いつまでも,いると思うな家に嫁
ファン
「もしかして,私が倒しました?」
こぼれたグラスが私のものであったので心配になり,中村さんに尋ねた。
「いえいえ,実は,私が足を組み替えるときに膝を打ってしまい,そのときにバランスを崩して思いっきり手が当たってしまったのです。恥ずかしい限りです」
頭をかきながら中村さんは言った。
テーブルにわずかに残った水滴を指でなぞりながら,奥へと下がったトオルさんのことを思う。せっかく作ってくれたのに,申し訳ないことをしたな。
しばらくすると,ほのかにニンニクの香りがするピザを持って厨房からトオルさんが出てきた。
「お待たせしました。今日は少しだけ味を変えてみました。お口に合うといいのですが」
「すごい! 夏野菜が入ったのですね。それに,スライスしたニンニクも載ってる! もう美味しい!」
「まだ食べてもないのに,早いなあ」
ここのファンだから,と小さい声で言い,その声をかき消すように急いでピザに手を伸ばした。自分で発した声に自分で顔を赤らめている。何をしているのだろう,私。
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