえずカラオケで過ごす事にした。

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