いつまでも,いると思うな家に嫁

文戸玲

ごちそう


 用を足して洗面台の鏡の前に立つと,頬がほんのり赤くなっていた。普段からお酒は飲むし,二日酔いにもあまりならず顔に出ることもほとんどない。お酒が飲める体質だと自負していたが,今日は体がアルコールに反応しているのだろうか。そんなに飲んでいるわけでもないから,なにか気持ち的なものがすくなからずえいきょうしているのかもしれない。少なからずとも,この気持ちは不快なものではない。
 洗面台に手を出すと泡状のせっけんが出てきた。それを水で湿らせてから丁寧に指先から手首までを洗う。水で流すと,ほてった体と冷たい水が混ざり合って頭の中がすっきりとしてきた。
 今日もピザを頼もう。少し間隔が空くと同じラーメンを求めて行列に並ぶ男の人の気持ちを今なら理解できそうだった。
 お手洗いから出て,カウンターへと戻ろうとすると,トオルさんと中村さんが慌ただしそうにカウンターの上を綺麗にしていた。

「ごめんね。少しお酒が回っちゃっていたのかな。手元が狂って,飲み物をこぼしてしまいました。すぐに綺麗にするから」
「いえいえ,こちらこそ机を整理もせず,倒れやすいところにグラスを置いていてすみません」

 手際のいい二人の動きでカウンターはすぐに片付いた。もともと飲み物とナッツぐらいしか机の上に敷かなかったが,トオルさんがサービスをすると言って新しい飲み物と食事を頼んで良いことなった。

「そんな・・・・・・。じゃあ,私の大好きなピザをいただけますか?」
 
 少し気兼ねはしたが,ミュージカルで歌詞が飛んだ主演のような顔をしてこちらを見るので,お言葉に甘えることにした

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