いつまでも,いると思うな家に嫁

文戸玲

友の声


「なーに浮かない顔をしてるの」

「よっ」と言いながらカウンター席に座っていた私の隣に腰掛けた。キャビンアテンダントをしている夏妃は人の懐に入り込むのがうまくて、誰とでも打ち解けられるタイプだ。私も彼女のことが好きでよく一緒にお茶をしたり何気ないことでも近況報告をする中だ。
 きっと私は今ひどくさえない顔をして,カウンターからの目の前にあるガラス戸から日中の雑踏を眺めていた。その顔を見つけてカフェに入ってきたのかも知れない。今も,フランクに話しかけては着ているものの何に悩んでいるのかをずかずかと聞いてきたりはしない。そういう繊細さも持ち合わせているのだ。
 夏妃になら話せるな、と思った。

「うまくいってないんだよねー。なんか、向いていないかも」
「えー、なんか前の旦那と正反対って言ってたのに。まあ,他人同士が生活するんだから難しいよ。私は一週間と持つ気がしない」

何のことかをはっきり言わなくても、こうして通じ合える。この関係性がたまらなく気持ちいい。初めて会ったのは婚活パーティーだった。その日、私達は男一人とも連絡先を交換しなかったのにもかかわらず、こうして気の置けない友達を手に入れた。人生どこに幸運が転がっているか分からないものだ。

「それがさ、性格はちがうんだけどさ。私って意外とだらしないのかな。自分がだめ人間だって思っちゃうくらい彼が几帳面で、息が詰まっちゃう」
「それは笑っちゃう。前の旦那はあんたの几帳面さに窒息死してたけど、その気持ちが分かって良かったじゃない」
「ほんとにそれなんだよ。完璧ってのも困ったものよ」

笑いながら話が出来た。久しぶりに笑えた気がする。今日は外に出てきて良かった。
 昨日のことも続けて話した。私はどこかで吹っ切れていない。それも聞いてもらおう。



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