いつまでも,いると思うな家に嫁

文戸玲

ベッドの中で私は涙をぬぐった



 いつもはベッドの中で少しだけ会話をして,その会話を楽しみながら私の体をむさぼってくる彼。今日はそんな落ち着いた時間はなかった。掛け布団をはぐるや否や,私の乳房を掴みながら覆いかぶさってきた。
 こんなのは初めてだった。だけど,どこかで今日はそんな気もしていた。事実,私は彼との別れを心の中では考えていながらも,今日は抱かれるつもりでいた。彼との別れを決めきれない訳でもなく,性欲にまみれているわけでもなく,ただ彼に抱かれると気持ちいい。彼に抱かれている私が好きなのだ。別れてまでそういう関係でいるつもりは毛頭ない。ただ,今は彼に抱いてほしい。
 矛盾した気持ちの中で彼とのことを考えていると,唇が首元を張ってきた。途端に鳥肌が立つ。しかし,これが不快感からくるものではないことは分かっている。私は,求めている。
 彼の顔が喉元から胸へときた時,彼は体を起こして私のパジャマを脱がしに来た。私は抵抗しなかった。あっという間に私の上半身は露になった。
 彼は再び身体を私に重ね合わせ,首元に唇を当てた。右の手で私の左の乳房を揉みしだきながら,そのまま舌を這わせながら顔が降りてくる。身体がぞくぞくする。たまらない。はやくしてほしい。それでもこのままでいたい。
 おかしくなりそうな感覚の中で,グラスが汗をかいて水滴を垂らすようにじわりと瞳に涙が浮かび,こぼれた。私は彼に気付かれないように,手の甲でそれを拭った。彼の顔が膨らみへと降りてくる。左手は腰の方から下半身の方へと降りてくるのを感じた。

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