いつまでも,いると思うな家に嫁

文戸玲

スモーク

 スモークの香りと共にプレートが目の前に差し出された。石のような質感をしたプレートは洗練されていて高級感がある。きっとこの人は食器にもこだわりがあるのだろう。こんな食器に手料理を並べたら私みたいな下手くそが作っても見栄えは良くなるかもしれない。今度,雑貨屋さんで食器でも見ようと思った。
 細長いプレートにはチーズ,ししゃも,ベーコンがそれぞれ二つずつ並んでいた。手作りの燻製に
興味を持った私は目で味わうようにして眺めた。匂いも食欲をそそられるが,燻すとこんなにも芸術的な食べ物に生まれ変わるのかと見入ってしまう。チーズのような端正な形をした食品でも,よくスモークされるところと双でないところがあるらしく,色の変化の仕方に微妙な違いがあった。味にどのような影響があるのだろうか。

「今までなんとなく目にしていましたが,見た目もおもしろいです。いただいても良いですか?」
「もちろん」

チーズをつまみ,口へと運んだ。芳醇な香りが口の中に広がって鼻から抜け出る。適度な弾力で外側は膜を保ったまま中は柔らかい。おいしい。
 バーテンダーはチーズを食べる私をじっと見つめていた。そのことに気付いた途端,頬が赤らむ。

「食べているのを見られると恥ずかしいです」
「失礼しました。お口に合うかなと気になりまして」
「とってもおいしいです。今までで一番かも」

その言葉に嘘はなかった。ただ,バーテンダーの満足げに目尻にしわを寄せたのを見て,ジントニックのおかわりを頼んだ。

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